現代で度々話題に上がるCSPと呼ばれる物がある。正式名称はコールドスリープポッド。中に入っているのはもちろん人間だ。ただし、旧時代の。
彼、もしくは彼女たちはこの時代にはとても貴重で重要な人間だ。
何故なら今まで見つかったCSPから出てきた人たちは皆、何かの能力に特化していたからだ。何よりも彼らだけが知っている過去の情報は、この時代の生態系を揺るがすとも言われている。
久しぶりのベッドに寝転んだ俺は、ビオナ(正式名称はビオナビス)を取り出した。
それを枕元に置くと、空間にホログラムのキャスターが現れて今日一日のニュースを流し始める。
『次に、15年ぶりに発見された新しいCSPについてのニュースです。発見場所はウィンターホロウN504地区。発見者はハイエナ。この辺りは過去に二度のモールリーパー(モグラ)の大規模な奇襲により今まで開拓は困難とされていましたが先月、討伐隊の手によって一掃され、新しく開拓を開始した地区でした。N504区からCSPが発見されるのは、これで3体目となります』
「マジじゃん」
今度の奴はどんな能力を持っていたのだろうか。今まで見つかったCSPの中の奴らの情報は決して表には出てこない。その容姿も能力も特徴も何もかも。
だから余計に皆が血眼になって探すのだろう。莫大の懸賞金のかかった彼らの秘めたる能力に憧れて。
「まぁ、俺には関係の無い話だ」
空中に現れたホログラムのメニューの中から最近お気に入りのミュージックリストをかけて俺は目を閉じた。今日は久しぶりに周囲に気を張りながら寝なくて済みそうだ。
目が覚めたら一番にするのはバイクの調整とポーチの中身の確認だ。昨日預けた大剣が戻ってきているかの確認をしなければならない。
ポーチは物質を量子に戻す糸が織り込まれている為、この中に入れた物は全てビオナの中に登録されていく。取り出す時にはビオナに欲しい物を告げるだけでポーチの中に再構築してくれるのだが(大きい物はポーチの外に再構築される)、在庫切れが近づくと本来ならビオナが警告してくれる。
ところが何故か昨日は何も知らせてはくれなかった。
「あの辺、何か磁場狂ってんのか?」
もしくは俺の体調が著しく悪いかのどちらかだ。
ビオナはこの星の磁場を利用して常に充電をしている。そして生体認証でがっつりその個体と繋がっている為、持ち主に何かあればビオナも調子を崩す。
「リヴァイタ行っとくか」
特に何の不調も無いが、急に調子が悪くなるのは困る。
ホテルを出て最地下層まで降りると、何年ぶりかの医療の世話になった。
とは言っても昔のように医者などもう居ない。リヴァイタベッドが置いてあるだけだ。
病室と呼ばれる場所は縦長の円形になっていて、細かく階層が分かれている。その全ての階にベッドが置かれていて、真ん中にはやはり縦長の円形の筒が鎮座していた。
それはいわゆるロッカーで貴重品などはこのロッカーに入れ、そのロッカーと同じ番号のリヴァイタベッドで眠るのだ。程度によって睡眠時間は変わるが、大体の怪我や病気は半日もあれば治る。
「あんまり変な履歴残したくねぇんだけどな」
ビオナは人の一生を管理すると言われるほど持ち主と結びつき、全ての履歴を残す。これはどんどん減っていく人口を増やすために必要な管理なのだと言われているが、そもそも狩りが主流の世界で管理も糞もあるか。むしろ今の俺達はモンスター達に近い生活をしているというのに。
とは言えやはり身体の事は心配だ。俺は適当に空いているロッカーに貴重品を仕舞い、鍵を持って各階層に移動する昇降機に乗り込んだ。昇降機を操作する鍵穴にロッカーの鍵を差し込むと昇降機は縦に移動し、続いて横移動を始める。
あっという間に自分のベッドの前までたどりつくと、俺はベッドに勢いよく転がりそのまま秒で寝落ちたのだった。やはり疲れていたのかもしれない。
俺がアイスピックを出たのは予定よりも3時間と16分程遅れた頃だった。既に日は沈みかけている。
昨日毛皮や牙、食材を売ったおかげで金銭的には潤っているが、いつまでもアイスピックで自堕落な生活をしている訳にはいかない。
「さて、寒いのはもう飽きたしそろそろ南に向かうか」
バイクに跨って胸のホルダーのビオナに南を尋ねると、ビオナから真っ直ぐ南に向かって光線が出た。それに従い俺はバイクを延々と走らせていく。
道中何匹かのモンスターが襲ってきたが、無益な殺生はしない。というよりも、ここで何かを狩った所でまたアイスピックまで戻るのは面倒だ。かと言って荷物も増やしたくない。こういう時はトラックが良かったかもしれないと思うが、その他の利便性を考えたら、やはりバイク一択だ。
南へ目指して走り出してそろそろ二時間。辺りは既に暗くなっている。
「今日はここらへんで一泊だな。ビオナ、トラヴァーズテント」
それだけ言うと、ビオナから軽快な『ビオナ、了解。トラヴァーズテントОN』という音声が流れた。それに連動して腰から常に下げているポーチが構築中の青い光を点滅させる。目の前には地面から積み上がるようにトラヴァーズテントが構築されていった。
トラヴァーズテントは細かい網で出来ていて、その周りの景色を自動的に反映してくれる。細かい網なので中から全ての景色が見える優れモノだが、外が丸見えなので気分的には野原で寝ているようで落ち着かない。
組み上がったテントの中にバイクごと入ると、ビオナの明かりを頼りに昨日作ったハムを焼いて齧る。
まだ冷え切っていないバイクのエンジンでテントの中を温めつつ、どうか凍死しませんようにと祈りながら眠り始めようやくウトウトし始めた頃、ゴゴゴと地鳴りの音が地下から聞こえてきた。
「くそっ! モールリーパー(モグラ)か!?」
地中を集団で移動するモールリーパーは、地下のそこら中に道を作り時折クレバスを作り上げる。そのせいで厄介なモンスターに分類されているが、あいつらの厄介さはそこではない。一番厄介なのは、滅多に地上に姿を現さない事だ。
俺は急いでテントからバイクに乗って飛び出すと、地鳴りの音が聞こえない所まで離れた。
と、次の瞬間、ドン! と大きな音がして地面に亀裂が入ったかと思うと、まるで紙のように地面が裂けていく。
やがて裂け目の広がりが落ち着いた頃、俺は割れ目を覗き込んで口笛を吹いた。
「なかなかの貴重体験だったな。すっげ……どこまで続いてんだ? あっ!」
もう少しよく見ようとかがんだその時、胸のホルダーからビオナがスルリと亀裂に吸い込まれていったではないか。
「……マジかよ」
ただでさえ眠いのに、こんなどこまで繋がっているかも分からない裂け目に入るのか? 今から?
けれどビオナが無いと何も出来ない現代だ。俺は覚悟を決めてバイクに積んでいるロープとピッケルを使って渋々亀裂に入り込んだ。
暗くて狭い縦穴はゾッとする程心もとない。出来ればすぐそこにあって欲しかったが、ビオナはまだ底の方で光を放っている。
「マジか……」
やはり俺は能無しなのかもしれないな。そんな事を考えながら着々とロープを下ろしていくと、やがて足が地面についた。見上げると思っていたほどの深さは無かったようだ。
ホッと胸を撫で下ろし、落ちていたビオナを拾い上げたその時、ビオナの光が目の前にある大きな氷柱を照らし出した。
「……ん?」
俺は目を擦ってもう一度氷柱を凝視した。氷の柱に何かが埋まっていたのだ。