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第12話

そんなキメラを見て呆れながらリュカが言う。


「エミリオ、あなたに懐いてるんじゃないです?」

「あ、魔王だから⁉」


 僕が言うと、キメラは首を振ってラルゴにスリスリと身を寄せる。


「違います! ルーカスじゃなくてラルゴに懐いてるんです! この子女の子なので、自分よりも逞しいオスに初めて会ったって言ってます!」

「え、でもどう見ても頭はオスライオン……」

「細かい事は気にしちゃいけません! キメラってそういう魔物です!」


 自信満々にそんな事を言うエミリオにラルゴが引きつった。そしてそれを聞いてリュカは大爆笑している。


「いいじゃないですか! お似合いですよ、とても!」

「心にも無い事言うな! 俺は二足歩行だ! 四足じゃないぞ!」

「あ、そういう区別の仕方なんだね」


 どうやら獣人族は何足歩行かで相手を決めるらしい。不思議な分け方だ。


「ど、どっちにしてもこの子、このまま付いて来ちゃうんじゃ……」


 メリナの言葉に一行は困ったようにキメラをじっと見つめた。


「いっそ、キメラもパーティーに入れます? 職業キメラって書いて」

「それは種族だろうが。そもそも表の世界をキメラが闊歩してたらすぐに討伐されるぞ。下手したら俺たちまで」


 ラルゴの尤もな意見に一行はまた黙り込んだ。そんな中キメラだけは嬉しそうにラルゴの尻尾にじゃれついている。


「……人懐っこすぎない?」

「これ本当にキメラ? 私にはただの猫に見えるんだけど」

「こんな気味の悪い猫は居ません。無理やり魔界に送りますか?」


 そう言って杖を構えたリュカを見て僕は慌てて止めた。


「ま、待って待って! 可哀想だよ、こんなにラルゴの事好きなのに」


 そう言ってちらりとキメラを見ると、キメラはまるで子犬のような目でラルゴを見上げている。猫科のくせに。そんなキメラにラルゴは苦笑いだ。


「ではどうするのです?」

「あの……あのね、召喚とかすれば……いいんじゃないかな?」


 リュカが怖いメリナはエミリオの後ろにしゃがみこんだ状態で言った。ぱんぱんに膨らんだ尻尾を見てエミリオが背伸びをしてメリナの頭をよしよしと撫でてやっている。


「どうやってです? この中の誰が召喚魔法など使えるのですか? 召喚士でもないのに」

「そ、それは……そうだけど。キメラって強いから、連れて歩けなくても仲間に居たら心強いかなって……思って……」

「召喚士ってなんですか? どんな事をする人なんですか?」


 召喚士と聞いて目を輝かせたのはエミリオだ。そんなエミリオに僕は召喚士について説明をした。


「ここではないどこかの世界から色んな生き物を召喚する人たちの事だよ。それは聖獣だったり神様だったり色々なんだけど、そんな生き物と契約を結んで戦いの時に呼び出すのが召喚士なんだ」

「すごいですね! 格好いいです、召喚士! このパーティーには召喚士は入らないんですか?」

「召喚士はね、中々こちらから声をかけるのも躊躇っちゃうんだよね」


 たまに召喚士がいるパーティーもあるが、職業の中で群を抜いて才能が物を言う部分が大きいのが召喚士だ。


「どうしてです?」


 エミリオの質問にリュカが鼻で笑った。


「簡単な事ですよ。召喚士はこの世界でも数が少ない。それ故こぞってプライドが高いんです」

「そうなんですか?」

「そうです。あいつらはほんっとうにいけ好かない。何が召喚士だ。調子に乗りやがって。召喚獣操ってねぇで自分で戦ってから文句の一つも言いやがれ!」

「リ、リュカ、素が出てるよ!」

「おっと、これは失礼。そんな訳で召喚士というのはすこぶる性格の悪い人たちの事を言うのですよ、エミリオ」

「……神官様も中々だと思う……」

「何か言いましたか? メリナ」

「な、何にも言ってない!」


 ギロリと睨まれたメリナは今度は僕の背中に張り付いてきた。怖いなら余計な事を言わなければいいのに、どうしても言いたかったのだろう。気持ちは分かる。


「召喚士の方は性格が悪いのですか……それはこのパーティーには向いていないかもしれないですね……」


 しょんぼりと項垂れたエミリオがこのパーティーの事をどんな風に思っているのかは謎だが、少なくともそこら辺の召喚士よりはリュカの方が性格は悪い。


「あのね、エミリオ。召喚士の性格が悪いかどうかは置いておいて、召喚士はとにかく高いんだ。パーティーって言うのは基本的に報酬は山分けなんだけど、職業によって分け前が変わるんだよ。僕みたいな剣士とラルゴみたいな戦士、メリナのシーフとかはそんなに変わらないけど、リュカの神官やエミリオの魔道士なんかは僕たちよりも高いんだ。そしてそれよりもさらに上なのが召喚士なんだよ」

「何故です? 自分では戦わないんでしょう?」

「まぁそうなんだけどね。召喚士は少し特殊で、まずはテイマーって言う免許がいるんだ。このテイマーっていうのが曲者で、元々持って生まれた召喚獣に懐かれやすい人でないと凄く難しいんだよ。そこからさらに召喚のための勉強も必要になるし、呼ぶだけ呼んで、はいさよならって訳にはいかないから普段から契約した召喚獣を色々とお世話するのにお金もかかるんだ」

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