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第21話『下世話な大人たち』

 宿を出た一行はアビゲイルおすすめのボンドに向かった。昨夜食事に散財した一行は、今やジリ貧である。


「あんたが奢れば良かったのよ。どう考えてもこの子達が飲んで食べた倍飲んでるんだから」

「奢る? 私が? 何故野郎どもに奢らなければならないんですか。冗談は顔だけにしてください」

「失礼ねっ! 私は高等学校時代、ずっと美女コンで優勝してたわよっ!」

「ははは、能天気でいいですね。あれはあなたが怖くて仕方なく皆あなたに投票してただけですよ」

「美女コンって何ですか? お祭りですか?」


 頭の上で言い合いをするリュカとアビゲイルの話を聞いていたエミリオがにこやかに振り返る。


「えっと、美女コンって言うのはね、美女ばかりを集めたコンテストらしいんだ。誰が一番美人かを競うコンテストだって聞いたよ。それにしても、エルフの高等学校にはそんなのあるんだね」


 それぞれの地域に棲み分けている表の世界では、どうやら学校も全く違うようだ。


「ええ。エルフはとにかく歴史が古いので、色んな知識の宝庫なんです。それこそ高等学校だって世界の果ての向こう側から取り入れたそうですよ」

「世界の果ての向こう側って本当にあるの?」

「あると言われていますね。誰も行ったことがないのだから証明のしようもないですが、アビーは知っているのでは? あなたはよく境界に行くでしょう?」

「そうねぇ。私も世界の果ての向こう側には行った事ないけど、召喚獣は大抵そこ出身だからあるんじゃない?」

「何だか面白そうな所です! アビーさんが行くのはどんな所なんですか⁉」

「どんな所……う~ん……広場よ。牧場みたいな。そこに召喚獣がフラっとやってくるから、私達召喚士は契約者の相手をそれぞれするの。ブラッシングしたり一緒に遊んだり、それこそ高位召喚士になると人の形をした神と呼ばれる召喚獣も居たりするからそういう人たちの相手もするわね」

「くっそ羨ましい話だよな。これ全部合法なんだから」


 相手と聞いて心底羨ましそうなリュカを見てアビゲイルは半眼になる。


「言っとくけど、あんたが思ってるような事はしないから。誰がそんな広場でおっぱじめんのよ。馬鹿じゃないの」

「おっぱじめるって何ですか? どういう意味です?」


 始終楽しそうに分からない単語をエミリオは僕とラルゴに問いかけてくるが、エルフ二人の会話はあまりにも下品だ。


「お前ら、エミリオとメリナが居るんだぞ。そういう話は二人きりの時にじっくりやってくれ」

「何を言うんですか! 魔王になろうと言う者が女も酒も知らない⁉ そんな馬鹿な話は無いでしょう⁉」

「馬鹿はお前だ! そういうのは大きくなるにつれて勝手に覚えるもんだ! エミリオはまだ赤ん坊みたいなもんなんだぞ⁉」

「赤ちゃんじゃありません!」


 赤ちゃんと言われて憤慨するエミリオの口を後ろからメリナがそっと塞いで、続いてエミリオにイヤーマフをしてやっている。


「メリナ、よくそんな物を都合よく持ってましたね」

「さ、寒がりだから。耳が冷えると、ぜ、全身寒くなるの」

「流石猫ですね。寒くなったらいつでも言ってくださいね? 私が特別な魔法をかけてあげましょう」

「い、いい。遠慮しとく」


 完全にリュカにおもちゃとしてロックオンされているメリナは、後ずさってそのままラルゴの後ろに隠れた。


 そんなメリナを庇ってやりながらふとラルゴが視線を上げると、500メートルほど先にダンジョンがある。


「おい、あんな所にダンジョンがあるぞ。あれは何ダンジョンだ? エミリオ、看板読めるか?」

「はい! えーっと、あれはダンジョンじゃないですよ! 坑道って書いてあります!」

「坑道? こんな所にか? どこに繋がってるんだ?」

「えーっと、金鉱山跡地みたいですよ。ルーベルって所に繋がってるみたいです」

「金鉱山!」

「ルーベル!」


 エルフ二人が喜んだのを聞いてラルゴが溜息を落とした。


「ルーカス、止めとこう。この二人がこんなに喜ぶんだ。ロクな所じゃ無さそうだ」

「う、うん。その方がいいかも」


 そう言ってチラリとリュカとアビゲイルを見ると、二人共目をランランとさせている。これはもう、何が何でも入る気だ。


「何言ってるの! 金鉱山よ⁉ 入るに決まってるでしょ!」

「そうですよ! そして今日はルーベルで是非一泊しましょう! 何せルーベルは世界一の飾り窓の街ですから!」

「飾り窓? 綺麗な窓が沢山あるんですか?」


 不思議そうに首を傾げたエミリオにリュカがにっこりと笑った。


「それはもう! どの窓もそれはそれは美しいんですよ。見てみたいでしょう? エミリオ」

「はい! 綺麗な窓見てみたいです!」


 喜んだエミリオの腕を慌てて僕とラルゴが引っ張った。

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