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第9話 山賊砦急襲

 山賊を追って十分。

 山賊の根城――砦は思いのほか早く見つかった。


 夜の闇の中にいきなり開けた場所が現れ、その中央に、盛大にかがり火が焚かれた建物がデンと建てられていたのだ。

 そこら辺の小学校の体育館くらいの大きさがある。


 これだけの規模の砦を山賊ごときが建てられるとも思えないから、おそらく軍事用に作られ、打ち捨てられた廃砦の再利用なのだろう。


 にしても、ビックリするくらいの速度で山道を踏破したぞ。獣道けものみちを走りっぱなしだったわりに疲れを全く感じていない。どうなってるんだ? これ。


 だがオレはフィオナの救出が最優先と、自身の身体についての疑問を後回しにし、砦への侵入経路について考えた。


 はやる気持ちを抑え、注意深く砦の外周を一周してみる。


 よく見ると、山賊どもの手によるものか、砦にはあちこち修繕しゅうぜんあとがあった。

 仲間内に大工でもいるのか、思った以上に丁寧な修繕がなされているので、廃砦とはいえこれならまだまだ現役で使えそうだ。


 とりあえず一周してみたが、さすがにその広さを警備するのには構成人数が足りていないようで、正門・裏門に各二人ずつしか見張りを残していない。


 ふむ。小細工したところで始まらない。んじゃま、そろそろ行きますか。


 オレは薮から飛びだすと、正門に向かって一気に走りだした。

 何もないところを二十メートルも走るのだ。そりゃあっという間に見つかる。


 ただ、正門担当の山賊にとって予想外だったのが、オレの走る速さが常人離れしていたことだ。


 冒険を開始してからずっとおかしいなとは思っていた。

 速さにしても力にしても、全力を出すと常人を遥かに超える結果がだせるのだ。


 多分、今のオレが百メートル走をしたら六秒で走り切れるし、秒で硬球を握りつぶせるだろう。

 勇者の力の一端って奴だ。


 よし、この走りを韋駄天足いだてんそくと名付けよう。……カッコいいからな!


「韋駄天足!!」


 オレは、驚愕に目を見開く山賊二人に一気に走り寄ると、一刀で斬り捨てた。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁああ!!」


 斬られた山賊がデカい悲鳴を上げる。

 やべぇ! 想定より大きな悲鳴を上げさせちまった。こりゃ愚図愚図ぐずぐずしていられねぇぞ!


 オレは砦の内部に入り込むと、ノンストップで奥へ奥へと走った。

 悲鳴を聞いて駆けつけた新たな山賊たちが、すれ違いざまのオレの一刀で一人残らず骨ごと真っ二つになる。


 力が妙に強い。

 怒りのせいでタガが外れているのか、もはや『斬る』を越え、『切断する』のレベルになっている。

 もちろんオレも斬りつけられるが、興奮しているからかいつもより回復が早い。

 走っている間に傷が塞がる。 


 そして、篝火かがりびが何個も焚かれて一際明るくなっている大広間に辿り着いたとき、オレはそこに目的の人物を見つけた。

 フィオナだ。


 手足を縛られ、全裸で転がされている。

 まずは酒を飲みながら美女のすっぽんぽん鑑賞としたのか、服を剝かれてはいるものの、乱暴はまだ受けていないようだ。 


 大勢でワイワイ騒ぎながら酒を飲んでいたせいで、侵入の際のゴタゴタがここまで聞こえて来なかったのだ。

 ラッキー!


 オレはそこにいた山賊ども三十人ほどが振り返る時間さえ与えず、二十メートルを一秒で走破すると、転がされていたフィオナを担ぎ上げ、大広間の壁沿いに設置された階段を駆け上がって手近の部屋に飛び込んだ。


 普通にそこは雑魚寝部屋ざこねべやのようで、無人のベッドが六台整然と並んでいる。


「どりゃあ!!」


 オレは部屋の扉を閉めると、膂力りょりょく遺憾無いかんなく発揮し、扉に向かって六台のベッド全てをドカドカと一瞬で積み重ねて内側からのつっかえ棒とした。

 木製のベッドはおそらく一台五十キロ。六台でざっと三百キロってところだ。


 廊下側から脅しの怒声や扉を押し開けようとするかけ声が激しく聞こえてくるが、さすがに三百キロのつっかえ棒を動かすのは容易ではないらしく、扉はビクともしない。


 そりゃ山賊が三十人いようが、扉に一度にアタックできる人数なんてたかが知れているもんな。


 オレはそれを確認すると、フィオナに近寄り、手足を縛っていたロープを切った。


「ふぇぇぇぇ、テッペーぇぇぇぇ!!」


 フィオナが号泣しながらオレに抱きついてくる。

 オレはフィオナをギュっと抱き締め、髪を優しく撫でてやった。


「大丈夫だ。もう大丈夫だ。オレがいるからな!」

「うん、うん!」


 オレはフィオナが多少泣き止むのを待って、そのすっぽんぽんの身体にベッド用のシーツをかけた。


「……乱暴はされていないか?」

「うん、まだ。服はかれたけど、すぐ酒盛りが始まっちゃって。テッペーは平気なの? 心臓に思いっきりナイフが突き刺さって、完全に死んでいたように見えたけど」

「オレは平気。なにせ女神さまの加護があるからな。さて、そろそろオレは山賊退治に行ってくるぞ。フィオナ、待っていられるか?」

「やぁだ、やぁだ、わたしも行くぅぅ!!」


 フィオナが泣きながらオレの腕にしがみついてきた。

 うぅ、可愛い! そして、なんて綺麗なんだ! エキゾチックな顔立ちのすっぽんぽん美女だぜ? しかも薄いシーツ一枚羽織っただけだから、わがままボディが丸わかりだよ。くぅ!


 たが、オレは『今じゃない』と性欲を何とかうっちゃり、優しくフィオナをさとした。


「この部屋の扉は外からは開けられない。ここにいてくれたらオレも安心なんだ。間違って巻き込んだら大変なことになるし、多分ここから先は酷いことになるから」

「テッペーが死んだら?」

「死なない。ってーか、人間の攻撃程度じゃ死ねないって分かった。フィオナもこれで分かったろ? 女神の加護のこと」

「でもぉ……」


 フィオナがオレの右腕にしがみついたまま、ブルンブルン身体を震わした。

 その度に、右に左に見事な美巨乳が揺れまくる。

 おぱ、おぱ、おぱぁ……やべぇ、鼻血出そう。


「大人しくお留守番してろ。すぐ戻る!」


 オレはフィオナの腕を優しく引き剥がすと、扉と反対方向に開いている窓から外に飛び降りた。

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