目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報

第14話

「スレイ? スレイってあの傲慢を絵に描いたようなスレイですか?」

「知ってるの? リュカ」

「知ってるも何も、同じ学年でしたから。私と同じ公爵位を持っていてエルフ高等学校でもいつも群れていないと気がすまないような奴でしたよ。それにしても神官になれなかったから賢者名乗ってるんですねぇ。まぁ昔から厚かましい奴でしたから今更驚きませんが」

「……お前とは気が合わなかっただろ?」

「僕もそう思う。リュカ、その人と仲悪かったでしょ?」

「ええ。何故分かるんです?」

「何となくだ。気にするな」

「私が嫌っていたと言うより、私はスレイにいつも勝手に目の敵にされていたんですよ。なぜなら私は全てにおいて彼よりも優秀だったから!」


 どやぁ、と言わんばかりのリュカを見て僕とラルゴは納得したように頷く。


 そうだろうな。嫌われていただろうな。こんなちゃらんぽらんなエルフなど、後にも先にもリュカしか知らない僕とラルゴだ。恐らくリュカはこんな事を言うが、スレイはとてもエルフらしいエルフだったのではないだろうか。


「リュカは優秀だったんですね!」

「ええ、それはもう優秀でしたとも。高等学校も魔法学校も首席で卒業しましたよ」

「魔法学校も首席……神官様、本当は凄い人なんだ……」

「今まで何だと思ってたんですか?」


 にっこり笑ってメリナを見るリュカを止めに入ってメリナが持っていた地図を広げて丸がついた街を指差した。


「に、西って言ってたよね? ここじゃないかなぁ! 次に勇者トワイライトが向かうのは!」


 わざとらしく言う僕にラルゴとエミリオが地図を覗き込んで頷いた。


「本当だ! 丸がついてますね! えっと、ミフトって街ですか?」

「うん。ここはね、お酒の街だよ」


 ミフトと言えば有名な酒の街である。それを聞いてリュカが目を輝かせた。


「ミフト⁉ 行きましょう。すぐさま行きましょう」


 そう言って祭服を翻したリュカは意気揚々と歩き出した。何せ酒好きのリュカだ。ミフトと聞いては少しもじっとしていられないらしい。


 どれぐらい歩いただろうか。ミフトに到着した頃にはすっかり日は落ちていた。


 けれど酒の街ミフトはこの時間からが活動時間だ。


「さて! ではどこに入ります? ミフトは大体どこに入っても食事は美味しいですよ!」


 到着するなりすぐさま食事処に入ろうとするリュカをラルゴが止めた。


「待て、まずは宿が先だ。こっちには子供が三人居るんだぞ」

「待って、もしかして僕もその中に入ってる⁉」


 思わず声を荒らげた僕にラルゴが申し訳なさそうに頭をかいた。


「すまん、つい。許せ」

「もう! まぁ……どっちみち量は飲めないけど……」


 酒を飲める飲めない以前に単純に酒に弱い僕はしょんぼりと頭を下げる。


「メリナはどうです? 飲めます?」

「私は普通、だと思う。多分」

「エミリオは?」

「飲んだことないです! 美味しいですか?」

「ああ、そっかエミリオは何せバブちゃんですもんね。いいでしょう。今日は私があなたに酒の何たるかを叩き込んであげましょう。魔王たるもの出された酒は全て飲みきるぐらいの気概がないといけません」

「いつ誰が決めたんだ、そんな事。お前の勝手なイメージで魔王を作ろうとするな。いいか、エミリオ。酒は嗜む程度が丁度いいんだ。飲みすぎて酔っ払って寝首をかかれるのは嫌だろう?」

「嫌です」


 真顔でそんな事を言うラルゴにエミリオも真顔で答える。何だかだんだん二人が親子のように見えてきた。


「という訳だ。まずは宿探しが先だ。いいな?」

「仕方ありませんねぇ。まぁこんな埃だらけで酒など飲めませんものね。やはり酒を飲む前はきちんと体を清めなければ」

「お前の中で酒は神にも等しいのか?」

「多分リュカの中でお酒と女の人は神様よりも位が高いんだと思うよ」


 何せこの旅が始まってからというもの、リュカがただの一度も神への祈りをしているのを見たことがない。神官だと言うのに!


「恐らくそうなんだろうな……こんな奴が神官だなんて神への冒涜だろう、どう考えても」

「それを今更言っても仕方ないって。さ、じゃあ宿探そ!」


 とは言えあまり高級宿には泊まれない僕たちは、普通よりも少しだけランクの低い宿を取って風呂に入り、そのまま街に繰り出した。ちなみにキメラは宿の部屋でお留守番である。


「さ~て、どこがいいですかね~。そうだ! メリナどこか良さげな店を当ててくださいよ、あの宝箱の時みたいに」

「えっ⁉ そ、そんな事した事ない……」

「大丈夫大丈夫! ほら、ぐるぐる回って!」

「え? ちょ、ま、待って! 目が……目がまわる……」


 突然の無茶振りに驚く間もなくメリナはリュカにぐるぐるとその場で無理やり回転させられている。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?