「あんたはやっぱりダンス部に入るの? それともジャズダンス部を創るの?」
最後に、伊流院が質問を俺にぶつけてきた。
「未定だな。伊流院と同じでダンス部があれば見学してみるよ」
昨日も話したように、一口にダンスと言っても色んなタイプの踊り方がある。その中でも俺はジャズダンスを踊っているわけだが、同じようにジャズダンスを踊ってくれる仲間が見つかるかどうか、それは実際に見学してみなけりゃ分からない。彼方が一緒に踊ってくれれば百人力になったものの、それも今となっては叶わぬ夢だ。アニソンが嫌いなわけじゃないが、だからと言って俺がアニソンで踊る姿なんて想像もつかないからな。
すると、どこか遠くを眺めていた来宮がこちらを向き直し、ニヤリと笑った。
「一度、キミが踊っているところを見てみたいものだね」
「え、」
「そうねっ、それはあたしも同じ意見だわ! というわけで今からちょっと踊ってみせてよ」
「無茶苦茶だな、おい」
その場のノリと勢いで勝手なことを言わないでもらいたい。しかしながら断ろうにも断れないのは、伊流院と来宮がタッグを組んだのが原因か。この二人が同調すると非常に厄介だな。
「……まあ別に構わないけどよ。でもどこで踊るんだよ」
「そうね、それじゃあひと気の少ないところに移るわよ」
どうせならみごや館に戻ってからの方がよかったが、俺の意見をすんなりと通してくれるほどこの二人は優しい性格ではない。渋々ながら、俺はリクエストに応じる羽目になった。
こういう場合、体育館裏や校舎裏に向かうのが定番だと思うんだが、残念なことに今はそれができない。バスケの練習試合を見るためにたくさんのギャラリーが押しかけているし、校舎の方に入るのはさすがにまずいと思ったからだ。
というわけで、俺たちはグラウンドへと移動する。野球部とサッカー部が練習に精を出しているので、グラウンド脇の、なるべく目立たなそうな場所で踊ることにした。
すぐそばに運動部の部室棟があり、ベンチと自販機がある。床はコンクリートだが、これはダンスを踊るにはなかなかいい場所かもしれない。
「コホンッ、……さて」
「偉そうにしてないで、ほら踊ってみせてよ。さっさとしないと野次飛ばすわよ?」
それが偉そうな態度でベンチに腰掛けた奴の言う台詞か。
男だったら殴ってます、きっと。
「ブーブー」
その隣に座って中指を立てる現役アニメ声優は、踊る前からブーイングするのを止めてもらいたい。からかっているのだと頭の中では理解していても、テンションが物凄い速度で急降下していくのを、もはや俺自身に食い止める術はない。
ふぅ、と小さく息を吐いて、瞳を閉じた。
ダンスを踊ってみせるとはいっても、ここには何もない。スピーカーから流れてくる曲に合わせて、決められた振り付けをこなすわけじゃないからな。即興で踊れるだけの場数は踏んできたつもりだし、技やステップも練習してきた。
何者にも縛られることはない。ダンススクールに通っていたときとは違うんだ。
俺が好きなようにステップを組み立てて、振り付けを考えて、観客を魅了すればいいだけの話なんだ。
ただ単純に、伊流院と来宮の二人にジャズダンスとはどのような踊りなのか知ってもらいたい。それだけを目標に踊ろう。俺が表現する世界を見せつけよう。
――そして俺は、瞳を開けた。