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第25話『お金さえあれば、老後もピカピカ』

 一体魔王とアトラク=ナクアの間でどんな取引がされたのかさっぱり分からないまま、気づけば通路への道を塞いでいた糸が無くなっていた。


「取引完了です! ここを出ましょう! それではアトラク=ナクアさん、元気な赤ちゃんをたくさん生んでくださいね! あと、ここは廃坑になっているので、魔界に戻ることをおすすめします!」


 そう言ってエミリオが手を上げると、アトラク=ナクアも器用に足を一本持ち上げて振っている。


 どうにかアトラク=ナクアの広場から脱出した一同は、大きな安堵の息をつく。


「はぁ……気味悪かった」

「そんな事言ってはいけません! 足が八本あるだけで、顔は美人さんでした!」

「どんな美人でも体が蜘蛛だから余計に気持ち悪ぃんだよ……ああ、バブちゃんには分かりませんかね、この感覚」

「バブちゃんじゃありません! あ、それとこれ、アビーさんに」

「あら、なぁに?」


 エミリオが差し出した巾着袋を受け取ったアビゲイルは中を開いて顔を輝かせた。その勢いでエミリオを抱きしめ、また胸で絞め殺そうとしている。


「嘘でしょ⁉ 金塊じゃないのっ! くれるの⁉ 私に⁉」

「はい! アビーさんは金塊が大好きだって言ってましたから! お金があれば老後も安心ですし、お顔がシワシワになってもお金があればピカピカに修正する事が出来るんですよね? アビーさんには絶対必要です!」

「……そ、その通りだけど……何かしら。酷く胸に突き刺さるわ」


 全く悪気の無いエミリオの言葉にアビゲイルが胸を抑えた。そんなアビゲイルを他所に今度はメリナがエミリオを抱きしめている。


「エミリオ! ごめんね、怖かったよね? 私がちゃんと道選ばなかったから……あんなに顔真っ赤にして……ごめんね」


 思わず泣きそうになるメリナの背中をエミリオは撫でて笑った。


「大丈夫です。むしろアトラク=ナクアは喜んでました! 赤ちゃんがもうちょっとで生まれそうなのに食べるものが無くて困っていたんだそうです。あそこは廃坑されてたし、なかなか獲物が来なかったみたいでした。だから僕の持ってる携帯食料を渡したんです! あれは栄養満点ですから! メリナはアトラク=ナクアの命の恩人です!」

「アトラク=ナクアの命の恩人……」


 何とも言えない顔をしたメリナにエミリオは満足げに微笑んでいる。


 意図せずアトラク=ナクアに餌をやっていたのかと思うと何とも言えない気持ちになるが、討伐案件でも無かったので僕はホッと胸を撫で下ろす。何にしても誰にも怪我が無くて本当に良かった。


「この坑道には二度と入りません! 二度と! さ、では出口を探して進みましょう。次また蜘蛛女の部屋に出たらメリナ、私は迷うことなくあなたを生贄に差し出します。蜘蛛女の養分になりたくなかったら、今度は間違えないでくださいね?」


 薄ら暗い笑顔を浮かべたリュカを見てメリナは慌てて頷くと、目を閉じてその場で回りだした。どうやらこれが一番何も考えずに済むらしい。


 グルグルメリナはとても優秀だ。今度こそ坑道の奥に明るい光りが見えて、一行は知らぬ間に足早になる。そして坑道を出た途端、光の束が一行に降り注いだ。


「出口だー!」

「良かった、間違えなくて……」


 喜んだエミリオと安堵の息を漏らすメリナの頭を僕はよしよしと撫でた。


「二人共ありがとう。お疲れ様。ルーベルに着いたら美味しいもの食べようね」


 こんな子どもたちばかりが頑張った事に僕は己を恥じた。坑道では何の役にも立てなかったのが心苦しくて仕方ない。そんな落ち込みかけた僕の心を知ってか知らずか、ふとリュカが言った。


「いや~参りました。あの時ルーカスがあの本の事を思い出さなかったら、完全に詰んでましたね」

「全くだ。危うく子蜘蛛が散乱してえらい目に遭うとこだった。アトラク=ナクアの子どもたちはとにかく食欲旺盛だからな」

「そうなったら私、間違いなくサラマンダー呼んであんた達置いて逃げてたわ」


 悪びれる様子もなくそんな事を言うアビゲイルにリュカとラルゴが白い目を向ける。


「何にしても無事にこうして出られたのですからそのお祝いをしなくては! さ、ルーベルに行きますよ!」

「お前は花街に行きたいだけだろうが。でもああいう場所は情報が集まりやすい。ルーカス、ルーベルに到着したら情報収集をしようか」

「そうだね。早く勇者トワイライト探さないと。ね? メリナ」

「う、うん」


 僕の言葉にメリナは曖昧に答えた。何だか浮かない顔だ。もしかしたら本当はこのパーティーは嫌なのかも知れない。何せメリナはリュカに無理やり仲間に入れられただけなのだから。

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