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【2-13】どうだった?

 力を抜いていた両手をしなやかに左右へと伸ばし、限界に達した瞬間、軽くジャンプして息を吐き、両足を揃える。流れにそって両手を戻し、右足を前に蹴ってすぐに後ろへと引く。


 同時に左手を振り、身体が開き過ぎないように注意しつつ、肩の高さに保ったまま左へと揺らす。右手は百八十度の弧を描くように胸の前へと持っていき、最後に左足で前に踏み込む。


 この間、約二秒。俺が最も得意とする技の下準備が整った。

 顔は正面を向き、背筋を伸ばす。綺麗な姿勢のまま、いざ、左足に全体重を任せた。


 後ろに引いていた右足の太股が身体と直角になるように、左足の膝の横に揃えて三角形を作る。胸の前に持ってきた右手はそのままで、左足のかかとを上げた。


 左手を振って九十度の弧を描きながら両の指先が触れ合うように勢いよく身体を捻る。その反動によって左足のつま先を軸にして、身体全体が弧を描き始める。


 バランス感覚を損なわないために真っ直ぐ前を向き、ターンを繰り返す僅かな間も目線は常に正面を向き続けられるように何度も顔を切る。これをすると目が回ってふらつく心配がない。


 一回転、二回転、三回転、そして四回転……。

 左足のかかとをつけることなく、俺は四回転を回ってみせた。


 一つ一つは意味のない緩やかであり勢い任せの動作が、まるで線を結んだかのようにまとまり、滑らかな動きを演出した。


 四回転を回り終えるまで五秒とかからない。

 しかし四回転を終えて地に右足を着いたあと、たった二人しかいない観客の様子を確認してみる。それは間違いなく俺を満足させる表情を浮かべてくれていた。


 だが、四回転だけで終わるわけにはいかない。もっともっと二人を魅了してみせる。

 すぐさま右足を左斜め前方に蹴り上げて、後ろに引くと同時に左足を少し上げて、ステップを刻んでいく。


 両手は流れに反るように逆の動きをこなし、上半身を大きく動かして見栄えをよくする。こじんまりとした動きにならないようにするためだ。


 右足を左足にクロスさせたかと思えば、左足を更に左へと伸ばし、右足で身体全体を支える。

 いち、に、さん、とテンポよく舞い、今度は左足を右足にクロスさせて左回りにターンをしてみせた。これは一連の流れによるものなので、伊流院と来宮には流麗に見えるだろう。


 ターンを回り、揃えていた両足をジャンプして左右に開く。

 そして最後のポーズを決めるために、両手を顔の前に交差させる。太陽の光から逃れるかのように、手の平を正面へと向けて動くのを止めた。


 無事に踊り終えた俺は軽く息を吐いて、呼吸を整える。


「……ふぅ、どうだった?」


 ベンチに座る二人に問いかけてみた。特にかっこ悪いところは見せていないからな、それなりの評価はもらえると思うのだが、さてどうなることやら。


 一瞬の静寂のあと、伊流院が立ち上がって目を輝かせた。


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