せり上がった地面から出てきたのは二匹のモールリーパーだ。恐らく先日ここらへんで退治された奴らの仲間だろう。二匹は地上に出てきてこちらを睨みつけている。
「モグラのお化けだ」
背中で少女が呟いた。モグラというのが何かは分からないが、とりあえず珍しい獲物だ。
「おい、今から3つ数えたらバイクから下りて振り向かずにあの氷の柱の所まで走れ。いいな」
少女に言うと、少女は頷いて俺の背中からそっと下りてバイクに跨る。
それを確認した俺はモールリーパーを刺激しないようバイクを停めると、ポーチの中から閃光弾を取り出して、小さな声で数を数えた。
「3、2、1、今だ! 走れ!」
俺が怒鳴ると、少女はバイクから飛び降りて一目散に氷柱に向かって走り出した。その足は驚くほど速い。
が、そんな事に感心している場合ではない。俺は首にかけていたゴーグルを嵌めて少女を追いかけようとしたモールリーパーの前に閃光弾を投げつけると、モールリーパーはその場でのたうち回った。
その隙にしっかり調整されて蘇った大剣を取り出し、二匹のモールリーパーの間に割って入ると、それぞれの眉間に大剣を深々と突き刺す。
断末魔の悲鳴を上げた二匹のモールリーパーはすぐさまその場に倒れて動かなくなった。仕留める時は一瞬でやらないとこちらが危ない。何よりも素材に余計な傷をつけたくない。
倒れたモールリーパーの処理をしていると、いつの間にか少女が戻ってきて俺の手元を覗き込んでいる。
「なんだ? お前みたいな女の子が見るもんじゃねぇぞ」
「どうして?」
「どうしてって……嫌じゃないのか?」
「別に嫌じゃない。それは何をしてるの?」
顔は無表情のまま不思議そうに首を傾げて尋ねてくる少女に俺は言った。
「皮剥いでる。これは素材になるんだ。服やら靴やらのな。で、こっちの爪は盾とか武器になる」
「凄いね。今は皆こうやって生活してるの?」
「そうだ。お前らのとこは違ったのか?」
「全然違う。服も靴も誰かが作った既製品を着てた。武器なんてそもそも誰も使わなかった」
「武器を使う必要が無かったのは良い時代だな。けど、既製品だって誰かが作ってたんだぞ。それに使う素材だって誰かが取ってきた物だ。今はそれをしてる奴らが多いってだけの話だ」
「そっか。そうかも」
人口がかなり減ってしまった今の時代、生き残った殆どの人間がこうして生活をしている。むしろ俺なんかにとっては良い時代だ。
剥ぎ取った素材を丁寧に折りたたんでバイクに縛り付けると、モールリーパーを肉塊に変えて麻袋に放り込み、それを少女に斜めにかけさせてバイクに跨った。そんな俺を少女がじっと見上げてくる。
「なんだよ」
「置いていくの?」
「……乗れよ、自分で」
こんな所に流石にCSPの中に眠っていた少女を捨て置く訳にはいかない。俺の言葉に少女はコクリと頷いてバイクによじ登ると、モールリーパーの毛皮の上に腰掛けた。
「汚すなよ」
「うん」
「あとお前の呼び名はスワローな」
「スワロー? ツバメ?」
「ああ。足が早くて小さいからツバメ」
それだけ言ってバイクのエンジンをかけると、スワローは遠慮なく俺にしがみついてくる。
「うん。スワローって呼ばれたら返事する」
「そうしてくれ。それじゃ行くぞ」
1、2度エンジンをふかしてバイクを走らせた途端、地面に入っていた亀裂がまた音を立て始めたかと思うと、あっという間にそこにあったモールリーパーの死骸を飲み込んで塞がっていく。振り返るとそこにはもうクレバスは無かった。