「うおっ!」
ガっ! ガガっ!!
オレは体当たりをしてきた大ネズミを剣を盾にして受けると、衝撃で
いやいや、『大』って言ったろ? ネズミと言って馬鹿にしてはいけない。コイツらネズミのくせに土佐犬レベルの大きさがありやがるんだぜ?
そんなのが本気で体当たりしてくるんだもん、そりゃ結構な威力があるだろうさ。
それに、爪だって歯だっておそらく病原菌がウヨウヨしてやがるぞ?
毒は勘弁して欲しいなぁ。
どうもオレたちはコイツらの縄張りに偶然侵入してしまったようで、さっきからひっきりなしに襲ってきやがる。
「くっそ、でぇい!!」
シャカーーン!!
何匹目かの大ネズミを攻撃したとき、切れ味がいきなり変化した。
ううん、切れ味だけじゃない。自覚できるくらいオレ自身の動きも変化した。
例えるなら、さっきまでの
動きも、ド素人から剣道部員くらいには
その証拠に、大ネズミが綺麗に切り裂かれている。
「なるほど、こうやるのか。うはははは!」
敵を一定数倒して勇者としてのレベルが上がったとでもいうのか、剣での戦闘に実感を覚えたオレは、時に大剣でガードし、時に蹴り飛ばし、時に斬りつけてと、自在に剣を振るった。
いつの間にやら、時代劇の将軍さまみたいな立ち回りができるようになってやがる。何だか楽しくなってきたぞ!
もちろん、多少動きが良くなったとて達人の域に達したわけでなし。
たまに敵の攻撃が身体のどこかに当たったりするが、思ったほどダメージは感じない。
動きが良くなって、芯をズラせるようになったからだろう。
傷を受けてもオレには超回復があるし、この程度なら問題ない。
「この辺りの敵はあらかた倒せたみたい。結界を張るからちょっと休憩にしましょ」
「お、いいねぇ。頼む」
ちょうど倒木があったので、座らせてもらうことにする。
「はい、どうぞ」
フィオナは魔法であっという間に湯を沸かすと、オレに金属製のマグを差しだした。
「さんきゅ。おぉ、あっつ。あぁ、でも温まるな。美味いよこれ。疲れが取れる気がする」
「でしょう? 特製の
「それそれ、それだよ」
オレはティーカップを左手に持ちながら、ちょっと立ってその場に落ちていた
赤、青、黄とさまざまな色や形があるが、総じて小さい。
雑魚だからなんだろうが、まぁ塵も積もればだ。
大ネズミの身体は霞のように消え去っているから、こいつら魔物が普通の動物と全く違う物質構成をしているのは分かった。でも、そんなことってあり得るのか?
「それって?」
フィオナが焚火を前に小首を傾げる。
その表情、むっちゃ可愛い!
「魔物って何だ?」
「何って言われても、そういうモノだとしか言いようがないわ。生ある者を襲い、食らう事を第一の行動目的にしている。より知能の高い生物を狙う傾向があって、異常繁殖した場合には村を襲ったりするから、見つけたら速攻倒すことが推奨されているわ」
「ふぅん……。目、赤かったな」
「そうね。それが魔物、魔族の特徴よ。見た瞬間分かるでしょ?」
「確かに」
オレは茶をズズっとすすった。
あぁ、身体がポカポカしてくる。ホっとするなぁ。
「魔王が存在するってことは、やっぱり魔族ってのもいるのか?」
「いるわよ。その内会えるでしょうけど、今のテッペーだととてもじゃないけど敵わないから、もし会っても逃げることね」
ちょっとカチンときたが、昨日今日冒険を始めたばかりのオレに敵うわけないってのはその通りだ。
接敵したときに逃げられるかどうかは微妙だが。
「どんなヤツらなんだ? その……魔族ってのは」
会ったときにそれと分からなければ避けようがないからな。
フィオナは焚火を前に、マグカップのお茶をズズっとすすった。
「生態は不明。でも魔族はパっと見、わたしたち人間とさほど変わらないわ。そうね、彼らなりのこだわりなのか、黒系の衣装を好んで着ている魔族が多いかしら。あとは頭に角が生えてて。それでたまに集落を襲って人間を食べるの」
「……は? 人間を? 食べる? どうやって?」
「どうやって? バクゥゥゥ! って頭からボリボリ。魔族の食事シーンは夢に見るくらいグロいわよ。要するに、魔族は人間より更に上位、食物連鎖の頂点にいるのよ」
オレはあまりのことに思考停止した。
「で、でも言葉が交わせるんだろう? なのに魔族は人間を食すのか? 奴ら、知能ある生命体を食うことに抵抗を感じないのか?」
フィオナが呆れ顔でオレを見る。
「テッペーは牛や豚が喋ったら食べるのを止める? 世の中には野菜しか食べない人もいるみたいだけど、やっぱりお肉を食べないと体調を崩すわよ?」
「あぁ……まぁ……そうだな。だからこそ食事の前に、『命を』いただきますって言うんだもんな」
「そういうこと。だからって素直に食べられてやるわけにもいかないから抵抗するけどさ。正直、彼らが何を考えているのかなんて分からないわよ。だって思考回路も感情も我々とは違いすぎるんだもん。ただとりあえず、人間を食料としか思っていないってことだけは確実ね。だから犠牲者を出さないよう出会ったら確実に殺す。それだけよ」
勇者として魔王討伐の旅をしていく以上、どこかしらで衝突する可能性はあるんだろうけど、強そうだし、あんまり早くには出くわしたくないな。
そんなことを思いながら、オレはフィオナにお茶のお代わりを所望したのであった。