顔も美しいがスタイルもびっくりするほど良くて思わず僕は頬を染めてしまった。
「あなた可愛いわね。私と一緒にこっちで飲まない?」
「え⁉ いや、あの……」
慌てて顔を引っ込めようとした僕の顎を美女の細い指がスルリと撫でたかと思うと、次の瞬間僕は美女の胸の中に居た。
「むぎゅう~」
突然の事に僕が抵抗出来ないでいると、美女の妖艶な声が頭の上から聞こえてくる。
「逃げなくてもいいでしょ? 他にも誰かいるの?」
そう言って美女は遠慮なく個室のドアを開けた。そして次の瞬間、地底から響いてきたのかと思うほど低い声が聞こえてくる。
「嘘でしょ。何でこんなとこに居るのよ、リュカ」
「それはこちらのセリフです。何故あなたがここに?」
「え? え? リュカの知り合い?」
僕は美女の胸からどうにか自力で逃れると、思わずリュカと美女を何度も見比べた。
「わぁ! 綺麗なお姉さんです!」
「足長い……胸おっきい……」
「エルフか。やっぱりエルフは美男美女が多いな」
仲間たちの感想にリュカは小さく舌打ちをして立ち上がった。
「アビー、今私はパーティーの仲間たちと楽しく食事中なんです。どうぞお引取りを」
「何その話し方。虫唾が走るんだけど?」
「今は神官なので」
そう言ってにっこり笑ったリュカの笑顔はいつもの数倍美しく恐ろしかった。
けれどそんなリュカに美女は微塵も動揺しない。それどころか……。
「ま、何でもいいわ。楽しそうね、私も混ぜて。いいわよね? お兄さん」
「え⁉ えっと、僕は別に構いませんけど……その……喧嘩、しないでくださいね?」
「しないわ~! この馬鹿と一緒にしないでちょうだい」
「誰が馬鹿だ、ぶっ殺すぞ!」
「あら、さっそく素が出てるわよ? 神官さま」
「……」
こうして美女はズカズカと個室に上がりこんできて僕の隣に座り込んだ。
「えっと……はじめまして、僕はルーカスって言います。種族は人間、剣士でこのパーティーの一応リーダーです。……その、あなたは?」
「私? 私はアビゲイルよ。見ての通りエルフ。年齢は秘密よ。職業は召喚士なの」
「召喚士! お姉さんは召喚士なんですか⁉」
召喚士と聞いてテンションが上がったエミリオにアビゲイルはにっこり笑って頷き手招きしている。
それに釣られるようにエミリオがアビゲイルの側に行くと、何を思ったかアビゲイルはエミリオの腕を引いて強く抱きしめた
突然アビゲイルの胸に顔を押しつぶされたエミリオは目を白黒させている。
「すまんがあまり強くエミリオを抱きしめないでやってくれないか? エミリオが窒息しそうだ」
そんなエミリオを見かねてラルゴが言うと、アビゲイルが慌ててエミリオを離す。
「あら、ごめんなさい。この子はエミリオって言うの? そしてあなたは獣人? やっぱり獣人族は逞しいわね」
「ああ。俺はラルゴ。戦士だ」
「そっちの子は?」
「私はメリナ。その……獣人と人間の……ハーフなの」
恥ずかしそうに視線を落としたメリナを見てアビゲイルは今度はメリナに手招きをした。
恐る恐る近寄ったメリナはやっぱりアビゲイルに捕まって抱きしめられ、胸で窒息させられそうになっている。
「おいリュカ、何なんだ、この女は。このままじゃルーカスとエミリオとメリナが窒息させられるぞ!」
「……」
ヒソヒソと言うラルゴを無視したリュカは、無言でアビゲイルの胸から窒息しかけのメリナを引き剥がす。そんなリュカの態度に気を悪くする事もなくアビゲイルは手を組んで頬を染めた。
「可愛い可愛い! 皆可愛い! ねぇリュカ、どうしてこんな可愛い子達と旅してる事教えてくれなかったの⁉ 幼馴染なのに!」
「幼馴染⁉ リュカの⁉」
思わず声を上げた僕にアビゲイルはコクリと頷く。
「そうよ。幼馴染で婚約者だったの」
「婚約者⁉ リュカの⁉」
今度はラルゴが声を上げてリュカを見ると、リュカは何故か膝にメリナを乗せて座り込み、目の前にあったグラスの酒を一気に飲み干した。
「昔の話ですよ。とうの昔にそんなものは解消しました」
「どうしてですか? アビゲイルさんこんなにも綺麗なのに! おまけにふわふわでした」
そう言ってポッと頬を染めたエミリオにリュカはフンと鼻で笑う。
「私のタイプではないです。というよりも、同胞はどうもね」
「え! そうなの? 女の人なら誰でもいいんだと思ってた!」
「失礼な! 私にも好みはあります。この女を選ぶぐらいならメリナの方が断然好みですよ」
そう言って指先でメリナの頬を撫でるリュカ。
「ひっ……」
それを聞いてメリナはリュカの膝の上でブルブル震えだすが、それでもリュカはメリナを離さない。
「その子怖がってるじゃない。どうせまた虐めたんでしょ」
「虐めてなど。勝手にメリナが怖がってるだけです。それで、あなたは何故ここに?」
「私は伝説のロッド探ししてたの。レベルは低いのに誰にも踏破されてない幻のダンジョンがあって、そこに伝説のオニキスロッドがあるって聞いたから」
「え、それって……ぶふっ!」
僕が何か言おうとした途端、リュカにメニューを投げつけられた。どうやら黙っておけと言うことらしい