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第20話

 水を飲みながら不思議そうにアビゲイルが僕に尋ねてくる。そんなアビゲイルの質問に何故かリュカとラルゴも頷いた。


「それは俺も気になっていたんだ。リュカは酒池肉林だとかふざけた事を言っていたが、お前は何なんだ?」

「え? ぼ、僕ですか? えっと……それはその、ですねぇ……」


 皆の視線を一身に浴びて居心地悪そうにもぞもぞした僕に、ラルゴが申し訳なさそうに言う。


「いや、すまん。別に言いたくなきゃ言わなくていいんだ」

「いや! 別に言いたくない訳じゃないよ、ごめん。あのね、僕にはローズって言う幼馴染が居たんだ。ローズはちょっと変わった魔法を使うって事で、無理やり王様の13番目のお妃様にされちゃったんだよ……それを僕は助けたくて」


 そこまで言って視線を伏せた僕を見て、エミリオは両手で口を覆って、ひぇ! と呻いて青ざめ、メリナとラルゴも悲しそうに視線を伏せて言った。


「そんな……酷い」

「それは酷いな。無理やり連れて行かれたのか?」

「うん。ローズの両親はお金沢山貰ったみたいなんだけどね。それでも最初は手紙でやりとりしてたんだけど、今ではもう全然返事が来なくてちょっと心配なんだ」


 思わず別れ際のローズの何もかもを諦めた顔を思い出したルーカスが涙ぐむと、それを聞いていたアビゲイルとリュカが頬を染めた。


「やだぁ~! 思ってたよりもロマンチック! 攫われたお姫様を助けたいなんて、もうめちゃくちゃ王道じゃない⁉」

「王様ってもう50近くですよね? で、ルーカスの幼馴染って事はまだ17? おいおい、おっさん上手くやりやがったな!」

「……ルーカス。こいつらの言うことは気にするな。エルフの中でもこいつらは恐らくかなりのハズレエルフだ」


 エルフ二人の言葉を聞いてラルゴがコソコソと耳打ちしてくる。そんなラルゴに僕は小さくお礼を言って涙を拭った。


 話を聞き終えたエミリオなど感動したのか震えながら僕を見上げて来る。


「大丈夫です! ぼくが立派な魔王になって皆さんに討伐されるので、必ずローズさんを助けましょう!」

「ははは、頼もしいよエミリオ。ありがとう」

「はい! 頑張りましょうね!」

「エミリオ、何だか言ってる事がちぐはぐだよ?」

「いいんです! ところでメリナはどうして魔王討伐に参加したんですか?」


 首を傾げてメリナを見上げるエミリオにメリナは頬を引きつらせた。


「私? 私はその……妹に……誘われて……」

「妹さんがいるの?」


 アビゲイルの言葉にメリナはコクリと頷く。そしてやっぱり妹と聞いてテンションを上げたのはリュカだ。


「メリナの妹! 可愛いですか? 美少女ですか?」

「ど、どうだろう……私とは似てないよ。私はお母さんが人間でお父さんが獣人なの。でも妹はどっちも人間なんだ」

「……お父さんが違う……って事?」

「うん」


 何だかヘビーな話が始まりそうな予感に僕がゴクリと息を呑んだが、メリナはそれ以上は語らなかった。多分、何か訳ありなのだろう。


「だとしたら急いだ方がいいんじゃないか? 妹さん、心配してるだろう?」


 ラルゴが言うと、メリナは寂しそうに微笑んだ。


「だといいな」


 その一言に全員黙り込んだ。前言撤回する。これは絶対訳ありだ。エミリオなど既に涙ぐんで鼻をかんでいた。まだ何もメリナは語っていないと言うのに!


「だ、大丈夫です! 一緒に旅しながらメリナも願い事見つけるです!」

「うん、エミリオは優しいね。ありがとう」

「はひっ!」


 鼻声で目をうるうるさせているエミリオをメリナが慰めるように撫でてやっているが、エミリオは本当に立派な魔王になどなれるのだろうか。無理ではないだろうか。


「はぁ、何だか皆訳アリねぇ。ラルゴも訳アリ? あなた、絶対に自分のランク言わないものね」


 そう言ってアビゲイルはラルゴのポケットを指差した。そこにはパーティーの登録書が入っている。


「ランクは言ったところでどうせ誰も信じちゃくれないから言わないだけだ。それに俺の願いなんてもっと単純だぞ。静かに暮らせる家が欲しいってだけだからな」

「何ですか、そのおじいちゃんみたいな願いは」

「仕方ないだろうが。突き詰めるとそこに行き当たったんだから」

「ラルゴは家ですか! いざとなったら魔界に引っ越してきますか? 近所にラルゴが居たら楽しそうです!」

「ははは、お前が立派な魔王になれなかったらそうしようか」

「はい!」


 ラルゴは嬉しそうにエミリオの頭を大きな肉球で撫でながら笑う。


「何だかやっぱりおかしなパーティーなのね。ちぐはぐだけど楽しそう」

「そうですよ! このパーティーはとても楽しい所です!」

「う~ん、何か方向性が変な方に行っちゃってる気がするんだけど……」


 思わず言った僕にメリナが無言で頷いた。

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