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第23話『蜘蛛の女王』

「か、可愛いです!」

「可愛い……抱っこしたい……」


 エミリオとメリナは現れた可愛い聖獣、カーバンクルに釘付けだ。


「……凄い……これが召喚士……!」


 遠目で見たことはあったが、実際に目の前で何かが召喚されるのは初めて見た僕は、感動してその場で思わず小刻みに震えてしまった。


「なによ、こんなので感動してるの? あなた達本当に可愛いわね」


 嬉しそうに笑ってアビゲイルは続いてキメラを召喚すると、キメラは待っていました! とばかりに飛び出してきて真っ先にラルゴにスリスリしている。


「こんなに懐いてるんだから、もう連れて歩けば?」


 呆れたアビゲイルにラルゴは眉を釣り上げる。


「そんな事をしてこいつが討伐されたらどうするんだ! 一寸のキメラにも五分の魂だぞ!」

「やだぁ、ラルゴ優しい~! あと、怒った時の筋肉も素敵!」

「……筋肉動いてないよ?」

「しっ! メリナ、言っちゃ駄目! 多分アビーさんはもう筋肉触れたら何でもいいんだよ!」

「筋肉……ぼくもムキムキになったらモテますか?」

「止めときなさい。あそこまでの筋肉を好むのは一般的とは言えません。何事も程々が一番ですよ」

「程々から一番遠い奴が何を偉そうに。よし、それじゃあ行くか」

「うん!」


 僕は背負っていた剣を構え直すと、坑道に足を踏み入れた。ランクRの僕の後をランク高位者がゾロゾロついてくるのも異様な光景だ。


「メリナ、坑道内はとにかく迷路のように入り組んでいます。あなたの勘だけが頼りなので、真っ直ぐルーベルへ向かうよう心がけてください」

「あら、駄目よ! 掘り損なってる金塊目当てに進んでちょうだい」

「え、えっと、えっと……」


 二人のエルフに囲まれたメリナは右往左往して坑道の右側に続く通路を指差した。


「こっちですね。行きますよ」


 しばらく進むと目の前に今にも朽ちそうなトロッコが出てきた。


「ここは掘り尽くされた後ね、きっと。バンちゃん、どっかに砂金でもいいから落ちてない?」 


 アビゲイルが肩に乗っていたカーバンクルに問うと、カーバンクルは首を横に振る。それを見てアビゲイルはがっくりと項垂れた。


「残念。次行きましょ! さ、メリナちゃん次はどっち?」

「え、えっと、こ、こっち……かな?」

「メリナ、こいつらの言うことを聞かなくても別にいいんだからな? 好きな道を選べ」

「そうだよ。メリナは変なプレッシャーは感じないほうが正しい道が選べると思うよ」

「うん、ありがとう」


 メリナは素直にお礼を言ってエミリオの手を引いて今度は真ん中の道を進む。


 自信満々に歩くメリナの後ろをピッタリとついて歩くのは意外にもリュカだ。


「リュカ、そんなにくっつかなくても大丈夫だと思うよ?」


 僕が言うと、リュカは一瞬メリナを見下ろして鼻で笑う。


「いいえ。メリナですよ? 一体どんな道を選ぶか分からないでしょう?」

「そうです! メリナはぼくが守ります!」


 胸を反らしてそんな事を言うエミリオを見て笑いあえたのは、ほんの少しの間だった。


 メリナが選びとった道をどんどん進むと、何だか異様な雰囲気の広場に出た。ここまで何にも会わず金塊も見つからぬまま進んで来たが、どう考えてもこの場所だけ空気の温度が低い気がする。


「ラルゴ、どうしよう……僕、凄く嫌な予感がするんだけど」

「奇遇だな俺もだ。ルーカス、ヤバそうならすぐにメリナとエミリオ連れて部屋から出ろ。いいな?」

「え⁉ いや、ラルゴ達置いていけないよ⁉」

「もちろん俺たちもヤバそうならすぐに追いかける。それじゃあ……行くぞ」


 覚悟を決めたラルゴが広場に一歩足を踏み入れた途端、何かが動いた気配がした。


 ハッとして僕がポシェットを漁って簡易松明に火を付けると、目の前に居たのは――。


「おっまえ、本気でポンコツシーフだな! なんでよりによってアトラク=ナクアなんだよっ! 初っ端からラスボスじゃねぇか! 何より最悪なのは俺はこの世で蜘蛛が一番嫌いなんだよっ!」

「ご、ごご、ご、ご……!」


 おそらく謝りたいのだろうが、メリナはもう人間大の大蜘蛛に圧倒されてその場に座り込んでしまった。形は完全に蜘蛛なのに顔が人間でやたらと美人なのが何とも言えないシュールさだ。


「エミリオ! メリナを連れてここから離れて!」


 僕は叫んだが、まるでその言葉に先回りするかのようにアトラク=ナクアの吐いた糸が頭上を通り超えて来た道を塞いでしまう。


「無理です! 蜘蛛さんに退路絶たれちゃいました!」


 それでもエミリオはキメラと一緒にメリナを引きずって部屋の隅に移動した。


「あらあら~大きい蜘蛛ねぇ。ん? あら? あららら? バンちゃんのおでこが反応してる! もしかしてこの蜘蛛がお宝持ってるの⁉」


 アビゲイルが言うと、カーバンクルはおでこの宝石を光らせて頷いた。それを見てアビゲイルのテンションが一気に上がる。

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