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第14話 実力至上主義と戦えない少女

デュエル学園での生活が始まってから1週間程が経過した


授業そのものはかなり膨大なカードのデータを使ったものの為今まで知らずに無警戒だったカードへの対応も頭に入れることが出来た


実技の授業ではまぁ基本初見殺しで問題ない上にデッキを対戦ごとに切り替えている為まだ致命的な程に対策されたメタデッキと出会したり等はしておらず、初見じゃなくても基本刺さっていた


なんというかユニット同士のぶつかり合いをメインにしている生徒が多すぎてアビリティカードやカード効果への対策がまともに出来てない奴が多いんだよな


定期的に実力至上主義者に目を付けられて喧嘩を売られるがそっちに関しては大体別のクラスの連中の為基本特殊勝利等の初見殺しが刺さっており、根こそぎバウンティポイントを俺が奪う結果となった


こう何度も喧嘩売られてるとなるとそろそろある程度手の内がバレててもおかしくは無いんだが特に知られてる様子がないんだよな……もしかしなくても実力至上主義者の連中ってお互いに情報共有を一切していないのか?

いや、あいつらの考え方を考えれば強いほうが偉いだからお互いの手の内がバレないようにお互いに秘密にしているのか?


とはいえ毎日誰かしらに喧嘩を売られていると面倒くさい事この上ない……何処かで一度大きな勝負でもしてそう簡単に喧嘩を売れなくするか……?

いや、リスクが高すぎるか


そんな日々を過ごしていたのだが俺は放課後にある出来事を目にしてしまった


「か、返してください!それは大事なカードなんです!」

「それなら実力で取り返して見せろよ!お前みたいな弱いやつには到底無理だろうがな!」

「お前みたいな雑魚がユニークレアなんて生意気なんだよ!」

「ユニークレアのカードは財前様みたいな強くて偉い方にこそふさわしい!」


…………また実力至上主義者か


それにカードを奪われているのは……確か同じクラスの女子だな。

確か名前は……久慈川さんだったか?


確か職業は『僧侶』の人だったはずだが……ユニークレア持ちだったとは


とはいえ流石にアレは見過ごせないな……面倒くさいが蹴散らして取り返してやるか


「実力至上主義者ともあろうものが寄って集って弱いものいじめか?

随分と小さい事をしているな?」

「なんだとてめえ!」

「あ!こいつです財前様!俺のクラスにいる卑怯者!」


財前とやらの取り巻きの一人が俺を指差す。

確かにアイツは見覚えがある、同じクラスの中でも特に俺に対して敵意を持っていた連中の一人だ


「あぁ、お前が言っていた盗賊野郎か。

雑魚職業持ちが何の用だ?悪いが俺様はてめえみたいな雑魚に構ってる暇は無いんだよ」


む、簡単に喧嘩を売っては来ないか。

格下相手には興味がないとでも言いたげだ


そうなると挑発してこっちのペースに乗せるしかないか


「いや?ただ実力が高ければ何やっても良いとでも思ってるような連中がそんなショボい事しかしていない上に自分の実力を高める為の努力もせずそんな事に手を出してたから見ていられなくてな。」

「喧嘩売ってんのかテメェ?

それに実力を上げる努力だと?実力を上げるためにユニークレアをこいつから貰ったんじゃねぇか?なぁ?」

「ええ!ええ!ユニークレアのカードは強いものにこそふさわしい強力なカード!手にしない理由なんてありませんから!」

「はぁ……なら聞くがお前の職業はそいつを使える職業か?」

「……チッ」


はい馬鹿、自分の職業で使えないカードを奪って自慢してどうするよ……


「そもそもユニークレアを持ってる=強いなんて考え方の時点で俺から言わせれば世間知らずだ。

大会上位者を見れば別にユニークレアを使ってない奴だってそれなりにいるし専用上位職じゃないやつだって普通にいる。

お前はそんな奴らと比べてまともな努力をしてるわけ?」

「う、うるせぇ!テメェには関係ねぇだろうが!」

「自分よりも弱い者としか戦わないような奴が強くなれるわけがないだろう、他のデッキを徹底的に調べる上げたか?

それとも何度も何度も戦って自分のデッキを調整し続けたか?

その程度の努力もしないで自分が強いとでも本当に思ってるのか?

金に物を言わせてレア度の高いカードばかり手に入れた所で使いこなせてるのかよ?」

「黙れ黙れ黙れ!テメェは何様のつもりだこの盗賊野郎が!

お前みたいな雑魚職業がデカい口を叩くんじゃねえ!」


良し、冷静さを一気に奪えた。


「本当に実力者だって言うなら俺程度余裕で勝てるんだろ?

なら勝負してみろよ?それとも自分には自信がないから戦いたくないか?」

「テメェ……!そんなに潰して欲しいんならお望み通り叩き潰してやる!」


財前とやらはタブレット端末を操作して俺へとデュエル申請をしてくる


俺は申請を承諾すると実技棟のある場所が自動的に予約される

勝負可能になるのは今日の午後6時か。


この学園における授業以外でのデュエルは基本このタブレット端末を一度通して正式に申請をしてから行われる


そしてこの勝負における賭事、勝敗の結果は絶対であり、破ることは許されない


「俺が勝ったらテメェは俺の奴隷にしてやる!」

「なら俺が勝ったら奪ったカード全てとバウンティポイントを根こそぎ貰おうか」

「はぁ!?そんな条件飲むわけねぇだろ!?」


それはこっちのセリフなんだがな


「怖いのか?実力があるんだろ?負けなければ良いだけじゃねぇか」

「テメェ……!」


この手の馬鹿は挑発に簡単に乗ってくるから助かる


ただ少なくとも俺の情報はある程度筒抜けになってると見ていいな


ならまだ授業で出してないデッキでいくか……


「逃げんじゃねぇぞ?」

「そっちこそ」

「チッ……いくぞ!」


財前とその取り巻き2人はその場を去っていった。

デュエルまであと1時間がちょっとあるな……


「ね、ねぇ!なんで私なんかの事を助けてくれるの?」

「ん?」

「その……私、この学園に入ってからまともに勝てたことなんて一度もないし……傷つけたくないからバトルだってまともにやってない……。

浅麦君の言ってた努力なんて全く出来てないのに……なんで助けてくれるの?」


傷つけたくない……か、この世界ならではの価値観だ


俺がこの世界に転生してかなり驚いたんだが一部の人は彼女のようにデュエルでユニットなどを傷つけたくない、痛い思いをさせてあげたくないという人物もそれなりにいる


確かにデュエルで実体化するユニット達には一応ちゃんとした自我もあるし決闘である以上お互いに傷つき合う。

だがでデュエル世界側の人物達にとってそれらの決闘は日常茶飯事であり、そもそものこっちの世界の人間達とは価値観が根本から異なる為正直見当違いな考え方ではあると思う


ただこの考え方は別に間違っているとまでは思わないし否定はしない、何故なら俺はそもそものカードゲームが人生に必要ない世界で一度生きてきたから


あくまでも娯楽は娯楽……だがこの世界では大きく意味が異なる為異端とされる考え方だ


「そうだな、打算が完全にないわけじゃない。

俺としても場数を踏んでおくのは好都合だし最近作ったデッキの調整用の実験台だとか色々と理由もある。

でもまぁ一番の理由はちょっと違うかな」

「一番の理由?」


正直俺が喧嘩を売ったのは見ていられないからというのもあるにはあるんだが最大の理由は実はかなり単純な物だった


「単に偉そうな実力至上主義者が俺嫌いなんだよ……特にこの手の奴は基本金に物言わせてるような連中が多いからまともな努力もしてないやつも多いし読み合いもつまらないからな」

「そ、そうなんですか」

「まぁ見ていられなかったっていう善意も無いわけじゃないがな……それにただより高い物はない、何の理由も無く助けられるだけなんてそれのほうが怖いだろ?」


俺がそう言うと久慈川さんはキョトンとした顔になる


まぁ我ながら妙な事を言ってる自覚はあるが嘘ではない


「プッ……フフッ!浅麦君って面白い人なんだね」

「そんなにおかしいか?」

「おかしいよ、だってそれじゃ助ける理由を無理矢理後付けしてるみたいなんだもん」

「まぁ自覚はあるよ、でも言ったことに嘘はない」

「そっか……それにしても授業の様子とか皆から聞く印象と随分と違うね」

「むしろ俺の職業を知ってからあからさまに態度変えるようなクラスの中で警戒せずにいられると思うか?」

「それもそっか……」


彼女は安心したのかホッと無い胸を撫でおろす……って視線が痛い、どこ見ていたのかバレたか


「…………浅麦君、女の子っていうのは男の子の視線には敏感なんだよ?」

「そこまで興味ないから安心してくれ」

「それはそれで傷付くよ!?」


彼女は涙目に鳴りながら怒るがなんというか……小動物を見てる感覚なんだよなぁ……身長も小さいからか怒っててもむしろなんか和む


「まぁあいつらからカード取り返したらちゃんとそっちに返すから安心してくれ」

「それは良いけど……大丈夫なの?

もし浅麦君が負けたりしたら私……」

「同じクラスに居るんだから俺が毎回どういう勝ち方してるかくらいは知ってるだろ?

相手がこっちを舐めてるならそれはそれで好都合だ、カードゲームというのは基本どれだけ手の内を隠して準備を進めるかが大事だからな」


俺はそう言った後彼女に実技棟の予約場所を伝えて一旦自室に戻る



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