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第12話『Re Fog Fin』

「こいつらの事。もういっそ、そういう事にしといた方が変に疑われないだろ」

「だからって何で俺!?」

「お前のが皆が納得するからだ。よ! 色男」

「……覚えてろよ」


 悔しそうな顔をしてどかりと座ったアウルだったが、そこにスワローが大量の肉を持って戻ってきた。


「アウル、来たならすぐ払えって」


 それだけ言ってスワローがカンターを指さした。それを見てアウルはもう一度俺を睨みつけて支払いに行く。


「良い肉って言ってた」

「でかしたぞ、スー」

「うん。スー、でかした」


 慣れた手つきで机に添えつけられている肉焼き機の棒に肉を刺したスワローは、まだ温まってもいないのにグルグルとハンドルを回し始める。


「単純な造りですね。スー、見せてください」

「嫌。今焼いてる」

「この熱量と対象物の大きさから計算して中まで火を通すには三時間以上はかかります。今見せてください」

「嫌。あと中まで焼かない。中は生」

「……嘘でしょう?」

「本当。それが一番美味い。アエトス言ってた」


 愕然とした顔をしているロロにスワローは鼻を鳴らして言うと、ロロが何か言いたげにこちらを見上げてくる。


「モンスターの肉は大体表面さえ焼けば食べられる。魚は駄目だぞ。川も海も寄生虫がうじゃうじゃいるからな」

「海にもですか?」

「ああ、海もだ。なんだ、お前らの時代では違ったのか?」

「ええ。川には寄生虫はいましたが、海には居ませんでした。どうやら生態系が随分と変わっているようです」


 何かを考え込むようにロロが黙り込んだ。そこへようやくアエトスが野菜を持って戻って来る。


「金額見て驚いたよ! まぁ、でもこれぐらいの価値はあるか。さっきの話の事もチャラだ。アエトスの言う通り、そういう事にしておいた方が多分良い」

「だろ」


 たまたまスワローの事に気付いたのがアウルだったから良かったものの、これが別の奴なら俺は既にここには居なかっただろう。それはこれからもだ。


 今回の事で分かったのは、CSPで眠っている奴らは何かの施設で生まれた奴らで、恐らくそこは証拠を隠滅しなければならないような事をしていた場所だったと言う事だ。


 アウルにメッセージを送ってきたのがセントラリオンの連中だったと言う事から、それを隠したがっているのはセントラリオンの奴らで間違いない。


 俺達は無言で子どもたちが無邪気に肉と野菜を焼いているのを見つめながら酒を飲んだ。何か話しても良かったのだろうが、今後の事を考えると呑気にお喋りをしている場合でもない。


 それから俺達は好奇心丸出しの皆からまるで逃げるかのようにホテルを取り、俺の部屋に集まった。


「さて、それじゃあ誰から話す?」

「いや、お前に決まってんだろ。あそこが囮ってどういう事だよ?」

「そのまんまだよ。あの日、招集された連中を殺すための囮って事」

「N504地区の開発の為に学者を集めただけじゃないのかよ」

「最初はそう思ってたけど、あの毒ガスで分かった。あれは罠だ」


 アウルはそう言って深い溜息を落とす。


「お前、何でそんなのに参加したんだ?」

「研究費を盾に取られた。君に見せたメッセージは単なるお誘いのメッセージだけど、もう一通届いてたんだよ。それは脅しのメッセージだ。学者が一番取り上げられて困るのは、いつの時代も研究室と研究費だよ」

「なるほど。つまり、グレイシアに居た学者達は研究費を盾に取られて仕方なく参加したって事か」

「そういう事。研究室の方はどうにかなるとしても、研究費は止められたら終わりだ。個人の財産ではどうにも出来ない。各研究者達を集めて一斉に始末する為の、言わば処刑場だったんだよ」

「それじゃあお前が言ってたマップやら資料ってのは……」

「もちろん罠だ。ただ、あそこにロロが居る事は知らなかったのかもしれない」

「何でだよ」

「あの爆発を見たでしょ? ロロが居る事を知ってたらまずあんな事はしない」

「確かに」


 それはそうだ。何せセントラリオンは多額の懸賞金までかけ、血眼になってCSPを探しているのだから。


「ロロとスーはテストタイプ」

「ん?」

「なに?」


 それまでビーシアンで作ったケーキを夢中で食べていたスワローが、ふと口を開いた。その隣で同じようにビーシアンケーキに夢中になっていたロロも頷いている。


「だから登録されてない」

「何に」

「フォグフィンに」

「何だよ、それ」

「あの施設の名前」


 それだけ言ってスワローはまたケーキを貪りだした。こいつでは駄目だ。俺はロロに向き直ると言った。


「ロロ、あの施設は何なんだ? お前たちはあそこで何をしていた?」

「あの施設は正式にはRe・ Fog Finと言い、より優秀な人間を作るための実験場です。オリジナルは数百人。そこから作られたのが僕達テストタイプ。このテストタイプはその後大量生産されたプロトタイプと違って経過観察に使われるので、各実験には参加させられませんでした。そのため、僕達テストタイプはフォグフィンに登録されていません。と、言う事です」

「お、おお……分かったような分からんような……」

「……もしかしてアエトスは頭が悪いのですか?」


 あまりにも悲しげに言われて思わず押し黙ると、横からスワローが真面目に答える。


「多分スーと同じぐらい」

「それは相当ですね」

「おい、待て。お前よりは多分賢いわ」


 なんて事を言うんだ、こいつは。俺はすかさずスワローの頭にげんこつを落としてアウルを見た。


「つまり今見つかっているCSPはそのフォグフィンに登録されていた子たちって事?」

「恐らくそうです。プロトタイプは全員フォグフィンに登録され、管理されていました。今の世界がどういう状況なのか僕には分かりませんが、眠り子達を集めているのであれば、フォグフィンに登録された者のリストか何かを参考にしている可能性があります」

「だから君達の事は知らなかったって事か。そのリストにはざっくりと全員の居場所が記されているのかな?」

「記されているというよりは、プロトタイプは番号順に世界中のあちこちに分けられていたのです。ですが、恐らくこの長い年月の間に何度も地殻変動が起こり、当時の地図が当てにならなくなってしまったのでは?」

「お前、賢いな。スーと偉い違いだ」


 淀み無くアウルと会話をするロロを見て思わず言うと、スワローが無表情で俺をぽかぽかと殴りつけてきた。


「かもしれないな。でもどうして君たちまで眠らせたんだろうね? フォグフィンに登録されていなかったのなら、なおさら眠らせる必要は無かったと思うんだけど」

「それは僕にも分かりません。テストタイプは僕とスワローしか居ませんでしたから」

「そうなの?」

「はい。優秀な遺伝子を持つ数百人のオリジナルから抽出した遺伝子で作られた一組の男女。それが僕達です」

「……めちゃくちゃエリートって事じゃねぇか」

「そうでもないです。テストタイプは欠陥だらけで、より人間らしいと言われ続けていましたから」

「いや、それで良くね? あとお前ら全然人間っぽくないからな?」


 その言い方だと人間らしさが良くないように聞こえるのだが、どうやらスワロー達の時代ではそうだったようだ。

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