「レベル10って書いてありますよ!」
「エミリオ、あんな遠くの文字見えるの⁉」
驚いたメリナにエミリオは首を傾げる。
「え? 皆さん見えないんですか?」
「見えないよ! だって、まだ大分先だよ⁉ 歩いたら15分ぐらいかかると思う!」
「メリナは猫獣人とのハーフだから余計に視力が悪いのでは?」
「そ、そうかも……」
尻尾を膨らませてエミリオの手を握りしめたメリナは震えながらリュカの質問に答えている。どうやらメリナはリュカが怖いようだ。
「おや、どうしたんです? そんなに尻尾を膨らませて。もしかして私が怖いんです?」
「べ、別に、こ、怖くなんかないもん!」
言いながらじりじりと後ずさるメリナを完全に面白がって追い詰めようとするリュカ。
「ふふふ。いいですねぇ。逃げられるとそそられますよねぇ」
妙に蠱惑的な笑みを浮かべてさらに近づこうとするリュカに、とうとうメリナが猫族特有の威嚇をしだした。それを見てラルゴが眉を釣り上げる。
「お前はこんな小さい子にまで何やってんだ! メリナ、こっち来い。俺の隣に居ろ」
「う、うん!」
そそくさとエミリオの手を引いて大きなラルゴの影に隠れたメリナはホッと胸を撫で下ろしている。
「リュカ! もう! 今からそんな怯えさせてどうするの!」
「いやいや、なかなか楽しそうなおもちゃだなぁ、と。痛い!」
「お前はもう黙ってろ! 何でそんな言動と顔が一致しないんだ! 最早お前の存在自体が詐欺だ!」
「そのお言葉、そっくりそのままあなたにお返ししますよ、ラルゴ」
「まぁまぁ二人共落ち着いて! ね! 仲良く、仲良くだよ! ほら! 喧嘩してる間にダンジョンに到着したよ!」
いつもの如く喧嘩しだした二人を止めに入った僕は、いつの間にやら到着したダンジョンの看板の前で両手を広げて見せた。
そんな僕を押しのけてリュカとラルゴがダンジョンの説明を読んでいる。そんな二人を横目に僕は汗を拭う。
「ふぅ~。近くにダンジョンがあって良かった……」
「ルーカス大変ですね! でもどうしてダンジョンがあって良かったんですか?」
「この二人は普段はずっと喧嘩してるんだけど、何故かダンジョンに入ると急に仲良くなるんだよ。エミリオもメリナも覚えておいてね。二人が喧嘩しだしたら、すぐさまどこかのダンジョンに入ること!」
それが二人と仲良くやっていくコツである。二人にそれを伝えると、エミリオもメリナも真顔でコクリと頷いた。
「4層らしいぞ。リュカ魔力は回復してるか?」
「ええ、酒を飲めばもっと回復しますよ。もしくは女性をあてがってくれれば」
「大丈夫そうだな。お前らもいけるか?」
「僕は大丈夫だよ。最深部には何があるの? これは何系ダンジョン?」
「これはギミック系ですね。早速メリナの本領を発揮してもらいましょうか」
「……」
リュカの言葉にメリナは黙り込んで俯いた。そんなメリナの手をエミリオが心配そうに握っている。
「最深部の宝箱にはロッドだな。とりあえずエミリオに丁度いいんじゃないか?」
「そうですね。エミリオは丸腰ですから。まぁ、魔王はロッドなんて必要ないんでしょうが見た目は大事です。行きましょうか」
リュカはそう言って長い祭服の裾を翻してダンジョンに入っていく。それについていく僕だが、これでは誰がリーダーだかさっぱり分からない。
ダンジョンに入ると早速分かれ道が出てきた。
「メリナ、どちらです?」
リュカが問うと、メリナはビクリと体を強張らせて耳を澄ませた。ピクピクと耳を動かして左右の音を聞き分けている。
「こ、こっちかな……」
「では行きましょう」
しばらく歩いていると、天井からボトボトと青い半透明のブヨブヨが落ちてきた。
「おやスライムですね。では丁度いいので練習をしましょう。エミリオ、これは水系スライムです。弱点属性を狙って攻撃してみてください」
「え⁉ た、倒しちゃうんですか⁉」
「当然でしょう。敵ですから」
「む、無理です! 何もされてないのに手を出すなんて!」
そんな残酷な事は出来ない! と涙を浮かべるエミリオにリュカは呆れ、僕は戸惑い、ラルゴは頷いた。そんな中メリナだけは何故か怯えたように震えている。