「どう? 住み心地は良さそうでしょ」
「そうだな、あとは管理人さんがしっかりと掃除してくれれば文句の付け所がない」
「したいなら勝手にしていいわよ。あたしは止めないから」
ホテルの管理人が住人に掃除をさせるなんてことは普通じゃ有り得ないんだが、みごや館ではどうやらその常識が通用しないらしい。住人の訴えなど黙殺されそうだ。
「お昼食べに行くついでにみごや館の周辺にあるお店とか教えてあげるわ。けっこう近いところにスーパーとコンビニがあるのよね。スーパーは夜十一時まで開いてるから便利よ」
「ほー、そりゃ助かる」
同年代の女の子と、それも来週から同じ学校に通う同級生と、こうやって二人で話す機会が訪れようとは思ってもみなかった。小学四年生から中学卒業までの六年間は、黒歴史として全てを隠滅しておきたいところなので、現状には大満足といえよう。
小学校から通っていたダンススクールで同じクラスのレッスン生が一人残らず女だったにもかかわらず、紅一点の逆の地位を確立していたというのに、他のレッスン生と話をすることはおろか、覚え切れない振り付けを教えてもらうことさえできなかった。あの疎外感は今でも忘れられない思い出の一つだ。友達はハーレムだから羨ましいと言っていたが、理想と現実の差が激しすぎる。ダンススクールに通い始めたのが、まさに暗黒時代の幕開けだったのかもしれない。だがそれも今となっては過去の話だ。
一見、伊流院は口が悪いのが玉に瑕だが、見た目は物凄く可愛いし、それになんだかんだで優しい一面も見せてもらったのが俺としては好印象だ。それに二〇一号室の戸松彼方。第一印象は微妙な気がしないでもないが、こちらも伊流院に匹敵するほどの美人だ。彼女には色々と聞いてみたいことがあるので、機会を窺って話しかけてみよう。
そうこうしているうちに、戸松が二階から下りてきた。
「……おぉ」
今度はじっくりと、戸松の姿を視界に映し出す。
背中まで届くほどの長い黒髪と、前髪をゴムで横に結ぶ奇抜な髪型に、アンバランスさを強調する小柄な体躯、けれどもすらっとした肢体は白磁のように美しく、透き通るような紅い瞳に見るもの全てを魅惑へと陥れそうな雰囲気を醸し出している。追加注文をするならば、できれば笑っている顔も見てみたい。口元がぎこちないので無理そうなのが残念だ。因みに胸の大きさは平均並みかな。このぐらいがちょうどいい……いや、すまん、なんだか変態染みてきたからこのへんで止めておこう。
しかし何故、寝間着姿のままなんだろうね。これは伊流院のツッコミ待ちということでいいのかな。因みに、眼鏡も装着していた。実は眼鏡っ娘だったのか。