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【2-15】ご機嫌斜め

「お、お願い……!?」


 やはり言葉の意味と阿栖葉さんの考えていることの真意が分からずに聞き返す。


「うん。実は君にね、ジャズダンス部に入ってほしいんだ」

「ジャズダンス部に、俺が?」


 これは願ってもない機会だ。沢城城高校にダンス部が存在し、しかもそれはジャズダンス部なのだから運命めいたものを感じるぞ。


 阿栖葉さんに出逢えたことで、俺は高校生活において最高のスタートダッシュを切れそうだ。


「おぉい、蜷川。そろそろゴミ屋に戻ろうじゃないか。私はもう疲れてしまったさ」


 もう片方の手を握り、来宮が駄々をこね始めた。……このあからさまな態度はいったい何をしたいというのかね。来宮らしからぬ態度に違和感がありすぎて怖いんだが。


「蜷川君、どうかな? 入ってくれる?」

「あっ、えっと……、はい。入ります!」


 ダンススクールに通うつもりはないし、だからといってストリートダンスは恥ずかしいのでできそうにない。人前で踊るのは未だに慣れないからな。だとすれば選択肢は一つしか残されていないだろう。


 当然だが、俺は阿栖葉さんのお願いに頷いてみせた。


「よかったー。断られたらどうしようかと思っちゃったよ。それじゃあこれはわたしと蜷川君二人だけの約束だね。絶対破ったらダメだよ? 学校が始まるのを楽しみにしてるからねー」


 阿栖葉さんは大きく手を振って、部室棟の中に戻っていった。

 そしてこの場に残された俺を含めた三人のうち、二人の視線が痛々しいほどに突き刺さっているのは気のせいではない。


「んじゃあ、そろそろみごや館に帰るか。来宮も疲れてきたみたいだしな」

「キミは阿呆か。私が何時何分何秒何コンマにそんな根を上げるような馬鹿げた台詞を口にしたというのだね。ひょっとしてキミの耳は腐っているのか? それとも耳がないのか?」

「……な、なあ、伊流院。なんで俺こんなに怒られてんだ」

「あっ、ごめん。耳が腐るからあたしに話し掛けないでくれるかしら」


 ダンスを披露してみせたときとは打って変わり、阿栖葉さんが登場した途端に二人の態度が悪化した。怒りの原因がどこにあるのか俺にはまったく理解不能だが、今はとにかく二人の怒りが収まってくれるのを待つしかなさそうだ。


 みごや館に戻るころには――否、これは相当な時間が掛かりそうな予感がする。

 そうだな、とりあえず今言えるのは、夕食を奢って機嫌を直してもらおうってことぐらいだ。

 それで収まればいいけど、たぶん無理なんだろうな……。


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