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第10話

 キメラはこちらを威嚇するように咆哮する。それを聞いた途端、エミリオの顔つきが変わった。手のひらを目の前に翳して諭すように静かに言う。


「ぼくに楯突くのか?」


 その声を聞いた途端、キメラはハッとしてエミリオを見てすぐさま甘えるような声で鳴き、その場に伏せたではないか! 挙句の果てにキメラはリュカとエミリオに近寄って猫のようにスリスリしている。


「倒さねーのかよっ!」


 てっきり何か凄い魔法を使うのかと期待していたリュカが言うと、エミリオが振り返ってニコリと笑う。


「だってまだ何もされてませんから! 悪さをしない子は良い子です」

「……ラルゴ……」

「……ああ。この計画……ほんとに上手くいくのか?」


 残虐非道で立派な魔王に育てるどころか、このままでは魔物を手懐けるただの良い魔道士になってしまうのではないか……一抹の不安を覚えながら僕とラルゴは互いに顔を見合わせた。


 すり寄ってきたキメラをその部屋に留まらせて最後の部屋に入ると、円形の部屋の中に形や装飾がバラバラの宝箱がズラリと壁に沿って並んでいる。


「これはまたすごい数だね! で、当たりは一個か」

「一体いくつあるんだ? 20はあるぞ。この中から当たりを一発で当てるなんて、無理じゃないか?」

「全部開けちゃ駄目なんですか?」


 エミリオの疑問にラルゴが頷いた。


「ギミック系のダンジョンの宝箱はこんな風に沢山ある事が多いんだ。そしてそういうのは大抵一発で当てないと全て消えてしまう。これはどんなに優秀なシーフでも難しい。つまり、最後は運という事だ。だからシーフは大抵運のスキルも上げているんだが……」

「メリナ、いけそう?」


 僕の視線を受けてメリナは可哀相なほど尻尾を膨らませて震えながら首を振った。


「む、無理……絶対当てられない!」


 何せ全ての罠にかかったシーフである。咄嗟にラルゴの後ろに隠れようとしたメリナだったが、それをリュカが許しはしなかった。


「いいえ。あなたが解くんですよ、メリナ。ここで辞めればあなたはただの役立たずです」

「!」

「お前はまた!」


 思わず突っかろうとしたラルゴをリュカは手だけで制した。どうやらまだ言いたい事があるらしい。


「メリナ、あなたは確かにシーフの才能が壊滅的に無い。何せ全ての罠にかかったのですから。ですが、裏を返せば反対を行けば全てを回避する事が出来たという事です。ある意味凄い才能だと思いませんか?」

「確かに……全部に引っかかったって事はそういう事だよね。何せ二択のギミックばっかりだったんだから」

「ですです! メリナはやっぱり凄いんですよ!」

「全部だもんな。四層までの罠に全部引っかかるなんて逆に凄いことだぞ」

「で、でも……」

「いいですか、メリナ。あなたは頭で考えるよりも本能に従った方がいい。人間の賢さと獣人の勘を信じなさい。せっかくハーフなのですから」

「せっかく……ハーフ……」


 そんな風に言われたのは初めてだったようで、メリナはゴクリと息をのんでリュカを見上げているが、リュカはニコリと笑っただけだった。


「……分かった。やってみる」

「ええ。まぁ、たとえ役立たずだとしても私はあなたを置き去りにしたりしませんよ? 何せ貴重な女性ですから」

「結局お前はそこか! メリナ、外してもいい。お前の好きなのを選べ」

「そうだよ、メリナ。失敗したらまた入ればいいんだから」

「そうです! 何回でも出来るまでチャレンジです!」

「う……うん」


 メリナは頷いて部屋の真ん中に立って目を閉じた。そして目を閉じたままその場で何度か周り足を止めて指をさす。


「あれがいいと……思う」


 メリナが指さした先には異様に華美な装飾のいかにもな宝箱が置いてある。多分10人のシーフが見たら10人ともが避けるようなあからさまな宝箱に、メリナは自分で選んでおいて愕然としていた。


「またよりにもよって一番無さそうな奴を選びましたね!」


 おかしそうに笑うリュカに思わず僕とラルゴは頷きかけたが、流石にそれは出来なくて中途半端な所で頭を止めた。


「綺麗な箱です! 開けてみましょう!」


 そんな中、唯一何も分かっていないエミリオは喜んで宝箱に向かって駆けて行く。そんなエミリオをメリナは止めようとしたが、それをリュカに止められてしまった。


「言ったでしょう? 信じなさい、と」

「う、うん」


 メリナはギュッと目を瞑ってその時を待っていた。何も入っていなければ全ての宝箱は消える。

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