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第11話

 エミリオがピカピカの宝箱に手を触れると宝箱は自然に開いた。


 その途端部屋が光って思わず目を閉じたが、目を開けると宝箱は無くなっていて代わりに大きな宝石がついた長い杖が床に転がっている。


「メリナ! 当たりですよ! 大当たりです! 見てください!」


 エミリオは杖を拾ってまだ目を閉じているメリナに駆け寄った。その声を聞いてメリナは驚いて目を開けて息を呑む。


「ほら、あなたはやはり勘に頼った方が良い」

「凄いよメリナ! こんな数の中から一回で当たりを引くのはSSランクのシーフ並だよ! いや、それでも難しいと思う!」

「ああ、これは本当に凄いことだ。もっと胸を張っていいんだぞ、メリナ」

「あ、う……えっと……その……」


 誰かにこんなにも褒められた事がないのか、メリナはしどろもどろになりながら自分の尻尾を弄る。


 そこへ自分の背丈よりも大きな杖を持ったエミリオが杖を引きずりながら戻ってきた。


「メリナ! 見てください! とても綺麗ですよ!」


 どうだ! と言わんばかりのエミリオにリュカは薄く笑いかけて杖を見ている。


「へぇ、レベル10の割にいいロッドですね。私も見たことが無いのでそこそこ珍しいんじゃないでしょうか」

「これ、レベル10のダンジョンにある武器じゃないと思うんだけど……」


 エミリオが持っているのは握り拳ほどの大きさの黒曜石がついた杖だった。


 華美ではないが、真っ暗な夜空に白い星が散ったような模様の大きな黒曜石がついていて何だかただの杖なのに威圧的だ。


 それについてはラルゴも同じ意見のようで、エミリオから杖を受け取ってしげしげとそれを眺めて首を傾げている。


「ほんとだな。鑑定してもらわないと詳しい事は分からんが、少なくともこのサイズの宝石がついているのはレベル10ではありえない。ちょっと次の街の蔵書館で武器名鑑見てみるか」

「だったら鑑定してもらえば早くない?」


 僕の言葉にラルゴとリュカが同時に首を振って怖い顔をして詰め寄ってきた。


「もし、もしですよ? とても貴重な杖だったとしたら? 価値のわからない我々を騙して安く買い叩かれる可能性もあるでしょう?」

「そうだぞ、ルーカス。世の中には悪い大人が五万と居るんだ。親友だと思っていたのに裏切られた、だなんてよく聞く話だろ? 貴重な物と金とサインはどんなに仲良くても絶対に貸しちゃ駄目だ」

「ふ、二人共一体どんな人生送ってきたの……?」


 真顔でそんな事を言いながら詰め寄ってくる二人に言いながら、僕は後ずさってメリナは耳を寝かせエミリオは何を想像したのか震えている。


「それは一言では語れませんねぇ。そんな訳ですから、まずはラルゴの言う通り武器名鑑で調べましょう。鑑定に関しては信頼がおける人を頼るべきです」

「その通りだな。で、誰か信頼が出来る鑑定士を知ってる奴いるか?」


 そう言ってラルゴが仲間たちの顔を見渡すと、全員が互いの顔を見て首を横に振っている。


「……揃いも揃って鑑定士の一人も知り合いが居ないとはな……」

「そういう自分はどうなんです?」

「居るには居る。だが……俺は今はそこへは行けない。お前こそ長く生きてるんだから一人ぐらい居ないのか?」

「ふふ、おかしな事を! 私にそんな人脈があるとでも?」

「自慢にならんっ! ルーカスはどうだ?」

「ぼ、僕はしがない剣士なので。ていうか、そもそも鑑定が必要な武器を引き当てた事がありません」


 何度も言うようだが、運に見放された僕だ。未だかつて鑑定が必要な武器などお目にかかった事もない。


「わ、私も無理だよ⁉ ずっと……ぼっちだったし……」

「大丈夫、ぼっちのあなたとバブちゃんのエミリオには端から期待していません」

「……あんまりじゃない?」

「悔しいです!」


 一応答えたのにリュカの酷い返答にメリナはしょんぼりとしてエミリオは憤っている。


「まぁまぁまぁ! とりあえず次の街でその武器名鑑見て鑑定士さんはおいおい探すとして、まずはメリナの籍を抜かないと!」


 何だか雰囲気が悪くなってきたので慌てて言うと、リュカとラルゴは思い出したように頷く。


「そうでしたそうでした。まずはメリナの元パーティーを探さなければ。何でしたっけ? 何だか黄昏みたいなイキった名前の人」

「……勇者トワイライト」

「それそれ。そいつを探しに行きましょう」


 そう言って意気揚々と祭服を翻したリュカの後ろ姿を見てラルゴがボソリと言う。


「黄昏まで分かってて名前が分からないとか、どうなってんだ?」

「端から覚える気なんてさらさらないんだよ、多分」


 自分と女性と酒にしか全く興味がないリュカらしいと言えばリュカらしい。


 黙り込んだ一行が部屋を出ると、そこには行儀よくおすわりをした状態でまだキメラが座っていた。


「このダンジョンは踏破されたから君はもう自由だよ。魔界に帰りな」


 僕がそう言ってキメラのライオン頭を撫でると、キメラは甘えるように鳴いて後をとことこついてくる。


「駄目だよ、ついてきちゃ!」

「そうですよ。キメラなんて連れて歩いたら目立つでしょうが」

「そうだな。残念だが、お前とはここでお別れだ」


 ところがこのキメラは全く言うことを聞かない。どこまでも付いてきて、結局ダンジョンを一緒に出てきてしまった。

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