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ランクRの僕が子供魔王を拾ったので、SSランクの仲間たちと手塩にかけて立派な魔王に育ててみせます!
あげは凛子
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年12月10日
公開日
15,091文字
連載中
ある日、ルイナ国全土に発令された王からの依頼は『魔王を討伐せよ』だった。報酬は何でも叶えてやるというもの。
表と裏があるこの世界では、表には人間、エルフ、獣人が住んでいるが、裏には魔族と呼ばれる者達が蔓延っている。
長年に渡って表と裏は完全に隔離された状態でいたのだが、近年、表と裏が唯一繋がるダンジョン以外にも魔族が出てくるようになってしまっていた。
この状況を危惧して王が出した依頼に、剣士ランクRのルーカスは無謀にも挑もうとする。
ダンジョンへは最低3名の仲間を見つけてパーティーを組まなければならず、ルーカスは隣町で早速募集をかけることに。
ところが集まったメンバーは癖のある者達ばかり。
おまけに魔王ダンジョンの最終決戦の部屋で佇んでいたのは、分厚い本を抱えたまだ幼い少年だった!?
その少年は自分を代替わりした魔王だという。
そこで、仲間の提案で少年を立派な魔王に育て上げて討伐しようという事になったのだが……。
ランクRの剣士ルーカスと、個性溢れる仲間たちの珍道中、いざ開幕!

※更新は火曜日、木曜日、土曜日の夕方となります。

応援よろしくお願いいたします。

第1話

 僕が率いるパーティーメンバーは、最難関と言われている魔王ダンジョンを命からがら攻略してとうとうダンジョンの最深部に到達した。


「リュカ、一旦休む?」


 僕が振り返って仲間の神官、エルフ族のリュカに問うと、リュカは長い金色の髪を揺らしながら首を振った。


 どこからどう見ても絶世の美女だが、こう見えて男である。


「いえ、大丈夫です。それよりも心配なのはこの子です。大怪我をしているので早く治療しないと」


 リュカの腕の中にはダンジョンの中で拾ったまだ15、6才の少女が抱かれていた。恐らく仲間と挑んだダンジョンで怪我をして、そのまま置いて帰られたのだろう。酷い事をするものである。


 少女の息は随分浅いので早く治療してやりたいが、これから魔王との戦いがあると思うと魔力の無駄遣いは出来ない。


「さっさと終わらせるぞ。ポーションとリュカの魔力が尽きる前に」


 虎獣人の戦士、ラルゴが唸るように言う。その言葉に僕は真顔で頷いて剣を構えなおした。


 ダンジョンの最深部はもう目の前だ。この扉の向こうに憎き魔王が居る。


「行こう、二人とも」


 僕は大きく息を吸ってここまで戦い抜いて来た仲間の顔を見て言った。そんな僕に二人も表情を引き締めて頷く。


 それを確認した僕は、最深部の重い扉に手をかけてゆっくりと開いた。



 扉が開き切った瞬間あたりに強い閃光が走り、一瞬視界が真っ白になる。思わず三人は目を瞑ったがそれはほんの一瞬の出来事だった。


 閃光がおさまったので僕達がゆっくり目を開けると、何も無い荒れ果てた部屋の中に少年が一人、ポツンと胸に一冊の本を抱えて途方に暮れた様子で佇んでいる。


 そのあまりにも異様な光景に僕は戸惑いながらも恐る恐る少年に近づいた。


 ここは魔王ダンジョンの最深部。つまり最終階層には魔王がいるはずである。それなのに何故こんな所に少年が? もしかしてこの子に先を越されたのか?


「あ、あのー……ボク? えっと……こんな所で何……してるの?」


 すると少年は今しがた僕達の存在に気づいたとばかりにハッとして顔を上げてペコリと頭を下げて言ったのだ。


「あ、はじめまして。ぼく、魔王って言います」


 と。


「……ん?」

「え?」

「は?」


 思わず声が漏れた三人を見て自称魔王の少年は困ったように本を抱え込んでモジモジと言う。


「そのぉ……ぼく、どうやらついさっき代替わりをしたみたいで……あ、お姉さん怪我してるんですか? 血が出てる! 怖い!」


 そう言って少年は本を一旦下に置いてリュカが抱いている少女に手を翳した。するとみるみる間に少女の傷は癒えていく。


 全ての傷が消えたのを確認した少年はホッと胸を撫でおろして本を拾い上げると、またため息をついている。


「ふぅ……ぼく、血って苦手なんです」


 血が苦手? 魔王なのに? そう思いつつ、僕は少年にもう一度尋ねた。


「あ、ありがとう。凄いね。で、えっと君が……魔王?」


 少年は僕の質問にコクリと頷いて胸に抱えなおした本をズイッと差し出してきた。


 僕はそれを受け取って中を開いてゴクリと息を飲む。そんな僕を不審に思ったのか、リュカとラルゴが開いた本を覗き込んで目を丸くする。


 本には殴り書きで大きく『悪行の限りを尽くせ! それが魔王だ!』と書かれていたのだ。


「悪行って、具体的には何をすればいいのでしょうか……」

「え⁉ いや、それはえっと、ラルゴ! 何すればいいのかな?」


 途方に暮れたような少年に僕は焦った。そんな事を聞かれても僕にも分からない。というか生まれてこのかた思いつくような悪事をした事がない小心者の僕である。


 けれど突然話を振られたラルゴも目に見えて狼狽えていた。


「俺に聞くのか⁉ そ、そうだな。ア……アリを……潰したり?」


 咄嗟に答えたラルゴを見て僕は頷きリュカは呆れ、肝心の魔王はと言えば――。


「アリを!? 潰す!? なぜ⁉」


 可哀想なほど青ざめて両手で口を覆っている。


 これが……魔王?


 そんな少年の反応にリュカが訝し気に呟いた。


「君、本当に魔王なんですか? 何て言うか……魔王の素質、無さすぎません?」

「ま、魔王です! 小さいけど角もあります! ほら!」


 少年はそう言って疑うリュカに向かって頭を見せると、まだ小さな角を誇らしげに見せて来る。


 だが小さい。小さすぎる。最早髪をかき分けないとどこにあるか分からないぐらい小さい。


「……それ角です? コブじゃなくて?」


 見た目は完全に黒髪の9才か10才ぐらいの、どこからどう見てもただのあどけない少年である。特徴と言えば瞳が赤い事ぐらいで、リュカが角をコブだと疑うのも無理はない。


 けれどそんなリュカの疑いの眼差しに少年、もとい自称魔王は拳を握りしめて涙目で抗議してきた。


「角です! 黒いでしょう⁉ そんな事よりも……ぼくは一体これから何をすればいいのでしょう……?」

「そ、それを僕達に聞かれても……ど、どうしよっか……?」


 僕達は顔を見合わせて黙り込んだ。


 どうにか集まった寄せ集めメンバーでやってきた魔王討伐は、こうして初っ端から暗礁に乗り上げたのだ。

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