せっかくさっさと解散しようと思っていたというのに……僕がそんな言葉を飲み込むと、まるでお前の考えている事などお見通しだとでも言うようにリュカが笑顔を浮かべた。
「逃がしませんよ、ルーカス。これからもよろしくお願いしますね」
「……はい」
こうして僕が率いる魔王討伐一行は新しい仲間、シーフのメリナ(事情を聞いてしまった為に無理やり仲間に入れられた)を加えて、子供魔王を立派な魔王に育てる為の冒険が始まったのだった――。
「とは言え、まずこの子の名前を何とかしないと。あだ名にしても魔王は変だよ。君、何か希望ある?」
僕が言うと、魔王はキョトンと首を傾げていっちょ前に腕組をして考え込んでいる。
「カッコイイのがいいです! いかにも現代風な! エースとかそういうの!」
「俗世に塗れてますねぇ。生まれたばかりの癖に生意気な。ああ、そうだ。カルビンとかどうです? 異世界で赤ちゃんという意味なのですが」
「赤ちゃんじゃありません!」
「えー……ああ、じゃあエミリオは?」
名前を提案するリュカに魔王は疑わしい目を向けている。
「エミリオは確かライバルとかそういうのだね。まぁ、ある意味ではぴったりかも」
僕が言うと魔王は何度も噛みしめるようにエミリオと呟いて笑顔を浮かべる。
「じゃあそれで! ぼくは今日からエミリオです!」
何だかとても嬉しそうだし素直すぎて色々と心配になるが、既にこんな調子で果たして真っ当な魔王になれるのだろうか……。
「じゃあまぁ、とりあえずダンジョンから出ましょうか」
「あのぉ……私、本当についていってもいいの? ハーフだよ?」
そう言って心配そうにメリナが僕の袖を掴んだ。そんなメリナにリュカが笑顔で頷く。
「たとえ子供でも女性が居るのと居ないのではモチベーションが違いますからね」
「……お前はどこまで女好きなんだ。まさかとは思うが、魔王討伐の願い事もそれ関係か?」
リュカを不審気に見下ろしたラルゴはそっとメリナとエミリオの手を引いて自分の後ろに隠す。
そんなラルゴを見上げてリュカがフフンと鼻を鳴らした。
「私ですか? 決まってるじゃないですか! 私の願いは一つです。酒池肉林のハーレム一択ですよ!」
「……」
「……え、神官様……だよね?」
「酒池肉林って何ですか? ハーレムって?」
「……子供は知らなくていい。あと二人とも、コイツには必要以上に関わるな。行くぞ」
そう言ってラルゴがエミリオとメリナの手を引いて魔王の部屋を出ていく。それにリュカがやれやれと言った感じで首を振ってついていくが、僕は既に不安でしかない。
帰り道はあれほど手強かった魔王ダンジョンが拍子抜けするほど簡単だった。というのも魔族たちは皆、魔王が代替わりをした事を知って早々に魔王ダンジョンから逃げ出してしまったからだ。
「これはいいですね。楽ちん楽ちん」
リュカは意気揚々とそんな事を言うが、実際のリュカのランクは魔法ランク最高峰のSSランクだ。下手をしたら魔王ダンジョンも一人で攻略できていたかもしれない。
「お前はほとんど何もしてなかっただろうが。戦ってたのは俺とルーカスだ」
そう言ってラルゴは僕の頭をまるで子供にするようにヨシヨシと撫でてくれるが、僕はもう17才である。
「ラルゴ! 僕もう子供じゃないんだってば」
「獣人では17才なんてまだ十分子供だぞ」
「そりゃ獣人ではそうかもしれないけどさぁ」
「あ、ちなみにエルフの私から言わせてもらえば、17才なんて赤ちゃんですよ。そりゃもう、超バブちゃん」
「……お前は一体いくつなんだよ」
呆れたラルゴにリュカはこれみよがしに大きなため息を落とした。
「はぁ、これだから獣人はデリカシーが無くて嫌ですねぇ」
「何だと!? お前が神官じゃなきゃ今すぐここで食い殺してやるのに!」
「ふふふ、そんな簡単に殺られるとでも?」
「……神官様、怖い」
「変わった方ですね」
「……うん」
僕はメリナとエミリオの言葉に頷いて二人の小さな手を取った。もちろんはぐれないようにだ。そんな僕達をラルゴが後ろからまるで親のように温かく見守ってくれているのが何だか切ない。彼の目にはきっと、僕達は幼い兄妹にでも見えているのだろう。
「そう言えば、皆さんは昔からの友人ですか?」
空っぽになったダンジョンを歩いていると、ふとそんな事をエミリオが聞いてきた。それを聞いて僕は慌てて首を振り、つい一ヶ月ほど前の事を思い出す。
決して仲が良いとは言えないこんなにもちぐはぐなメンバーが集まったのには、ある理由があった。