王の騎士に追われる者を果たして仲間になどしてもいいものか……それは分からないが、一旦許可を出してしまった手前今更やっぱり止めるとは言えないし何よりも逆上して襲われるのは困る。
これはさっさと魔王の元に向かって失敗するか討伐するかして解散するのが一番良さそうである。何せもう一人のメンバーはあのリュカだ。本気でさっさと解散してしまいたい。
もし失敗しても生きていればまたチャンスは必ずあるはずだ。ローズを取り戻すチャンスが、きっと。
僕は顔を上げてラルゴを真っすぐに見ると手を差し出した。
「これからよろしく、ラルゴ」
差し出された僕の手をラルゴは少しだけ驚いたような顔をして見ていたが、しっかりと握り返してくれる。意外と肉球部分は柔らかい。そんなどうでもいい事を考えながら僕は魔王討伐依頼書に名前を書いて、その下にラルゴの名前とリュカの名前を書いた。
「明日もう一人のメンバーにこれでいいか見せてから提出してくるよ」
「ああ。もう一人のメンバーはどんな奴なんだ?」
「リュカって言う神官様なんだけど聞いた事ないかな? ちょっと……うん、何て言うか……うん。あの……喧嘩、しないでね?」
言葉を濁して目を泳がせる僕を見て何かを察したのか、今度はラルゴが無言で頷く。
「分かった。気をつけよう」
僕のパーティーのメンバーは、こうして決まったのだった。
「と、言う訳なんだよ」
事の成り行きを説明した僕にエミリオとメリナは目を丸くして僕、リュカ、ラルゴを順番に眺めた。
「ちょっと意外。もっと長い付き合いなのかと思ってた。凄く仲良さそうだし」
「ぼくもそう思いました! 何て言うか友情! って感じです」
「ゆ、友情……」
果たしてこの三人に友情など存在するだろうか? 答えは否、だ。三人とも己の目的のためにパーティーを組んだだけである。
「まぁ、あれです。目的は同じでしたからね。魔王討伐っていう」
「そうだな。そういう意味では仲間ではあるな。だが友情は……どうだろうか」
馬鹿正直に答えるラルゴの脇を僕は小突いた。エミリオがそれを聞いてとても悲し気な顔をしていたのだ。
「い、いや! も、もちろん友人だ! なぁルーカス!?」
「そ、そうだよ! 僕達もう大親友だよ! ねぇリュカ?」
「いや、それは無いでしょう」
「……」
「……」
リュカはいつだって空気など読まない。
誤解のないよう言っておくと、エルフがそうという訳ではない。リュカが特別空気など読まないだけだ。逆にラルゴはこんな勇ましい姿かたちでも、とても心優しいという事を僕はもうこの一ヶ月でよく理解した。外見からは中身の事など全く分からないものである。
そういう意味ではこのパーティーは僕とラルゴの我慢の上で成り立っているパーティーとも言える。
そこに突如として加入した魔王とメリナ。この二人が入った事でこれから一体どうなるのか、皆目見当もつかない。
話しているうちに気付けばダンジョンを出ていた。僕たちはその足で近くの村のギルドに向かい、新しく加入したギルドメンバーの加入申請をしようとしたのだが。
「ん? メリナ、あなたまだ前のメンバー抜けてませんね」
ギルドボードを見ていたリュカが言うと、メリナはゴクリと息を呑んだ。
「本当だね。メリナ、どうする?」
メリナのギルドボードは確かにまだ【パーティ】の所のランプが青色になっている。もしもどこのパーティにも属していないのであれば、ここの表示は灰色になっているはずだ。
僕が問うと、メリナはシュンと俯いた。どうやらメリナには何の決定権もないらしい。
「困りましたね。とりあえずエミリオだけ追加しましょうか。まずはエミリオをギルドに登録して……えっと、職業魔王、と」
「ちょちょちょ! 何馬鹿正直に魔王って登録しようとしてるの!?」
「貸せ! 俺が登録する! 職業は魔導士でいいだろ。で、うちのパーティの追加申請書刷りだしてエミリオ、メリナっと。これはこのまま俺が預かるぞ。メリナを前の所から抜いてから提出しよう」
ラルゴの言葉にメリナは「え!?」と声を上げた。そんなメリナにリュカがにっこり笑う。
「二重登録は出来ないのですから当然でしょう? だって、あなたは私達の計画を知ってしまったんだから。もう逃がしませんよ?」
「あ、はい……」
笑顔でガシっとリュカに肩を掴まれたメリナは怯えたように耳を伏せて尻尾を膨らませている。可哀想としか言い様がない。