決してベストメンバーとは言えないような集まりではあるが、メンバー集めから一ヶ月、それでも僕達は魔王ダンジョンをクリアしてここまでやってきたというのに。
「どうするんです? ルーカス。とりあえずこの子を王に突き出します?」
「お前こんな子供を城に売る気か!? お前が魔王なんじゃないのか⁉」
「失礼な! 私はどこからどう見ても神官でしょう!」
「……どうだかな」
リュカの一言にラルゴは牙を剝きだして威嚇すると魔王を自分の後ろに隠した。魔王は獣人ラルゴの尻尾が珍しいのか、指先で縞々の尻尾を突いて何やら楽しそうだ。
「うーん……どうしよっか」
「困りましたねぇ。魔王君、代替わりしたと言ってましたね? 以前の魔王はどこへ行ったんです?」
「分かりません……何せぼくも気付いたらここに居てこの本を持っていたので……前任の魔王がどんな方だったかすら分からなくて……」
「そっか。気づいたらこんな所に居たらそりゃ驚くよね。でも僕達は魔王を倒さなきゃ褒美は貰えない……かと言ってこの子を連れて行っても信用されないよね、多分」
「それはそうだろう。何せ俺は未だにこの坊主が魔王だとは到底思えないんだが」
三人で頭を突き合わせて悩んでいると、ふとリュカが何かを思いついたように手を打った。
「では、私達でこの少年を魔王に育てましょう!」
「え?」
「は?」
何かおかしな事をリュカが言い出したぞ、とラルゴが僕に目配せしてくるので思わず僕が頷くと、リュカがとても美しい笑顔を浮かべて続けた。
「立派に魔王に育てて討伐すれば我々の目的も果たせる。そうは思いませんか?」
「育てて倒すってお前……やっぱりお前が魔王だな?」
「ぼ、ぼく、倒されるんですか!?」
驚いた魔王はラルゴの尻尾を抱きしめて震えている。
「いえいえ。まぁ聞いてください。そもそもね、魔王討伐の目的って何です? はい、ルーカス」
「え⁉ えっと……えっと、何だろう……」
「はい、時間切れ。次ラルゴ」
「それはあれだろ、魔族が――」
「はい、時間切れ」
「今答え言ってるだろうが! せめて最後まで聞け!」
ラルゴに塩対応なリュカにラルゴが牙を剥くが、そんな事はお構いなしにリュカは話し出した。
「魔族がこちらに意味もなくやってくるからですよね? つまりそれが無くなれば魔王は討伐したという事になるのでは? それにもしかしたら魔王を討伐したという証拠など誰にも証明できないかもしれません」
魔王が代替わり制だという事が分かった今、もしかしたら魔王は死んだり代替わりをしたら消える可能性が高い。と言う事は、魔王をせっかく討伐しても証拠が何も残らないという事なのではないのか。
リュカの説明に僕もラルゴも魔王もなるほど、と頷いた。
「この人の言う通り……うちのパーティー、それが分かったから皆逃げちゃったんだ……」
突然リュカの腕の中からか細い少女の声が聞こえてきた。
皆で一斉にリュカの腕の中を見ると、真っ白な猫耳を小刻みに震わせながら美少女が泣き出しそうな顔をしている。
肩より少し長いフワフワで薄茶の髪を揺らしながら、少女はゆっくり辺りを見渡してリュカに小さくお礼を言うと腕の中から下りてきた。
「ああ良かった! 大丈夫? 君の名前は?」
「うん……助けてくれてありがとう。私はメリナ。人間と獣人のハーフで職業はシーフ。見習い、だけど……」
メリナはそう言ってボロボロになったスカートの裾をはたく。
「それで、さっきのはどういう意味です?」
「そのまんまだよ。私達がダンジョンに入って三日ぐらい経った時、魔王が代替わりしたってゴブリンが騒いでたの。先代が消えたって。で、消えたってどういう事だろうって話になって気付いたんだ。あなたと同じ事に。それで……」
「ここからさっさと逃げ出したって訳か。あんた置いて」
ラルゴの言葉にメリナは拳を握りしめてコクリと頷いた。大きな緑色の目にはうっすら涙が浮かんでいる。
「ほらね、私達がいくら頑張っても魔王を討伐したという証にはならない。それこそ魔族がこちらに攻めて来る間は。ではどうすればいいのか。意味なく攻めて来る魔族を討伐しつつ、魔王を立派に育て上げ、魔王軍を降参させるのです。それを王の前で宣言してもらえば、私達が魔王を討伐した事になるのでは?」
「あの、ぼくはあなた達と戦って負ける振りをすればいいって事ですか?」
「そういう事です。王の前でこの人達に負けました。もう二度と魔族を表に出しませんと言ってもらえればそれで万事解決です。そうすれば君は裏の世界の支配者として君臨し、私達は契約通り欲しい物を頂いてお互いウィンウィンでしょう?」
「はあ……そんな上手くいくでしょうか」
困り果てた魔王にリュカは笑顔で頷く。
「上手くいかせるんですよ。という訳でルーカス、ラルゴ、それからメリナに私。この4人で子供魔王を立派な魔王に育てあげましょう」
「え⁉」