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第17話

 慌てて口を噤んだ僕とは裏腹に、空気を全く読まないエミリオが自分の後ろから長いロッドをにこやかに取り出す。


「もしかしてこれですか?」

「くそ! この馬鹿が!」


 エミリオが嬉しそうに取り出した杖をすぐさま下ろさせたリュカだったが、アビゲイルはそれを見逃しはしなかった。


「それ! エミリオちゃん、それ見せてちょうだい!」

「いいですよ! はい、どうぞ」


 何の躊躇いもなく杖を差し出したエミリオの頭をとうとうリュカが平手で打った。


「このボンクラ魔王が! 今すぐ城にしょっぴくぞ!」

「ん? 魔王? どういう事? ルーカス」

「えっと、いやその……あの……」


 首を傾げたアビゲイルは僕をじっと見てくるが、いかんせん僕は嘘が下手だ。咄嗟の小嘘なんて思いつく訳もなく、隣のラルゴに縋った。


「お、俺も嘘は苦手なんだが……じ、実はこいつは自分の事を魔王だと思いこんでいるバブちゃんでだな、その、俺たちで引き取って立派に育てようとして……いる?」

「わ、私に尋ねられても困るよ! ひ、拾ったの! 私とエミリオはこの三人に拾われたんだよ!」

「そ、そうそう! 拾ったんですよ! もうビックリですよね~……」


 グダグダでまともな嘘がつけない僕達を見て、リュカは額を抑えて大きなため息を落とした。


「揃いも揃って酷すぎやしませんか。今日日子供でもずっとマシな言い訳を思いつきますよ」

「で、でも最初に口滑らせたの神官様だよ!」

「言いますねぇ、メリナ。はぁ……アビー、本当に聞きますか? ほんっとうに最後まで聞きます?」


 諦めたように言ったリュカに、アビゲイルは個室のドアきっちり閉めて頷き座り直す。そんなアビゲイルの反応を見てリュカはゆっくりと話しだした。


「私達は元々三人パーティーだったんです。ルーカスとラルゴと私。この三人で魔王討伐ダンジョンに挑戦したんですよ」

「魔王討伐ダンジョン? ああ、あれね。王様が直接依頼したって奴」

「そう、それです。ところがダンジョンの途中で仲間に置いて行かれた瀕死のメリナを見つけ、ダンジョン最終層でいよいよ魔王と戦うぞってドア開けたら、立っていたのはコレでした。以上、終わり」


 コレ、と言って指を指されたエミリオは照れたように頭をかいている。


「……あなた説明するの急に面倒になったでしょ? つまり何なの? どういう事?」

「えっと、魔王は僕たちがダンジョンを攻略してる間にどうやら代替わりをしてしまったみたいなんです。なのでエミリオが今の魔王……って事です」

「それをだな、リュカがこうなったらエミリオを魔王に育て上げて討伐しようだなんて言い出して今に至るという訳だ」

「私はこの話聞いちゃったから半分強制的にパーティーに入れられる事になったの」


 良かったのか悪かったのか微妙な所ではあるが、あのまま放置していたら確実に死んでいたメリナだ。そういう意味ではこのパーティーは命の恩人なのかもしれないが、僕だったら絶対に嫌だ。


 全ての話を聞き終えて無言で立ち上がったアビゲイルの腕を、あれほど嫌がっていたリュカが掴んでそのままアビゲイルを後ろから羽交い締めにした。


「言ったでしょう? 本当に最後まで聞きますか? って。最後までこの話を聞いたのなら、あなたはこのパーティーに入るしか未来はありませんよ」

「離してちょうだい! 嫌よ! どうしてそんな面倒そうな事に関わらなきゃならないのよ!」

「どうして? 聞いてしまったからですよ。ラルゴ、あの書類にアビゲイル(エルフ・召喚士SS)と書き込んでください! ルーカス! アビゲイルの指紋でサインさせなさい!」

「嘘でしょ⁉ ちょっと! 止めて! 放してよ! この詐欺神官!!!」

「すまん、許せアビゲイル」

「アビゲイルさん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」


 リュカに言われて慌ててあの紙を取り出したラルゴは、パーティーの名前欄にアビゲイルの名前と職業、そしてランクを追加した。


 その間に僕は赤いインクをアビゲイルの指に塗りたくってラルゴが書き込んだ書類をアビゲイルの指に押し付ける。それを確認したリュカはようやくアビゲイルを放して額の汗を拭い、ジョッキに入っていたビールを一気に飲み干した。


「一仕事終えた後の酒は最高ですね!」

「何が一仕事よ! ふざけてんの⁉ こんなの無効よっ!」

「はあ? ふざけてんのはそっちだろうが。何聞き逃げしようとしてんだ。俺はちゃんと最初に忠告してやっただろうが」

「あんなの忠告じゃないでしょ⁉ その紙寄越しなさいよ!」

「嫌だね。取れるもんなら取ってみろよ。ああ、無理だよな? 召喚士様は召喚獣が居なきゃクソほど役に立たねぇもんなぁ?」

「こんの腐れ神官が! あんたのその人を舐め腐った態度! 今日こそ白黒きっちり決着つけようじゃないの!」

「望む所だ! 表出やがれ!」


 そう言って二人はドカドカと個室を出て行こうとしたので、僕はそれを慌てて止めた。


「待ってください! うちのパーティーは喧嘩禁止です! 仲間同士の本気の喧嘩は無しですよ!」


 パーティーを募集する紙には備考欄がある。そこに細かく募集要項を書き込むのだ。そうしないとたまにとんでもない人が志願してくるとかで、僕も一応書き込んだ。

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