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第17話 カードゲームとしての醍醐味


デュエルに勝利した俺はフィールドの外の肉体へと意識が戻り対面の箇所で項垂れている財前の元へと向かい、その手にある奪われたカードを取り上げる


《天界の天使長・ガブリエル》か……


確かにユニークレアだ、基本的にDaRの世界に置いて個人名のあるユニットは全てがユニークレアだ


ユニークレア以外のカードは全てその種族に関わるもの、職業等の名前でのみ表示されており、全く同じユニットが2枚同時に出る展開も珍しく無いため全く同一の存在が複数いると定義されている


だがユニークレアは一枚しか無く、同じカードが場に出ることは確実にあり得ない


それにしてもこのカードの効果……


俺はこのカードの効果を見て数年前に俺がたまたま当てた盗賊ではない職業専用カードの存在を思い出す


どうやら俺の探していた奴が見つかったらしい


「ほ、本当に勝っちゃった……!」


奪われた本人はまるで目の前の光景が信じられないとばかりに唖然としている


「ほら、久慈川さん」

「ありがとう!浅麦君!

このカード……本当に大事なカードなの……

でも私じゃ全く使いこなせなくて……私なんかが本当に持ってて良いのかな……」


無理もない、《天界の天使長・ガブリエル》の効果はめちゃくちゃ特殊だ


「HP回復の効果を最大HP上昇へと変換する……効果そのものはかなり強力だがHPが減っているユニットからすれば何も効果は無いからな

んー、ここじゃちょっとなんだから一旦場所を変えるか」

「へ?い、良いけどどこに?」

「とりあえず他の奴らにあ聞かれると騒ぎになりそうだし適当に人気のない場所に心当たりないか?」

「へ?あ、いえ……その……」


すると久慈川さんは急に顔を赤くする


ん?なんか勘違いしてないか?


「単純にデッキのアドバイスするだけだから別に変な事する気はないから安心しろ」

「へ!?いやその……ひゃい」


すると俺が彼女の勘違いに気付いていたのが恥ずかしかったのか顔を手で隠している


なんかその……すまん






「その……ここなら多分誰も来ないと思います」


そう言って彼女が連れてきてくれたのは本校舎の方に複数ある会議室の一室だった


「実は以前先生に確認して事前に言ってさえくれれば開けてくれると言っていたのを思い出しまして……」

「ナイスだ、流石にどっちかの寮の自室に向かうのは色々と論外だったからな」


流石に世間体的な問題もあるからな……


「そういえば先程寮に戻っていましたけどどうしたんですか?」

「ん?あぁ、あるカードを取ってきてた

まぁそっちは後のお楽しみにしとくとして早速で悪いがデッキを見せてもらってもいいか?」

「あ、はい……私なんかのデッキで良ければ」


俺は久慈川さんからデッキを受け取り、会議室の真ん中に置いたデッキビルド用の台に1枚ずつセットしていく


カード構成としてはユニット20枚のアビリティカード10枚構成の比較的一般的なデッキ構成だ


ただそのカードの殆んどがダメージ軽減効果や回復効果持ちのカードであり、中には回復する度に効果を発揮するなんていうカードも含まれている


このあたりだけを見れば確かに強力だが財前に負けた最大の原因は一目見て分かった


「あー、なる程な……アタッカーになるカードが1枚も無いわけか」

「その……回復がトリガーになってダメージを与えるカードも無いわけじゃないんです……でもやっぱり……」

「まぁその辺は個人の自由だからな……とはいえこれだとまともに勝つのはかなり難しい

一応僧侶のカードには上にいるユニットの攻撃力をHPと同じ数値にする効果のフィールドを設定する効果のカードもあるけど多分久慈川さんそういうのも好きじゃないでしょ?」

「はい……その……やっぱりユニット達が可哀想で」


そうなると取れる手は一つしか無いな


デッキ切れまで耐久しようにも僧侶には相手の攻撃力を下げる類のカードは全くない


「そこでコイツの出番だ」


俺は懐から寮まで取りに行ってきたあるカードを取り出した


「《守護神像・セフィロトガード》……!

これって!?」

「あぁ、ユニークレア……と言っても僧侶専用カードだから俺は使えないんだがな」

「な、ななな!?なんで浅麦君が!?」


久慈川さんが面白いぐらいに動揺しまくっている


「調べて見ると過去にも何件か事例がある事なんだがな。

カード自身が自分を扱える奴を探してもらうために自身を使えない職業のやつに現れるってパターンがあるんだよ」


ついでに言えばこのカードの効果はあまりにも限定的な上に効果がめちゃくちゃ特殊な為かなり運用の難しいカードだ


だがさっき久慈川さんのユニークレアのカードとデッキを見て確信した。

彼女なら確実にこのカードを使いこなせる


「そうだな、久慈川さんの参考になるか分からないけどこのデッキを見てくれるか?」


俺はデッキケースを回転させ、ある一つのデッキを取り出した


「これは……?」


俺が彼女に渡したのは特殊勝利型のデッキ……と言っても特殊勝利の効果を持っているのは現状ユニークレア以外には確認されていないから普通に考えれば何の参考にもならないデッキなんだがな……だが《守護神像・セフィロトガード》に関しては話は全く変わってくる


「このデッキ……!1枚のカードの為だけに他のカードを全て組み合わせていますよね!?」

「そういう事だ」


俺が渡したデッキの特殊勝利条件は召喚時効果でデッキに加わる6枚のカードを全てフィールドに設置した後のデッキ切れ……つまり全てのカードをドローソースとして採用している


「《守護神像・セフィロトガード》の効果は特殊勝利。

条件はフィールドに存在している自身のHPが50になること……そしてこのカードは相手のアクションカード、ユニットの効果の対象として選ぶ事は出来ない」

「これ……!私のガブリエルと物凄く相性が良いです!

ほ、本当に良いんですか!?」

「俺の所にあっても使わないから腐らせるだけだからな。

その点久慈川さんの運用なら確実に使いこなせる。


ただ注意点としてセフィロトガードは効果対象としては選ぶ事は出来ないが対象を指定しない全体攻撃やランダム、それ以外に条件指定のカードの効果は普通に受けるし攻撃の対象にもされてしまう。

だから出来るだけ《挑発》持ちを入れといたほうが良いと思うよ。」


俺は更に懐から財前との戦いで地味に嫌がらせのような効果を発揮した各職業共通で使える《プチゴーレム》等の《挑発》持ちカードをいくつか出す


「俺としてはこのカードは後列に配置してその前に通常のカードによる壁、更に挑発持ち2枚を前衛に置くことで3重の壁を貼るのが理想だな。

ただ注意としてセフィロトガードの前に《挑発》持ちのカードを出すと貫通持ちのケアが出来ないからそこだけ注意な」


まぁ理想ではあるが挑発持ちのカードに関しては最悪プチゴーレムのような性能の低いカードでも全然問題ない


理由としては単純に狙いを逸らすことさえ出来ればその時点で仕事としては十分であり、体力に関してはガブリエルの効果により回復効果を与えるだけでHP上限が上昇する為に僧侶の職業アビリティや全体回復アビリティカードなんかでも相性が良い


「なる程……」


壁を3枚用意する事でかなりの攻撃を吸ってくれる。

例え貫通持ちがいたとしても《挑発》持ちがやられない限りセフィロトガードに攻撃が届く事は確実にない


「特殊勝利なら相手を傷つけることもないし久慈川さんも戦えるんじゃないか?」

「……!でも……ユニークレアなんですよ?

こんな貴重なカード……」


まぁ言いたいことは分かるんだがな……


「あー、そのな?

俺の場合ユニークレアはそこそこの枚数あるから別にそこまでこだわりはないんだよ

それにコレクションするような趣味もないから持っててもあまり意味がないし交換に応じるような人なんて今の時代そうそう居ないからな」


ネットオークションなんかだとそこまで強くない効果のユニークレアだとしても少なくとも億単位の金額が付くことはそこまで珍しく無い


噂じゃユニークレア専門のコレクターなんて奴も居たり裏稼業で仕入れた物専門のコレクターなんてのも居るらしいからな


「へっ!?」

「久慈川さん、一般的にユニークレアが人を選ぶ条件ってのを聞いたことない?」

「えっと……確かその人特有の運用だったりで自分の特殊効果を扱える人物やさっき浅麦君が言ってたみたいな条件……あっ!?」

「まぁ単純にこんな特殊過ぎるデッキばっか使ってたから自然と俺の所に複数枚来たってだけの話」


まぁこの世界におけるデッキ情報は秘匿されるべき物という風潮が強い


こればかりはどうしようもないんだろうけどな


「まぁ一度こいつを入れて使ってみてくれ、そこからは使いながら久慈川さんが運用しやすいように調整を加えていこう」

「あ、ありがとうございます!」


正直な話久慈川さんには言っていないが俺としては彼女に渡した一番の理由が……単なるカード整理の一環でしかないんだがな


カードパック引いてるとどうしても同じカードや使わない、もしくは使えないカードが増えていく


これもある意味でのカードゲームの醍醐味だろう




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