久慈川さんにセフィロトガードを渡してから数日が過ぎた
まず俺の方だがいい加減突っかかる奴が居なくなり、寧ろ俺に関わるなという風潮が出来始めて来た
まぁ喧嘩売ってきた奴には容赦なくバウンティポイントを根こそぎ頂いていたからいい加減リスクと釣り合わないと思われたか
勝率に関しては相変わらず9割を超えてはいるがたまにデッキ相性が最悪な相手と出くわす時があり、その時のみ黒星を付けられていた
とはいえ現状黒星は全て授業の時だけだからそこまで対した影響は無いんだがな
一方久慈川さんの方なんだが……見事なまでに勝率が跳ね上がった
というかデッキバランスを見直したのもあり《挑発》持ちの壁役ユニットの耐久力が化け物すぎてアッサリと特殊勝利をもぎ取っている試合が数多くある
というかHP20の壁をアッサリと用意してきた当たり恐ろしいわ……どうも何戦かやって単体向けの回復も入れることでより壁の落としにくさを強くして全体回復で壁ごと強化していく方向で落ち着いたようだ
正直な話俺でもこのデッキ相手だとデッキ破壊や特殊勝利くらいしかまともな勝利方法が思い浮かばない
全く末恐ろしいとはこの事だ
「今日の授業はここまでだ」
「起立、礼」
「「「ありがとうございました」」」
今日の授業が終わり、俺は教室をすぐに出る
居心地が悪いのもあるんだが……
「あ、待ってください浅麦君!」
「そんな急がなくても大丈夫だぞ」
ここ最近俺が帰る時は毎回久慈川さんが一緒に帰ろうとついてくるようになった
まあ彼女の考え方は俺と同じでこの世界の人からすればかなり特殊なのもあり、話していると俺とは違った視点での解釈が得られるので俺としてもありがたいんだよな……
俺も彼女とはデッキ調整の意味合いもあって何回かやっているがどうにも盤面勝負に持ち込むと体力の増加量がえげつなさすぎてまともな勝負にならない
要塞型の構築になるように俺の方で軽く調整したとはいえハマるとここまで恐ろしいとは思わなかった
恐らくだがこの学校で真正面から彼女を叩き潰せるレベルの火力を出せるのは生徒会長くらいなものだろう
生徒会長のアビリティはプレイヤーにまで貫通するからはっきり言ってまともな勝負になるかすら怪しい
はっきり言ってあの生徒会長の強さは別格だ
「そう言えば浅麦君ってデッキをあんなに沢山使ってますけど使うカードの内容とか全部把握度来てるんですか?」
「ん?そりゃあ把握してるさ。
でなければ複数のデッキ使うなんてまともにできないしな」
「凄いですよ…!わたしなんかこのデッキの把握だけでも精いっぱいですよ」
「寧ろ俺としてはなんでデッキを一つだけに拘るのかが疑問なんだがな……どれだけ使い込んでても対策されたら基本終わりだし複数の選択肢があれば対応だって自然と変わるはずなのにな」
俺は常々思っていた事を口にすると久慈川さんは若干苦い顔をする
「耳が痛いです……でも使い続けてたデッキってやっぱり愛着がありませんか?
そういうのから別の物に切り替えるのって結構勇気がいると思うんです」
「ならその愛着を複数のデッキに持てばいいだろうに」
「はぅ……」
どうにも言いたいことは分かるんだが理解は出来ないんだよなぁ……俺の場合下手に前世の常識があるせいでどうにもこっちの世界の人とかなり感覚が違うようだし
「そもそもカードゲームのカードなんて使っているうちに勝手に覚えていくものだと俺は思ってるんだよ」
「勝手にですか?」
「そ、だって実際にデッキなんて使ってみないと強いかどうかなんてわからないしただ見ているだけで覚えるのなんて無理があるだろ?」
「うーん、言われてみれば確かに?」
「別に愛着を捨てろとは言わないけどもっと選択肢があっても良いと思うんだよ俺。
じゃないと事前情報だけで相手の手が全部分かってしまって読み合いが楽しくなくなるしな」
前世のTCGとかではデッキのテンプレがあるせいで数枚カードを見るだけでどういうデッキかなんてのが一発で分かるくらいだったがちょくちょく変なデッキの人が居たのもあって完全に読み切れなくて面白かった覚えがある
こっちの世界はデッキを秘匿する連中ばかりだからかテンプレと言うのが存在しないがあまりにも一つに執着しすぎていてどうにも読み合いがつまらない
初見なら良いんだが流石にこの学園で対戦相手の事を調べないなんてのは基本無いからな……
「やっぱりデッキを組むコツとかあるんですか?」
「無いわけじゃないんだが……こればかりは個人によってかなり差が出るから他人のコツは参考にし辛いんだよ」
「どういうことですか?」
久慈川さんは首を傾げているが別にそこまで難しい問題と言うわけではない、至極単純な話だ
「全く別の人が作るのを参考にした所で自分なりの組み方が無ければただの真似と一緒ですし他人の感覚に合わせられたデッキを使ってても自分の感覚に合うなんて早々ないからな」
「あ、確かにそうですね」
別にテンプレがある前世の世界ならともかくこっちだとどうにもデッキコピーは相性が悪いんだよなぁ……カードの希少性やユニークレアのなんかの存在もある分余計に相性が悪い
それにコレは前世でもあったことだが強いデッキ=自分に合っていると言うのは違う、いくら強くても自分が立ち回りを理解していないと必然的に弱くなるし合わないデッキはとことん合わないからだ
だから俺はデッキを使う度に反省点を洗い出して調整を繰り返している
「そう言えば明日の実技は違うクラスの人達とのデュエルらしいですよ?」
「何組だっけ?」
「F組だったと思います」
「Fか……確かあそこにはユニークレア持ちが居るんだったか?」
「はい、それに入試の成績もかなり良かったそうですよ?」
「それ言うなら久慈川さんはどうなのさ?座学学年トップだろうに……」
「ア、アハハハ……」
彼女は苦笑いこそするが実際彼女がこの学園に入学出来たのはそこがかなり大きい
彼女自身はプレイスタイルの問題もあって実技の試験はクリア出来なかったらしいから座学トップじゃなければ確実に落とされていただろう
まさか噂が本当だったとは俺も思わなかったがな
これ以上この話を続けると久慈川さんがしょんぼりしそうなので俺は話題を変えることにする
「そう言えば今日の職業学と歴史の合同課題のレポートだが久慈川さんは何を選んだんだ?」
今日の職業学及び歴史の合同授業で出された課題は自身の職業の上級職となる歴史上の人物についてまとめ上げろというレポートだった
過去の人物のデッキなんかは結構調べようがない物も多いんだが前世でも有名だったような歴史上の人物は俺の知る限りその全員がユニークレア持ちの上級職だった
例えば俺の盗賊関係で言えば日本ならば石川五右衛門なんかが当てはまる
まぁ義賊と名乗ってても結局盗んだりしてることには変わりないからな
ただまぁ案の定というべきか盗賊派生の歴史上の人物と言うのは非常に少ない
特に日本なんかは大半が剣士から派生した侍とか戦士から派生した鎧武者なんていう上級職が多く、偶に別の派生で将軍や僧侶とのハイブリッドのような職業でキリシタン大名なんてのもあった
ほんとこの世界の職業はどうなっているんだろうか?
「私はその……ジャンヌ・ダルクについて調べようかと思ってます」
「なる程、聖女も確か僧侶の派生だったな」
ジャンヌ・ダルク……彼女はこの世界の歴史では僧侶の防御性能を更に向上させたような上級職である聖女という職業だった
軽く調べた限りでは職業アビリティの一つが単体への回復+ダメージ軽減とかいう《挑発》持ちにやられたら面倒くさいことこの上ない効果だったはずだ
「浅麦君は……なんか既に殆んど調べ上げてそうですね?」
「そりゃな……そもそもの盗賊派生の歴史上の人物なんてそこまで多くないし俺のデッキを作り上げるまでに参考に出来るやつは限界まで調べてたからな」
そう、盗賊デッキを最初に作り上げる際にそのあまりの特殊さに俺は過去の情報を調べるだけ調べたのだがどうにも盗賊が忌避されがちな職業なせいでまともな資料が残っておらず、過去の記録なんかを掻き集めてようやくまともに参考にする事が出来たくらいだ
この辺は盗賊やってて辛いところだな
「逆に久慈川さんの方は調べられる対象が多すぎて困ったんじゃないか?」
「そうなんです……やっぱり宗教関係の人物はその殆んどが僧侶派生の人物なのでどうにも調べようと思うときりがなくて……」
俺も気になって調べた限りじゃ少なくともフランスやイタリア、オランダ辺りの人物なんかは特にその割合が多い傾向がある
偶に戦士から派生した神官戦士や聖騎士なんてのもあったがとにかく数が多い
「確かジャンヌ・ダルクについてだったらこの本が結構詳しく載ってたぞ」
俺はタブレット端末を操作してある一冊の本の電子データを久慈川さんの端末に送信する
「わっ!ありがとうございます!」
「そこまで気にしなくていいよ、偶々知ってたって程度だから」
なんというか……やっぱりこの世界は前世の世界と似ているが全くの別世界なんだなっていうのをこの学園に来てからつくづく再認識させられる
それにしてもDF合同実技の授業か……少し楽しみだな