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第3話 ガチャを回せ

 異世界転生……。

 漫画か小説の中でしかなかったシチュエーションが突きつけられたオレは、流石に言葉を失った。


「あの、でもメロディちゃん? さっき生き返らせてくれるって言ってなかったっけ?」


 恐る恐る尋ねるオレを、銀髪ロリ女神が呆れた表情で見る。


『おいおいニンゲンよ。タダで生き返れるわけがなかろう? 何事にも対価は必要じゃ。……そうさの。お前が無事魔王討伐を成し遂げたら、車に轢かれる前の時間に送ってやる。条件としては妥当じゃろ?』


 銀髪ロリ女神が芝居がかったワザとらしい演技をしつつ、肩をすくめてみせる。

 可哀想だから仕方なく復活の道を残してやろう、とでも言いたげな表情だが、魔王討伐なんて、キッツい旅になるに決まっている。

 こちらがそれに乗るしかないと分かっているクセに! キィィィィィ!


 だが、とオレは考える。


 事故前の時間軸に戻れるって取引は、乗るだけの価値がありそうだ。それに、ただのニンゲンにすぎないオレに悪の親玉たる魔王の討伐話を持ちかけるってことは、やり方次第で成功する可能性があるってことだろう?


 だが、ニンゲンの考えることなどお見通しとでも言わんばかりに、銀髪ロリ女神はニヤリと笑った。


『心配するな、ニンゲンよ。お前のような貧弱脆弱な者でも魔王を倒せるよう、色々特典をつけてやるから。とりあえず一人だと向こうの事情も分からず不安じゃろう? そこで、こんなものを用意した。見よ!!』


 銀髪のロリババア・女神メロディアースが玉座に座ったままパチンと親指を弾くと、オレたちのすぐ真後ろに突如、巨大な機械マシンが出現した。


「何だこりゃ……」

『何って、見ての通りガチャじゃ。こういうときはガチャをやるのが最近の流行はやりなのじゃろう? じゃから用意してやったぞ』


 オレは目の前にあるモノを呆然と見上げた。

 確かにそれは、今ではスーパーや本屋、果てはホームセンターにまで置いてある、あのガチャガチャの機械マシンだった。

 ただし、サイズ感が半端ない。

 全長十メートルはありそうなくらいデカい。


 だがよく見ると、カプセル用の出口がどこにもない。

 普通なら機械の下部に景品の出口があるはずなのだが、それらしきものがどこにも見当たらない。


 下部中央辺りにハンドル代わりなのか、直径一メートル程の総舵輪がついているところから察するに、確かにガチャの機械のようなのだが……。


「これ、回しても景品出そうにないけど?」


 オレは当然の質問をしてみた。

 だが銀髪ロリ女神は、皆まで言うなとでも言いたげに右手の人差し指を立て、チッチッチと振ってみせた。


『おいおいニンゲンよ。お主には見えんのか? あのモニターが』


 言われて見てみると、総舵輪の直上に縦長の五十インチサイズモニターが五個、横並びについている。


『このガチャを五回、回すが良い。その結果、この五枚のモニターに一人ずつ計五名分の冒険者の映像が映し出されるので、お前はその中からパートナーを一人選び、共に旅をするのだ。さぁ、状況が飲み込めたらサッサとハンドルを回せ!』


 後が無い感いっぱいのオレは、頬を引きらせながら祈るような思いでガチャを回した。 


 ◇◆◇◆◇


 一番……中年熟女魔法使い♀

 二番……生真面目そうな青年僧侶♂

 三番……チンピラ風少年盗賊♂

 四番……マッチョオッサン戦士♂

 五番……ギャル系セクシー魔法使い♀


 まるで、映画館にズラリと貼られたポスターみたいに、五枚の映像がそれぞれのモニターに並ぶ。

 映像はGIF映像のように、三秒ほどの動画を延々繰り返しているのだが、何か録画機器とでも繋がっているのか、右上端に『外部入力』と入っている。


「こ、こここ、この中から選べって?」


 だが、五枚揃った瞬間からオレの目線は五番に釘づけだ。


 まるでネットカフェのトイレに貼ってあるセクシー系ポスターを、さも『見たいわけじゃ無いんだけど、用を足すついでについ目に入っちゃってね』的な要領でチラチラ見たが、まぁどうせこの銀髪ロリババアにはお見通しなんだろう。


 それは、クロアチアとかハンガリーとか、東欧系の見た目をした十代後半の美少女だった。

 髪は胸までの長さの、輝くばかりの金髪のストレートロングだが、生え際や毛先にわずかなムラさえないのは、脱色やカラーではなく、地毛が金髪だからなのだろう。


 目は鮮やかなマリンブルー。

 金色のまつ毛が驚くほど長く、これでもかというくらいカールしている。

 出身地の恩恵か、鼻筋が真っ直ぐ通り、産毛まで金色に光っている。

 眉は整えているのか、意外にも細い。

 口元は、ただでさえ可愛いのに口紅のせいでピンクに濡れ光っている。


 服装は、白いブラウスに銀の線が斜めに入った赤いネクタイを緩めに締め、スカートはふとももがバッチリ見えるたっぷりプリーツのグレーのミニ。

 ふくらはぎまでの紺のハイソックスに黒のローファー。

 ベージュのカーディガンを着ているのだが、わざと大きめのサイズを選んでいるようで、手が半分、スカートも上半分ほど隠れてしまっている。


 ブラウスのボタンが弾け飛びそうなほど胸が大きく、そのくせ腰回りは驚くほど細く、ほんのちょっと屈んだだけでパンツが見えそうなスカートの短さに、もはや興奮が隠しきれない。


 まさに、わがままボディ!


 純外国産だが、そのまま渋谷や原宿などを闊歩かっぽしていても不思議じゃないくらい、見事にギャルを再現している。


 というか、異世界なのになぜギャルがいる? などと頭の片隅では思いつつも、そんな疑問がどうでも良くなるほどのたっぷりの色気に、オレは即座に目が離せなくなった。


「こ、ここここれかなぁ。ほら、女の子一人だと物騒だし? 下手に男とか選んで、意見の相違から途中解散なんてなったら目も当てられないし?」


 別に時間制限があったわけではないのだが、ついオレは早口になって答えた。


『基本的にお主との相性が抜群に良い者しかガチャに入れていないから、どれ選んでも大して違いは無いんじゃがな? まぁええわい。次に能力を選ぶわけじゃが……』

「回復一択。痛いの嫌だもん」

『ヘタレじゃのぉ。それなら超回復スーパーヒール辺りでも入れておこうか。……ありゃ? 枠がだいぶ余ってしもうたぞ』

「枠?」

『うむ、そうさの。分かりやすく言うと、ワシが勇者に付与できる能力は十ポイントぶん枠がある。折角もらえるなら制限枠ギリギリまで使うじゃろ?』

「確かに。あー、なら残りの枠に入りそうなやつ、適当に詰め込んでよ」

『適当って、そんないい加減な……』

「どうせ聞いたって分かんねぇもん。オススメでいいよ」

『オススメねぇ……。なら制限解除リストリクションリリース辺りにしておこうか。攻撃能力も多少は入れんとアカンじゃろうし。多少じゃじゃ馬な能力じゃが超回復と併用すれば意外とイケるじゃろ。どら、ちょっくら調整したろうかね。……さ、これでヨシと。んじゃ、行ってこい、ニンゲンよ』


 女神の言葉と共に、オレの足元の雲海にいきなり穴が開いた。


「ちょっ! せめて名前で呼んで送り出せよぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 オレは女神に対して文句をわめきつつ、果てなき雲海の中をひたすらに落下した。

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