「メリナ? もし元のパーティに戻りたいんなら、僕たちに気は使わなくていいからね? 向こうには妹さんが居るんならなおさらいつでも戻りたいって言ってくれていいから」
「ち、違う! 私は……このパーティが好き……だよ……」
耳を伏せて尻尾をダラリと垂らしたメリナを見て僕は小さく頷いてメリナの頭を撫でる。
「そんな風に言ってくれてありがとう。何か迷ってるんなら頼りないけどいつでも相談して。あ! ラルゴとかは絶対に良いアイディア出してくれると思うよ!」
「お、おいルーカス。止めろよ、照れるだろうが」
「私は? 人脈は皆無ですが、人を陥れる手段なら沢山知っているので相当役に立ちますよ?」
「あら、メリナは女の子なのよ? だったら相談役は私しか居ないでしょ?」
「ぼくも! ぼくも魔王なので大抵のことは出来るかもしれません! いつでも言ってくださいね、メリナ!」
口々にそんな事を言う仲間たちを見てメリナは大きな目に涙を浮かべて笑顔で頷く。
「うん、ありがとう、皆……」
「うん。じゃ、行こっか」
仲間たちが仲良しなのは良いことだ。僕はホクホクした気分で次の街、ルーベルに向かった。
ルーベルに辿り着くと街に入った瞬間あちこちから様々な匂いがした。香水やポマード、化粧品、酒、色んな匂いが混じりすぎてクラクラしてきた僕がふと後ろを見ると、ラルゴは手首に巻いていたスカーフで鼻を覆うようにして頭の後ろで縛っている。
「だ、大丈夫? ラルゴ」
「ん? ああ、獣人だからな。匂いには敏感なんだ。メリナ、お前はだいじょう……ぶ、じゃなさそうだな」
ラルゴの言葉に皆が一斉にメリナを見ると、メリナは可哀想なほど涙目になって両手で鼻を覆っている。
「メリナ、これを使ってください! ぼくのマントで顔を覆えば、匂いも少しはマシです!」
そう言ってエミリオは羽織っていた魔王のマントを取ってバサリとメリナに頭からかけてやっている。
「あ、凄い! 何の匂いもしなくなった!」
「そうでしょう? 魔王のマントは防音、防臭、防虫に特化しているんです! そう本に書いてありました。替えがないので出来るだけ洗濯を避けるためだそうですよ!」
「……魔王が洗濯……」
何となく厳つい出で立ちの大きな魔物が自分のマントをゴシゴシ洗っている姿を想像した僕は頬を引きつらせた。
「そうだとしても一週間に一度は洗濯した方がいいですよ。モテに清潔感は必須です。その点私なんてこの祭服、ちゃんと毎日着替えていますからね!」
「毎日ってお前、ポーチの上限までまさか服やら靴やら入れてるんじゃないだろうな?」
「流石のリュカもそれはないよ、ラルゴ! ね?」
ギルドに登録した時に支給されるポーチには特殊な魔法がかかっている。中に入れられる物には上限があり、その上限はランクによって変わるのだ。入れられる物と入れられない物も存在していて、それぞれの役職に応じてそれも変わる。だからこそパーティを組むという人たちもいる。自分のポーチに入れられない物を入れてもらう為に。
いくらモテたいからと言って流石にそれは無いだろうとリュカを振り返ると、リュカは美しい笑顔を浮かべて言った。
「え? ほとんど衣装ですけど、何か?」
「……」
「……」
「コイツは昔っからそう。自分が白魔法使えるからポーションの類は一切持たないし、体力とか魔力が切れるまで働かないし、そのポーチに入ってんのはほとんど身だしなみグッズよ。はぁ~気持ち悪い!」
絶句した僕とラルゴを横目にアビゲイルは鼻で笑う。そんなアビゲイルをリュカは気にもしない。
「そういう誰かさんだってポーチの中は美容液や化粧品で一杯でしょう? そんな事をしても何も変わらないというのに。無駄な努力をするものです」
ふふん、と言い返すリュカとアビゲイルの間には見えない火花が散っている。
「ま、まぁまぁ二人共! ポーチの中なんて別に見せ合う訳じゃないし! ね! とりあえず食事にしよう。あとメリナ。何か顔を覆う布買おっか。ちょっと怪しすぎるよ」
頭からマントをすっぽり被ってエミリオに捕まりながら歩くメリナはどこからどう見ても不審者だ。
「うん、そうする。これ遮光性凄すぎて私でも何も見えないの。でもエミリオのおかげで助かったよ、ありがとう。もう少しだけ借りててもいい?」
「もちろんです! ぼくがちゃんと手を繋いでいるのでメリナは安心してくださいね!」
微笑ましい二人の会話を背中で聞きながら僕が食事処を探していると、前方から何やら悲鳴が聞こえてきた。
「なんだろう?」
背伸びをして悲鳴が聞こえた方角に視線を向けると、ある一角から真っ黒な煙が上がっている。
「狼煙、でしょうか」
「こんな所で狼煙なんて上げる奴はいないだろ。ありゃ火事だ」