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【2-2】隣人への興味

「かっ、勝手に入ってくるなよ、変態!」

「変態と言った方が変態であることをキミは知っているのかな?」

「……と、とにかく! いったい何の用だよ?」


 来宮との会話にはブレが生じる。まるでワザとテンポを外しているかのようだ。これが来宮の話し方だとすれば、慣れるまでに相当な労力を必要としそうだな。伊流院なんかはまだ対応できていないように見えたが、それほど付き合うのが難しいタイプなのか。いや、しかし仮にもアニメの声優をしているのだから対人スキルは身につけているはずだよな、だとすれば、やはり俺や伊流院はからかわれている部類に入るのかもしれない。


「ふむ、特に用はないさ。隣人が気になっただけだね」

「なんだそりゃ」


 新手の美人局か、それとも来宮お得意の話術でからかおうとしているのか。どちらも対して変わらないから性質が悪いな。


「蜷川、キミも隣人には興味があるだろう? たとえば二〇三号室の私とか」


 お前は心理学でも専攻しているのかとツッコミを入れたくなるのは置いておくとして、確かに今の俺は隣人に興味がある。それは二〇三号室の住人だけじゃなく、二〇一号室の彼方と管理人室の伊流院も同じだが。


「そういやなんで目が紅いんだ? 彼方ってハーフなのか?」


 とりあえずは、これが今一番知りたいことだ。

 あの日、舞台から下りてきた彼方の瞳は、紅く染まってなどいなかった。

 もし、紅い瞳の色をしていたとすれば、強く印象に残るだろうし、彼方と再会したときに思い出すはずだ。でも、今の彼方は紅い瞳をしている。


「私は教えないね。戸松のことが知りたいのなら戸松本人に聞くがいいさ」

「話を振ってきたくせになんなんだよお前は」


 期待させるだけさせておいて、途中で話を投げ出さないでもらいたい。


「そんなことよりも二〇三号室の住人が何故アニメの声優をしているのかについて興味を抱くような男として最低限の甲斐性というものをキミは持ち合わせてはいないのかね」

「いや別に声優にはそこまで興味ないんだけど」


 アニメは見ても声優には特に興味はない。

 よほど特徴的な声をしているのであれば耳に残るかもしれないが、だとしてもアニメの中の人のことを知りたいとまでは思ったことがないな。視聴者としてアニメを楽しめればそれでいいというのが俺の考えだ。来宮の話を聞くのも面白そうではあるが、今はとにかく彼方の過去に何があったのか知りたい。


「どうやらキミは甲斐性なしのようだな。私がアニメのイベントに出たときはファンのみんなが私の名前を叫びまくっていたというのに蓋を開けてみればこのざまか。がっかりだよ」

「それはそいつらがお前のファンだからだろうが。っていうかそんなに人気あるのかよ?」


 アニメのイベントに出れるほど来宮に人気があるという事実に少し驚いた。確かに独特な話し方をする来宮は一部の層に人気が出てもおかしくなさそうな気がするな。低身長で胸が大きいのも一役買っていそうだ。


「おや、ようやく私のことを知りたくなってきたようだね? いやこれも全てはファンを大事にする私の力によるものかな。罪深いという言葉は私のような存在に当て嵌まるのだね」


 しかし話が通じたようで実は通じていないのが致命的か。


「私の秘密をもっと知りたければファンクラブに入って死ぬ気で死に物狂いで死に直面しうるほどに布教活動に取り組んでもらおうか」

「そう簡単に死にたくないから遠慮しておく」


 もし仮に俺が来宮のファンだとすれば、部屋に二人きりというシチュエーションはとんでもない状況だといえるが、残念ながら俺は来宮のファンではない。嬉しすぎて発狂したり失神したりするような事態は免れそうだ。


「蜷川、キミはすこぶるノリが悪いな」

「そういう来宮はマイペースすぎるぞ」

「くくっ、よく言われる。……アニメの声優というのも、なかなかに大変なお仕事なのだよ」


 一応まだ高校生にはなっていないわけだから、来宮は中学生の時点ですでに声優として仕事を頑張っていることになる。


 声優の仕事がどんなものなのか俺にはまったく分からないが、それでもやはりこの年で仕事をこなしているのは純粋に凄いと思う。


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