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第6話 冒険者

 魔物は体内に魔素機関と呼ばれる臓器を持っている……らしい。


 らしい、と言うのは、怪魚がそうであったように、奴ら、死ぬとその場に魔核デモンズコアと呼ばれる物質を残して身体が淡雪のように溶けて消えちまうから、そう想像しているってだけの話だ。


 魔核の成分は魔素と呼ばれる物質の塊なんだそうだが、アコヤ貝が体内に真珠を生成するようなものなのかね。

 現代科学でも持ち込めればそれなりのことが分かるのかもしれないが、現状無理なので謎のままと。


 魔核は色も形も様々な上に総じて硬いので、宝石のように色や傷の有無、硬さ、透明度合といった基準で選分えりわけられて、価値の高いモノは宝石として、価値の低いモノは削って魔法具の素材や触媒、薬などに加工される。


 そうやって冒険者は、街や村にあだなす魔物を狩り、その場に残った魔核を売って生計を立てていると。上手いことできているもんだ。


「……ねぇ。それどうにかならない? コーディネートが台なしだよ?」

「それ? ガイコツ?」

「ネクタイも! 外しなよ」

「ネクタイはオレのアイデンティティだから外せん! そしてガイコツは外れんのだ!」


 服屋で試着をしたオレは、鏡に写った自分を繁々しげしげと眺めた。

 白い生成りのチュニックに幅が広めの皮ベルト。ベージュのズボンに茶色のブーツ。

 うーむ、実に冒険者っぽい格好だ。


 これにマントを羽織はおるわけだが、そうか、白いチュニックに臙脂えんじのネクタイは合わないか。まぁでも仕方ない。このネクタイは昔、生徒からプレゼントされた宝物だからな。


 次にオレは、いつの間にやら首からぶら下がっていたガイコツ人形を眺めた。

 ほら、高速のサービスエリアなんかで売っているだろう? 全長十センチほどの大きさで、四肢が丸カンで繋がった安っぽい蓄光ちっこうのガイコツ人形。

 目の部分に赤いスワロフスキーか何かが埋め込んであってさ。もうあのまんま。

 もちろんオレの趣味じゃない。


 だが、これがどういうわけだか、首から外そうとしても全く外れない。

 ネックレスのチェーンも人形も普通に手で握れるのにだ。

 こりゃのろいだね。もしくは祝福か。


 こんなことをやりそうなのは銀髪ロリ女神しかいないから、おそらくこれは、その見た目に反して重要なアイテムなのだろう。

 そのうち何かが起きるだろうから、嫌だけどそのまま放っておこう。


「防具は? なくて本当にいいの?」

「うーん、どうにもピンと来る物がなくてな。とりあえず次の町までいいや。まぁオレには超回復があるから心配するな」


 いや、多分ないと困るとは思うんだけどな?


 この町は規模がさほど大きくないようで、武器防具は雑貨屋の片隅に小さな専用コーナーを設けて売られていた。

 だもんで数も種類も限られていて、正直、ダサい量産品しかなかったのだ。


 これしかないからってダサい物を買うより、ちょっと我慢して良い物を買った方がいいだろう?

 ということで、とりあえずこの町での防具購入はパスすることにしたのだ。


 それよりもだ。……とオレは自分の剣を抜いてみた。

 確認したが、オレがこの異世界に辿り着いたときに持っていたものは、ボロボロになって捨てちまったスーツ以外は、ネクタイとガイコツとこの剣だけだ。


「なぁ店主マスター。あんたならこの剣、いくらで買い取る?」


 考えた挙句、オレはベルトについたソードホルダーから大剣を鞘ごと引っこ抜くと、カウンターにゴトっと置いた。

 ふむ。ガイコツと違って問題なく身体から離れるな、この剣は。そりゃそうか。


 熊みたいな巨体をしたヒゲずらの中年店主は、自前のルーペを覗きこんで様々な角度から細かく確認していたが、やがてため息をついて言った。


「こいつは買い取れねぇな」

「何でだよ」

「コイツは俺のような小さな町の雑貨屋風情には良く分からん何かの仕掛けがしてあるようだぞ。手放しちゃ駄目だ。それにこれ、何か凄い嫌な感じがするしな」

「何だよ、嫌な感じって! 変なこと言うなよ。呪いでも掛かっているのか?」

「んー、呪いってほどのものでもないけどな? たまにあるんだ、こういうしな。所有者のあかしが刻まれてるって感じで、他の人間が所持しようとすると不快感を与えてくるんだよ。場合によっては解呪した途端に別のもっと厄介な呪いを引き起こしたりするから下手に手を出すとヤバいんだ。どうしても手放したかったら、高位の神官でも見つけて解呪してもらうんだな」


 やっぱり銀髪ロリ女神のしわざか……。


 オレは店主に礼を言って大剣を再び身につけた。

 ってことは、弓だのダガーだのといった他の武器に浮気せず、この剣を最後までオレのメイン武器にしろってことだ。

 魔王戦でも使うんだろうから、それまでに仕掛けもしっかり解いて、キッチリ使いこなせるようにしないとな。


「んで? ここからの行き先は?」


 言われるがまま道中必要な物を買い揃えたオレは、町の外に出ると、遥か前方に広がる山を睨みつけつつフィオナに尋ねた。


 ここからは、戦闘をしたり謎を解いたりと、魔王を倒すための過酷な旅になる。

 ひょっとしたら年単位の旅になるかもしれないが、ギャルをパートナーに旅ができるわけだし、魔王討伐に成功すれば死ぬ前の時間に戻れるってんなら、焦ることはないだろ。

 楽観視すぎる? なぁに、旅のスタートからブルってちゃ始まらないと思っているだけさ。


「ヴェルクドール。山を幾つか越えた先にあるわたしの故郷」

「そうか。……ちなみにそこまで歩き?」

「そうね、歩きね」

「歩きで山を越えるのかぁ……。タクシー呼べないかな?」

「それが何だかは分からないけど、頑張って歩きましょ」

「はいはい」


 こうしてオレは、魔王討伐の旅の、初めの一歩を踏み出したのであった。

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