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【2-3】握手券

「さて、キミをからかって遊ぶのも飽きてきたことだし、そろそろ部屋に戻ろうかな」


 そうなんだろうな、とは思っていた。でもまさか本当にからかわれていたとはな。せめて最後まで秘密にしておいてほしかった。


「そういえば戸松の瞳の色がどうだとか言っていたね。どうしても知りたいのかい?」

「え? おお、教えてくれるのか?」

「甲斐性なしのキミでは戸松本人に聞くことはできそうにないからね。だから隣人のよしみとして私が助け舟を出してあげようじゃないか。そして私のファンクラブに入るといいよ。今なら初回限定大人気アニメ声優の来宮ルイちゃん特製握手券をプレゼントしてあげるさ」

「それを俺に渡して握手しろとでも言うつもりか?」

「キミが望むなら」


 来宮は手を差し出してきた。だがその口元には意地の悪そうな笑みが浮かんでいるので、つい疑ってしまいたくなる。話の内容を気分によってころころと変更しないでくれ。


「どうせそれも俺をからかってるんだろ」

「キミがそのように解釈するのなら別にそれで構わないが、私の握手券は貴重なのだよ? あとになって欲しいと言われても無理だが後悔しないかね?」

「後悔しないから安心しろ」


 来宮は大げさに肩を竦めてみせる。ファンクラブが存在するのかどうか不明だが、断るのはさすがに申し訳ない気分だ。とはいえ来宮は無表情なまま感情の変化を見せようとしないし、それほど気にするようなことでもあるまい。


「それで、彼方のことは教えてくれるのか?」

「くくく……、そんなに戸松の秘密が気になるのならキミに見せたいものがある」


 おもむろに、来宮はクローゼットのドアを開いて中を確認する。上段には衣類をかけるハンガーが吊るされていて、下段には何もない。すると来宮は背を屈めて下段の中に入っていく。


「おい、何してんだよ?」

「静かにしたまえ。バレたくないのならね」


 そう言って、来宮は手招きをする。クローゼットの中に入れと言っているようだ。仕方なく俺はその命令に従おうとしたが、更に奥へと上半身を埋める来宮のお尻が理性的な部分に警告を発してきた。


「……う」

「どうした、早く中に入るといいぞ」


 言われなくてもそうするつもりだ。しかし来宮のお尻から視線を逸らすことができない。別にスカートを穿いているわけではないのだが、どうしてスパッツを穿いているときに男を誘うような体勢を取るんだろうね。


 ピッチリと肌に張り付いて、お尻の形が鮮明に浮き出されているのは目の毒だ。いや待て、目の保養か。もはや思考回路がショート寸前の俺は変態か? ……うん、変態だな、ちくしょうめ。とにかく生理現象的なものを理由に腰を引いて身を屈めるような姿勢になったわけだが結果オーライだ。


「さあ、私の横に来るといい」

「なんだよ、何を見せたいんだ」


 とある箇所を指差しているので確認してみると、壁に穴が空いていた。


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