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第13話

「お世話までするんですか⁉」

「うん。流石に召喚した時は何かあげないとね。それに大半の召喚士は普段から常にブラッシングに行ったり一緒に遊んだりしてるって」

「それは楽しそうです」

「楽しくはないと思うぞ。エミリオがどんなものを想像してるのかは知らないが、召喚獣はこぞって気位が高いからな。ブラッシングも遊ぶのも命がけだと聞いたぞ」


 目を輝かせたエミリオにラルゴが言うと、エミリオは頬を引きつらせた。一体どんな動物を想像していたのか謎だ。


「そうなんですか……戦ってない時に命がけなのですね……それは高いかもしれません」

「そうなんだ。だからなかなかパーティーで召喚士は雇えないんだよ。憧れるけどね」


 鮮やかにフェニックスやグリフォンなどを召喚する召喚士の姿はそれはもう格好いい。特に見たこともない世界の神様を召喚してしまうような高位召喚士など、震えるほど憧れる。まだお目にかかったことはないが。


 あの勇者トワイライトのパーティーにも高位召喚士は居なかったはずだ。それほど召喚士は珍しい。


「凄いんですねぇ、召喚士!」

「格好いいよね。凄い人になると一人で何人も召喚しちゃうらしいよ」

「えー! 一人で沢山呼べるんですか⁉」

「うん。だから高位召喚士は大抵どこのパーティーにも入らないよ。ソロが多いんじゃないかな」

「ソロ……凄い……」

「いえ、魔王のあなたであればソロとかそんな次元ではない気もしますけどね。召喚士よりもエミリオの方がずっと珍しいですよ」

「確かに……」


 何せ世界でたった一人の魔王である。それこそエミリオが魔王の本気を出したら、あっという間にこの世界など支配出来てしまうほどの魔力が彼にはあるはずなのだ。今の所そんな片鱗すら見られないが。


「何にしても召喚士は却下です。あいつらが入るなら私は抜けます」


 言い切ったリュカにラルゴと僕は思わず顔を見合わせた。リュカが自分から抜ける? それは……はっきり言ってありがたいではないか!


 そんな心の声が漏れたのか、顔を見合わせた僕とラルゴを見てリュカは嫌味なほど綺麗な笑顔を浮かべた。


「な~んて私が言う訳ないでしょう? もし召喚士なんか入れやがったら、そいつがもういっそ殺してくれって懇願してくるまでいびり倒してやるから覚悟しとけ! はははははは!」

「……」


 腰に手を当てて高笑いを始めたリュカを見て、僕とラルゴは今度は違う意味で顔を見合わせる。

 どうしてリュカはこんなにもセリフがいちいち悪者っぽいのだろうか。曲がりなりにも神官だと言うのに。


「これがぼくの師匠……勉強になります。こうかな? ははははははは!」


 まだ笑っているリュカを見てエミリオが同じように腰に手を当てて笑い出した。その姿ははっきり言って可愛いの一言に尽きる訳だが、このままではエミリオが随分と安っぽい魔王になってしまう事必須だ。


「神官様のマネはさせない方がいいと思う」

「奇遇だな。ダンジョンではああ言ったが、こいつの真似は駄目だ」

「うん、だね」


 ぼそぼそと話し合う僕達を他所にまだ二人は笑っていたが、ふとここでリュカが笑うのを止めた。

「ところでこのキメラ、どうします?」

「そうなんだよね。困ったね」


 僕はキメラの頭を撫でながら言うと、キメラは身を捩らせて喜ぶ。


「とりあえず次の街まで行きましょうか。縄でもかけておけば無理やり引き連れて歩いているように見えるのでは?」

「そうだな。それしかあるまい」

「可哀相だけど仕方ないよね。でもメリナの案が一番いいかもね。はぁ、僕に召喚魔法が使えたらなぁ」


 言いながらキメラの首にロープをかけると、それでもキメラは大人しくしている。エミリオではないがとても良い子だ。


「とっても良い子です!」

「うん。ごめんね、ちょっとの間我慢しててね。何か手を考えるからね」


 僕の言葉を理解しているのかいないのか、キメラは嫌がる素振りを見せる事なく大人しくついてきた。


「ところで次の街までどれぐらいなんです? 誰かこの辺りの地図は持ってないんですか?」


 前の街でトワイライト一行はざっくりと西に向かったとだけ聞いたのだが、西と言っても広い訳で――。


「私、持ってる。地図係だったから」


 そう言ってメリナがポシェットから既にボロボロの地図を取り出した。その地図には至る所に丸がついている。


「こりゃ分かりやすくていいな。トワイライトってのは随分計画的だったんだな」

「うん。計画を立てるのはトワイライト様と賢者のスレイ様だったの」


 メリナの言葉を聞いてリュカが、ん? と首を傾げた。

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