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第4話

 僕たちはルイナ国のギルドから派遣されてきたパーティーだ。


 この世界は人間とエルフ、獣人たちが住む表の世界と、それ以外に属する狂暴で邪悪な種族たちを集めた裏の世界がある。


 表の世界を支配するのは人の王、ベニート・ルイナだ。そして裏の世界を支配するのが魔王である。昔から表と裏は対立していたが、最近になってやたらと裏の住人である魔族達が表の世界を襲ってくるようになった。


 その事に危機感を覚えたベニートは国内にある全てのギルドに依頼書を出した。魔王討伐依頼である。


 国の仕事とあって、その報酬内容は素晴らしかった。何やら小難しい書き方をしていたが、要は何でも望むものをくれてやる。誰でもいいから魔王を討伐せよ! という内容にギルドに登録していた者達はこぞって参加をしたのだが。


『ありゃ駄目だ。俺達じゃ歯も立たねぇ。まずダンジョンが攻略出来ねぇんだ』

『仲間の内、二人が瀕死だ。絶対に転移魔法を使える奴を連れていけ。危ないと思ったらすぐに戻った方がいい』

『そこら中に罠が仕掛けられているからシーフも居た方がいいわ』


 どうにか戻って来る事が出来た者達は口々にそんな事を言って、もう二度と行きたくないと青ざめていた。


 これを聞いてもなお、僕はすぐさま隣町の大きなギルドに出向いて募集掲示板で仲間を募った。


 僕には他の何を捨てても絶対に欲しいものがあったからだ。


 とはいえ僕の剣士ランクはRである。掲示板のメンバー募集リストには既に僕よりもずっと強くて有名な剣士たちの名前がズラリと並んでいて、名前の隣にはそのパーティーに入りたい人達の名前が紙からはみ出して壁にまで書かれていた。


「……」


 これは無理かもしれない。


 僕はとりあえずメンバー募集リストの下の方に自分の名前とランクだけを書いてトボトボと帰路についた。


 翌日、僕が小さなスライム三匹の討伐依頼をクリアしてギルドに行くと、そこには何故か人だかりが出来ていて中から激しい怒鳴り声が聞こえて来た。


「さっきから黙って聞いてりゃお前、俺の事女だと思ってんのか!? 茶ぐらい一人でしばきに行けよ! ぶっ殺すぞ!」

「お、落ち着いてください、リュカ様! 彼はまだこの町に来て間もないんです!」

「るっせぇ! 外野は引っ込んでろ! 神官ナンパするなんざいい度胸だ。神罰当てんぞ、ゴラァ!」

「リュ、リュカ様! 仕舞って! 杖を仕舞ってください! 後生ですから!」

「何事?」


 僕は背伸びをしてどうにかギルドの中を覗き込むと、そこには口汚く怒鳴る金髪の男と、慌てた様子で今にも魔法を使いだしそうな男を止めるギルドの店主がいる。その後ろで顔を真っ青にして震えているのは、まだ若い剣士だ。


「一体何があったんですか?」

「ん? ああ、いやな、あの剣士がよりにもよって神官リュカをナンパしたんだよ」

「リュカ様を……それはそれは……ご愁傷様です」

「ああ、ほんとにな。あいつ明日には海の藻屑決定だな……」


 僕はそれを聞いてコクリと頷いた。


 神官、リュカ。彼はエルフ族の高位貴族だ。森羅万象の力を操り、エルフ族の中でも飛びぬけて力を持っていると噂されている。本来であれば彼のような実力者は王都の最高神殿に居るのだろうが、彼には今見た通り性格に致命的な問題があった。


 普段はどちらかと言えば温厚で、腰まである真っすぐな金髪を揺らしながら歩く様はそれはそれは神々しいほど美しいのだが、一度キレるともう手が付けられないのである。


 神官の癖に三度の飯より酒と女が大好きな彼は、王都にある最高神殿に着任するなり早々にやらかしてこの田舎の神殿に左遷された強者だった。そんな彼だからこの街の者達は皆リュカに対して腫物を扱うように接していた。


 そんなリュカが、何故ギルドなどにいるのか謎である。


「ちっ! 二度と俺の前に顔見せんじゃねぇぞ! 次顔見せたらこの杖の餌食にしてやる! 覚えとけ!」

「はいぃ!」


 リュカは渋々杖を仕舞うと足に縋りついて「ここで魔法を使わないで!」と懇願するギルドの店主を引きはがし、徐にギルドの募集掲示板の前に向かうと張り出されたリストを腕組して見上げている。


 それを見て多分、あの募集掲示板のリストに名前を乗せた人達は思ったはずだ。


 まさかどこかのパーティーに入る気か⁉ 絶対に自分のパーティーは選んでくれるな、と。


 性格だけが問題じゃない。エルフの高位貴族などがメンバーになったりしたら、万が一何かあった時に責任など絶対に取れない。


 もちろん僕も思った。思わず胸の前で手を組んで「どうか自分の名前はスルーしてくれますように」と、願っていたのだが――。

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