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第22話『飾り窓』

「お前も懲りない奴だな! エミリオ、いいか? 飾り窓というのは綺麗な窓を飾ってある訳ではなくてだな、えーと……うーん、その、なんだ。えっとだな……」


 目を泳がせて言い淀むラルゴの後ろからアビゲイルが顔を出した。


「飾り窓っていうのは、女や男を金で買う所よ。リュカがこれだけ喜んでるんだから何となく察しなさいよ」

「アビー! どうしてお前もそんなんなだ! ルーカス! 何とか言ってやってくれ!」

「む、無理だよ! もうこの二人に口で勝てる気しないよ!」

「……他でも勝てないよね?」

「う……」


 案外辛辣なメリナの一言に僕は黙り込む。仰るとおりである。何せ二人共SSランクだ。所詮Rの僕に一体何が勝てようか。


「お……女の人や男の人をお金で買うなんて……そ、そんなの駄目です! 人権はどこにいっちゃったんですか⁉」

「魔王の癖に一番まとも」


 ポツリと言うメリナの言葉に思わず僕とラルゴは頷いてしまったが、エミリオのその一言にリュカとアビゲイルは同時に食いついてきた。


「なんて事言うんですか! 言っておきますがルーベルの人たちは誇りを持ってその仕事をしているんですよ! とてもじゃないですが一晩で満足なんて出来ないぐらい凄い技術を持っている精鋭たちなんですからね⁉」

「そうよ! 皆その道のプロよ⁉ あの街の人達は皆志願してわざわざ厳しいテストにパスしてくるの。それだけ儲かる仕事なのよ!」

「……お前らはどうしてこんな時だけ意見がピタリと一致するんだ……?」


 呆れたラルゴの言葉を聞いてリュカとアビゲイルは互いに顔を見合わせてそっぽを向いている。


「えっと、エミリオが心配したのは無理やりそこで働かされているって思ったからだよね? でも大丈夫だよ。そんな事はもう表では禁止されてるから」

「そ、そうなんですか?」

「もちろんだよ! 昔は酷かったみたいなんだけどね。無理やりとかそういうのも多かったみたいなんだけど、今はもうそういう時代じゃないよ。皆、自分が本当にしたい仕事をしてる。安心して」


 僕の言葉にエミリオをはようやく安心したように笑顔を浮かべる。


「良かった……無理やり何かを誰かに強要するのは許せません!」

「正義感の塊みたいな事言ってる」

「魔王なんだがな」


 これではいつまで経っても立派な魔王になどなれそうにないが、エミリオの言葉は正しいので否定も出来ない。


「と、いう訳で今後のお勉強の為にもルーベルに向かいましょう!」

「その道中で金なんて掘り当てちゃえたらもっといいと思うの!」

「こっちは俗世に塗れ過ぎ」

「だな。エルフなのにな」


 エルフは高潔な精神を持つと昔から言われているが、それはこの二人にだけは全く当てはまらない。やはり種族がどうこうよりも、その人となりを見るべきだと言うことをこの二人は僕達に嫌というほど教え込んでくれる。


 一行はリュカとアビゲイルに押し切られる形で坑道に向かった。坑道の入り口には推奨ランクがSと書かれていた。


「推奨ランクSですか。うちには3人ほど足りない者が居ますが、まぁ大丈夫でしょう。メリナ、私にくっついていなさい」

「う、うん」

「え! 僕たちは⁉」

「男は自分で何とかしなさい」


 そう言ってメリナに自分の祭服を握らせてリュカはさっさと坑道に足を踏み入れる。そんなリュカを見て僕とエミリオが唖然としていると、ラルゴとアビゲイルがよしよしと頭を撫でてくれた。


「ヤバそうなのが出たら俺の後ろに居ろ。アビー、悪いがキメラを召喚してやってくれないか?」

「いいわよ。そうだ! ついでにカーバンクル召喚しよっと!」


 言いながらいそいそと魔法陣を描き出したアビゲイルに、前を歩いていたリュカがくるりと振り返る。


「おいアビー、弱っちいの召喚すんな。もっと実用的なの喚べよ」

「い・や・よ! 私は金を持って帰るの! こういう場所でカーバンクル召喚しないでいつ召喚すんのよ。うまくいけば金塊の一つや二つ見つかるかも♪」


 金運をかなり底上げしてくれるカーバンクルがいればもしかしたらその願いも叶うかもしれないが、それ目的でカーバンクルとわざわざ契約しているアビゲイルを見てラルゴが渋い顔をする。


「ちっ。ちょろちょろしねぇようにしっかり見張ってろよ。でないとお前と一緒にまとめて地獄に送んぞ」

「簡単に送られる訳ないでしょ! ほ~ら、出ておいで~バンちゃ~ん! お仕事ですよ~。お金い~っぱい見つけてね~」


 アビゲイルの言葉に反応したかのように足元に描かれた魔法陣から緑色の光が溢れ、中から一匹の小型の獣がひょっこりと顔を出した。大きなアーモンド形の瞳でおでこには特徴的な赤い宝石が埋まっている。


「バンちゃん……」


 名前はともかく完全にカーバンクルと契約している理由は金銭目的らしい。ラルゴが渋い顔を通り越して、とうとう悲しそうな顔で召喚されたカーバンクルを見つめている。

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