「秘密の穴だ。どうだね、驚いたろう? 因みに私のファンクラブに加入すると毎日がサプライズになるから楽しくなるぞ。今なら初回限定大人気アニ――」
「その話はさっき終わっただろ。それよりなんでこんなところに穴が空いてるんだよ」
「私が開けた」
「よし、今から警察に行こうか」
まずはみごや館の管理人に報告して、いやその前に来宮の身柄を拘束した方がいいだろうか。
「隣人が気になったのだから仕方なかろうが」
「隣人って……お前の部屋は二〇三号室だろ」
「ふん、どうやらキミは推理力が著しく乏しいようだね。キミが入居する前は私が二〇二号室に住んでいたのさ。ついこの前二〇三号室の住人が引っ越してしまってね、それで角部屋が良かったから移動させてもらったわけだよ。どぅーゆーあんだすたん?」
「……お前な、せめて穴ぐらい塞いでおけよ。俺の仕業だと勘違いされたらどうするんだよ」
「それはそれで面白そうな事態に発展しそうだから見ものだね」
警察に通報しても今現在二〇二号室に住んでいる俺が捕まりそうだ。
「余談だが私はこの部屋で毎夜の如くとってもおかしなことを繰り返していたのさ」
「おかしなことってなんだよ」
「それを私の口から言わせたいのかい、蜷川?」
これ以上来宮の相手をすれば精神的にしんどい。さっさと話題を戻してしまおう。
「この穴が、お前が見せたかったものなのか?」
「少し違うね。私が見せたいのは、この穴の先に広がるもう一つの世界なのだよ」
来宮の意味不明な行動に付き合うのに疲れてきた俺は、これでもかと眉をしかめているわけだが、クローゼットの中にいる俺の表情は暗闇によって隠されているので見られる心配はない。
「場所を交代するさ」
「おまっ、こんな状態でなに――」
窮屈な空間で身をよじり、来宮は俺の身体に乗りかかってくる。俺と来宮の場所を交代するためとはいえ、これには心臓が止まりそうになった。正直大胆すぎるぞ。
肩や背中に柔らかな物体が触れたのを感じたが、それが果たしてどの部分なのか分からないのが辛い。だれか明かりをください。
「急に喋らなくなったが死んだのかい?」
「……いや、まだ死んでない」
無心になろうと努力したが、もはや下半身が限界だ。それでもどうにか壁に空いた小さな穴を覗ける位置まで移動すると、心の底から安堵する。……否、むしろ残念か。
「ほら、見たまえ」
この穴の先は二〇一号室になるのだが、みごや館に引っ越してきてまだ半日しか経っていないというのに、犯罪者のようなことを仕出かして大丈夫なのかと不安になってくる。
だが誘惑には勝てない。俺は彼方のことが気になっていた。