『お? ちょうどいいところに新鮮な魂が転がっておるではないか』
「うぁ……?」
オレは道路にうつ伏せになったまま、必死に顔を上げた。
だが、ギリギリ視線をそちらに向けることはできたがそこまでだ。
身体が全く動かない。
覚えているのは、見る間に眼前に迫るライト。
身体が千切れたかと思うほどの強い衝撃。
そして地面に無造作に叩きつけられる感覚。
手足からは感覚が完全に消え失せ、口からは呼吸が困難なほど大量の血があふれている。
え? これ、助からない?
そんなオレの困惑をよそに、裸足で両膝立ちをした銀髪の美しい幼女が小首をかしげながらオレの顔を覗き込んだ。
参ったな。こいつは幼女タイプの死神か?
最近の労働基準法はどうなっていやがる。
次の瞬間、不意にオレの頭の中に、生まれて間近といった感じのオレの赤ちゃんの時の写真が浮かび、同時に外国人の歌う陽気なフォークソングが流れ始めた。
若いお袋に抱っこされている写真。ハイハイしている写真。初めてつかまり立ちをした写真……。
写真が入れ替わるごとに写っているオレが少しずつ少しずつ成長していく。
まるで、結婚式で両親を泣かせるために、子供の成長の記録を見せているような……。
いやいや違う違う。だってオレ、未婚だもん。
ってことは……。
走馬灯キターーーーーー!!
ところが次の瞬間、まるでいきなり停止ボタンを押されたかのように、写真と曲が急に止まった。
十秒で終わりかい!
短っ! 走馬灯、短っ!
『うん。お前でいいや』
先ほどの幼女の、仕方なさそうな、あまり気乗りのしなさそうな声が聞こえた瞬間、オレは首根っこをつかまれ、高空に放り投げられた。
◇◆◇◆◇
気がつくとオレは、雲海の中に立っていた。
足元を流れる雲海は、遥か果てまで続いている。
さっきまで動かなかった身体も、今は普通に動くようになっている。
傷なんか一つもない。
なんじゃこら。
何が起こったかと呆然と突っ立つオレは、ふと後ろに気配を感じ振り返った。
そこに一脚の、巨大な玉座が
玉座は
そこにチョコンと座る、六歳くらいのわけ知り顔の銀髪幼女。
先ほどオレを見下ろしていたあの子だ。
外国産のロリっ娘でめっちゃ可愛い……が、何だろう。底知れぬ何かを感じる。
理屈じゃない。
蟻が象を見て一目で敵わないと感じるように、下手に機嫌を損ねると即、殺されそうな何かだ。
だが、ともかく会話をしなきゃ何も始まらないと思ったオレは、恐る恐る銀髪幼女に話しかけてみた。
「あの……何が起こったんでしょう」
『うむ。お前は……
死んだ? あの痛み、やっぱり死んだのか、オレは!
『そこに偶然通りがかったワシがここ
思い出した。
オレの顔が一気に真っ青になる。
そうだった! 女子高の教師という立場にありながら、実は女子高生好きで、特にギャルが好きで好きでたまらないオレは、普段学校で無関心を装っているストレスを発散させるため、こうして月イチでギャル風俗で遊んでいるのだ。
それが、事故って死んだ?
おいおい、ギャル風俗通いがバレちまうじゃねぇか! 『女子高教師、ギャル風俗帰りに事故で死亡!』なんて面白おかしく報道されたら人生終わりだよ!
いや、すでに死んでるんだけど、死後笑われながら後ろ指を指されるのはかなりキっツいぞ。
ぐっはぁぁぁぁぁぁぁあぁあ!!!!
『……生き返らせてやってもいいぞ?』
「本当ですか??」
『ワシの願いを聞いてくれたらな?』
「聞きます! 何でも聞きます! 何でもお言いつけください!!」
オレは恥も外聞もなく、幼女の前に
そりゃもう、靴を舐めん勢いさ。
残念ながら幼女は裸足で、靴は履いてなかったが……いや待て。生足を舐めるのもアリだな、んほぉ。
『ふむ。改めて自己紹介をしよう。ワシは女神メロディアースという。気軽にメロディちゃんと呼んでいいぞ?』
幼女が偉そうに玉座に踏ん反り返る。
銀髪ロリ女神さまキターーーーーー!!!!
反射的に平伏したオレは、ここで初めて銀髪ロリ女神をまじまじと見た。
腰まで届く輝く長い銀髪。人形のように美しい顔。
身につけるは滑らかで真っ白な
喋り方がめっちゃソレっぽいから何となくそんな気はしていたが、そうか、マジでロリババアの女神さま来ちゃったか。
これ絶対逆らっちゃ駄目なやつだ。
だが、同時に無性に興奮して、鼻の穴がフンスカと膨らむ。
だってロリババアなんて最高じゃないか!!
オレのこびへつらいを前に大いに自尊心がくすぐられたか、銀髪ロリ女神が愉悦の表情を浮かべる。
『実はワシの担当区域にアストラーゼという名の異世界があるのじゃが、そこに世界の破滅を目論む魔王が現れよった。ワシ自ら叩き潰してしまえればそれが一番早いんじゃが、規約によりそれができん』
「なぜ……でしょう」
正座で聞く。
『ワシら神々は管理に徹っするルールなのじゃ。そこに過剰に干渉することは極力避けねばならない。地上は地上に生きる者の物じゃからな』
「なるほど、つまりロリバ……じゃないメロディちゃんは、代理人を立てて邪魔な魔王を討伐をさせたいと思っているわけだ。……え? それがオレ?」
『話が早いの、さすが教師じゃ。そう。ワシの代理人としてお前に命じる。ニンゲンよ、異世界アストラーゼに転生し、魔王の討伐をしてこい!』
女神メロディアースが満足そうにうなずいた。