ただ、僕のパーティーには他の人達のように細かい決まりは無い。そんな事を偉そうに書けるほど僕は強くも有名でも無かったからだ。では何を書いたのか。それはたった一つだけ。仲間同士の喧嘩は厳禁! これだけだった。
もしもこれを破ったらパーティーから抜けてもらう。それが僕のパーティーの唯一の条件だ。
その条件をようやく思い出したのか、リュカは顔を顰めてアビゲイルを睨みつける。
「ちっ。喧嘩は全部終わるまでお預けだ。さあ、どうぞ座ってください、アビー」
「……気味悪いのよ、その話し方。どうにかならないの?」
「この方がモテるんだよ、仕方ねぇだろ」
祭服を翻して座り込んだリュカを見てアビゲイルも渋々腰を下ろした。
それからリュカとアビゲイルが酒をメニューの上から順番に頼み始め、酒に慣れていないエミリオは早々に寝落ちて、酒に弱い僕も脱落してしまってぼんやりした頭で皆の話を聞いていた。かろうじてついて行っていたメリナも既にへべれけで、何故か部屋に飾ってある観葉植物の葉っぱを一心不乱に齧っている。
「おいメリナ、あんま面白い酔い方すんなよ。それは葉っぱで食いもんじゃねぇぞ。腹壊すから止めとけ」
「にゃぁ~?」
リュカは首を傾げたメリナの尻尾を掴んで自分の方に引きずり寄せると、また膝の上に乗せた。どうやらそうしておかないとすぐに葉っぱを食べに行ってしまうようだ。
そんなリュカを見ていたアビゲイルが半眼で言う。
「あんたの好みはほんとわっかりやすいわね。こういう目がおっきな可愛い子が好きなのよ、昔っから」
「そうなのか?」
アビゲイルのジョッキに酒を注ぎながらラルゴが問うと、アビゲイルはコクリと頷く。
「そうなの! 私とは正反対! それはあてつけですか~? 神官様」
「当てつけだなんてとんでもない! あなたこそ私のような優男よりもラルゴのような逞しい男が好きなのでは?」
「それはそうね! 男は筋肉よ! はぁ、いいわねぇ、この上腕二頭筋……堪らないわぁ」
言いながらアビゲイルはさっきからずっとラルゴの腕をさすっている。
「婚約破棄の理由はもしかしてそれか?」
「ええ」
「そうよ」
どうやら二人の婚約破棄の理由はそれだったようだ。 お互い好みからかけ離れすぎていたという事なのだろう。それと間違いなく性格の不一致である。
二人の話によると、両家族は二人の仲がすこぶる悪い事も分かっていて一応婚約させたが、やっぱり破棄すると言われてすぐに承諾したそうだ。
「我々の結婚など端から期待もされていませんでしたよ。ねぇアビー?」
「ええ。むしろしたらラッキーぐらいに思ってたんじゃないかしら。でも仕方ないわよねぇ? エルフの中にタイプの男が居ないんだもん!」
「そうです。エルフは美人はとにかく多いんですが、こういう甘めの可愛いタイプがほとんど居ないんですよ」
「……お前らそっくりすぎて気が合わないんだな、多分」
そんな二人を見ていたラルゴがポツリと言うと、最後の酒を飲み干していた。
結局最後には僕も寝落ちて、意識がないままラルゴに担がれた僕とエミリオは、宿に知らぬ間に戻っていてそのまま同じ部屋に放り込まれた。
僕が目を覚ますと何故かエミリオに抱きつかれていて、それを無理やり引き剥がして食堂に向かうと、そこでは既にアビゲイルとラルゴが仲よさげに朝食をとっている。
「おはよ~二人共」
「おはよう、ルーカス。よく眠れたか?」
「おはよ、ルーカス。朝も可愛いわね」
「あ、ありがとう。うん、ぐっすりだった。久しぶりに夢も見なかったよ」
そう言って席についた僕にラルゴとアビゲイルはにこやかに頷く。
「ところで昨日聞きそびれたんだけど、これからどこへ行くの?」
「メリナが居たパーティーを探してるんだ。まだそこに籍が残ったままだから」
「そうなの? 置いてったくせに酷いわね。それで、なんてパーティーなの? 私も知ってるかしら?」
首を傾げてこちらを見上げるアビゲイルは朝だというのに色気たっぷりだ。
「勇者トワイライトの所に居たらしいんだけど、アビゲイルさん知ってる?」
「アビーでいいわよ。勇者トワイライトってあれでしょ? 募集かけたらすぐに数が集まる人でしょ? 有名よね?」
「そう! すっごく有名な人!」
ようやくまともな人が入ったと喜んだ僕を見て申し訳無さそうにラルゴが頭をかいた。
「すまんな、世間に疎くて。そんなに有名なのか?」
「有名よぉ。まぁどこまで本当だか分からないけどね。私も何回か誘われたけどずっと断ってるわ」
「えっ⁉ アビーさんトワイライトに誘われた事あるんですか⁉」