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第10話 制限解除

 山賊砦二階の窓から飛び降りたオレは、裏門まで走ると、そこにいた山賊二人に襲いかかった。


 百メートル六秒の勢いのまま山賊に斬りかかるのだ。そりゃ一瞬で山賊二人の胴も真っ二つにもなるってもんだ。


 しかも、女神から授かっただけあって、オレの剣は何人斬ろうがあぶらで斬れなくなるということもなく、いつまでも鋭い切れ味のままだった。

 人を両断する感触なんざ、せいぜい大根を切る程度の抵抗でしかないときた。

 ここまでくると、人を殺すという禁忌への感覚が麻痺しちまうのが難点だな。


「オレはここにいるぞ!!」


 さっきとは反対側から大広間に入ったオレは、大声を上げた。


 闖入者捜索ちんにゅうしゃそうさくで騒然としていたところにターゲットが自ら名乗り出たのだ。山賊どもが怒声を上げつつ集まってくる。

 山賊全員が広間に集結してくれたお陰で、フィオナのいる部屋をこじ開けようとする者はいなくなった。よしよし。


「この血まみれブルーディギリアン様の砦に襲撃を仕かけるとはいい度胸だ。このアクスで真っ二つにしてくれるから、名前を名乗れぃ!!!!」


 身長二メートルはありそうな、ハゲでムキムキマッチョな大男がオレに向かって恫喝どうかつの声を投げてきた。

 そうか。コイツがボスか。

 名乗りの通り、柄の長さ二メートル、刃の長さ五十センチもありそうな巨大な両刃の斧をその手に握っている。


 確かにこんな巨大な斧が当たったら大怪我するだろうな。……当たればだけど。

 周りの山賊どもも、一人残らず剣を抜く。

 オレはコキコキっと首を鳴らすと、剣を構えた。


「山賊なんぞに名乗る名なんてない。一人残らず返り討ちにしてやるから、とっととかかってこい」

「なんだとぅ!? かかれぇぇぇええ!!」


 オレの挑発のせいで少ない脳みそがあっという間に沸騰したか、山賊たちは大声を上げつつ、一斉にオレに向かって駆けてきた。

 山賊どもも、オレを生かして帰す気はないだろう。

 だが残念。オレもフィオナの件では怒り心頭だ。お前らを一人として生かしておくつもりはない。 


制限解除リストリクションリリース、スタート!」


 オレは広間中に響き渡る大声で叫んだ。


 ◇◆◇◆◇


 途端に周囲の時間がゆっくりになった。

 頭の片隅にゲージが浮かぶ。制限時間は五秒だ。

 オレは迷う間もなく、ストップモーションと化した山賊に斬りかかった。


 離れてこの様子を見ている人がいたとして。

 おそらくソイツにも何が起こったかさっぱり分からなかったことだろう。


 たった五秒。

 瞬きする間に目に見えない旋風が大広間を駆け抜け、それが過ぎ去ったとき、ボスも含めて三十人もいた山賊たちは人の形すら留めることなく、一人残らず肉片と化していたのだから。


 ――何が起きていたのか。


 制限時間つきだが、常人を遥かに超える腕力と脚力を得たオレは、秒速三百四十メートル――音速で大広間を駆け抜け、その力を全て山賊にぶつけた。

 さすがに音速で斬りつけるとなると、剣が当たった瞬間に山賊の身体がはじけて肉片へと変わる。


 ところがだ。

 人間の限界を超えた動きをするからか、山賊を斬りつけているオレ自身も同時に拳が砕け、脚の骨が折れ、ドンドン身体が破壊されていくのだ。


 だが、これだけ身体がボロボロになるにも関わらず、なぜだか痛みが一切ない。

 しかも、超回復も大幅に強化されているようで、壊れた部位が瞬時に修復される。

 下手すりゃ破壊より再生の方が早いんじゃないかってくらいの勢いでオレの壊れた身体が治りやがる。


 通常人間は、巨大な潜在能力を持っているにも関わらず、それをフルに発揮できないようリミッターがかけられている。

 一定以上の力を出すと、その衝撃に身体が耐えられずに壊れてしまうからだ。

 どうやらオレのこの能力は、人間が無意識に持っているこのリミッターを、人為的に外す能力のようなのだ。 


 そうしてオレは山賊どもに剣を振るいながらも、ある疑問に取り憑かれていた。

 すなわち、自分の身体がこれだけ派手にぶっ壊れているのに痛みを一切感じないのはおかしいだろうと。

 オレはその理由をこの後すぐ、嫌というほど味わうことになる。


 ……イチ、ゼロ。


 制限時間の五秒が過ぎて、ゆっくり立ち止まったオレは……。


「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!」


 途端に、四肢を引き裂かれるような激しい痛みが一斉にオレに襲いかかってきた。

 耐え切れず、絶叫しながら床に突っ伏す。

 駄目だ、痛みが激しすぎて指一本動かせない。息もできない。


 制限時間内の痛みは後回しにされていただけで、後からキッチリやってきた。

 制限解除中、オレの全身の骨は何十回折れた? 筋肉は何百回裂けた?

 エゲツねぇ……。


「とんでもない能力を授けてくれたな、あの銀髪ロリ女神は……」


 オレは床に這いつくばったまま、ひっきりなしに襲いかかってくる激しい痛みと格闘しつつ考えた。


 能力使用後に毎回こんな状態になるとしたら、どうあっても制限時間内に敵を倒し切らないといけないってことだ。

 でないと、生き残った敵を前に完全に無防備になる。

 さすがのオレも、首を落とされて生きていられるとは思えない。

 使いどころを間違えると一巻の終わりだぞ。


 五分ほどしてやっと痛みが薄らいで、身体を動かせるようになったオレは、その場で立ち上がると改めて周囲を見回した。


 当然のことだが、大広間に立っているのはオレ一人だけ。

 山賊は一人残らず血まみれの肉塊と化して、広場中に散らばっていた。

 自分でやっといてなんだが、思わずため息が出る。


「能力が分からないなりに予想して、裏門の山賊を先に倒しておいて大正解だったぜ。んじゃフィオナを解放しに行くか」


 オレはドっと襲ってくる疲れを感じながら、山賊が一人もいなくなった砦の階段を、フィオナの待つ二階に向かってゆっくり上って行った。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝。

 部屋に差し込む朝日に起こされたオレは、ベッドに腰かけながら周囲を見回した。

 二十畳程の広さの部屋の中央に、粗末な木製のベッドが二台、ピッタリ着けて置いてある。

 一台じゃ狭かったから、二台並べてキングサイズにしたのだ。


 万が一山賊が生き残っていたらと考え、ドアにはつっかえ棒としてベッド四台置いたままだが、誰もこなかったところを見ると、ここの山賊は昨夜の騒動で全員死んだらしい。

 そう。ここは山賊砦の中の一室だ。


 昨夜大暴れした後にフィオナと話し合って、今夜はこのまま砦に泊まろうということになったのだ。

 夜の山道を進むのはさすがに危険だからな。

 オレはどっちかというと砦の中に幽霊でも出るんじゃないかと内心ドキドキしていたのだが、そんなこともなく意外と熟睡できた。

 造りは良くなかったが、ちゃんと木製のベッドだったからかもしれない。


 オレは寝起きのまだちょっとボーっとする頭で、先ほどまで寝ていたベッドを見た。


 真っ白なシーツから覗く、ツヤツヤスベスベの綺麗な生尻。

 オレは何の気なしに手を伸ばし、そっと撫でてみた。


「あん。おはよー、テッペー。もぅ、昨夜散々したでしょ? 朝からえっちなんだからぁ……」


 眠気混じりの甘え声に、昨夜のフィオナの痴態ちたいを思いだしたオレの鼻の下がみるみる伸びる。


 フィオナはベッドの上で上半身を起こして軽く伸びをすると、傍に置いてあったバッグをゴソゴソと漁り、下着を取りだした。

 見られているとやはり恥ずかしいのか、オレに真っ白な背中を向けて新しい下着を身に着ける。


 今日身に着けるのは、黒のレースで縁取られた紫色のサテンのランジェリーのようだ。

 それはあかん!!


「フィオナぁぁぁぁ!!」

「ちょ、テッペー! 今日は距離を稼がないと……あぁん、ダメぇぇぇぇ!!」


 我慢できなくなったオレは、朝っぱらからフィオナを押し倒した。

 違うんだ。

 これは不可抗力であって、不幸な事故が重なっただけであって、決してオレのせいじゃないんだ!


 ……それはさておき。


 どうやらフィオナは全身弱点だらけのようで、あっという間に弱点を発見したオレは、反応が楽しくてついつい重点的に、激しめに、いやらしく攻めてしまった。

 だもんで、朝っぱらからフィオナのあえぎ声が盛大に砦中に響き渡ったが、ま、オレたち以外誰もいないから良しとしよう。


 結局砦を出たのは陽が高く昇ってからだったが、こっちにきてから自家発電さえしてなかったし、よかろ?

 うーん、スッキリ。


 荷物を纏めたオレたちは、出発する前に砦に火を放った。


 一晩経って見てみると、現場は見た目も臭いも酷い有様だった。

 怒りに任せてガムシャラに斬りまくったせいで、広場には飛び散った大量の血と共にあちこち身体の部位が転がっているし、肉片は壁にまで貼りついていて、とてもじゃないがオレとフィオナ二人じゃ片づけられなかったのだ。


 だがこれで、野犬の群れが現れることもないだろう。

 ……山賊の幽霊は出るかもしれないが。


「さ、行こうぜ、フィオナ」

「あん、待って、テッペー。ふふっ」


 これから再び山道を進むってのに、女子高生の制服を着たフィオナがニッコニコで腕を絡めてきた。


 身体は立派な大人だったし、この世界ではちゃんと成人扱いされているって話だったからついつい手を出してしまったが、お陰でいきなり距離が縮まってしまった。

 にしても、まさかフィオナが初めてだったとは……。


 そんなわけで、久しぶりに下半身がスッキリとなったオレは、ヒョコヒョコと歩きづらそうにするフィオナと共に、改めて山道を進むのであった。

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