授業も4時間目に入り『戦術学』の授業の時間がやってくる
授業の開始の合図であるチャイムが鳴ると教室にまた新しい教師が入ってきた
「静粛に!既に授業の開始を告げるチャイムは鳴っている」
モノクルを右目に掛けた長髪の男性教師は教室前方に設置してある大型モニターの前に立ってそう告げる
それにしても現実でモノクル掛けている人は地味に初めて見たな……
「私が今日から君達に『戦術学』を教える"策頼 亮(さくらい りょう)"だ、よろしく頼む。
私が担当する『戦術学』だがしばらくの間はカード同士のシナジー、及び職業アビリティとの噛み合わせの事をやっていく事になるが時々テストとして特定の状況下での君達の動きを見させてもらう」
特定状況下でのデュエルか……確か前世のスマホアプリとかでのカードゲームだとそんな感じのミニゲームっぽい要素のあるチャレンジ要素がいくつかあったな
「さて、今日は『魔法使い』とそのカードのシナジーについて見ていく。
たった今君達の端末にデータを送信させてもらったので確認してくれ」
俺は早速タブレット端末を起動して授業データを開く
「まず基本的な『魔法使い』という職業についておさらいしよう。
タブレットにも出ていると思うが見ての通り『魔法使い』の職業アビリティはこの3つ。
指定した相手に3ダメージを与える《火炎球》。
手札のアクションカード全てのコストを下げる《魔力解放》。
1ターンの間アクションカードの与えるダメージを+1する《魔力増幅》。
これらの3つがある。
これらのアビリティは《火炎球》はダメージだが他2つは手札にあるカードへのサポートとなる
正直俺としてはこの中で一番脅威度が高いのは《火炎球》と《魔力解放》だ
《火炎球》は好きな相手を狙えるためプレイヤーへのダメージ加速から味方を守る為の敵の排除、前列と後列の盾1列に並べられた際の後方で守られているユニットへの攻撃など活用方法は多岐に渡る
そしてもう一つのやばいのが《魔力解放》だ
こっちは手札にしか効果が無いのと下がるコストは一回につき1だけなので効果そのものはそこまで強くはないが必要アビリティポイントが10と低く、効果そのものはずっと続く為何度も繰り返し使うことでアクションカードのコストが0にまで下がってしまう。
更に《アビリティブースト》等でアビリティポイントの蓄積を加速させてしまえば更に速い速度でコストが下がり続けていく
やろうと思えば手札をコスト重めの威力の高いアクションカード複数枚ある状態で何度も繰り返しアビリティを使い、アクションカードのみで相手のプレイヤーのHPを削り切るという動きが出来てしまうのだ
「それでは出席番号15番、君に尋ねよう」
「はい」
「君は確か『魔法使い』を選択しているが君はこの職業の特徴をどう見る?」
「自分なりの意見で良ければですが……大きく分けて2つに分かれると思います。
ひたすら盤面を無視してプレイヤーへの集中攻撃を行う事での勝利を狙う『速攻型』、又はアビリティ、アクションカード、ユニットのいずれかで守りながら他で準備しながら打点を出し続ける、もしくは一気に仕留めに行く『防御型』だと思います」
「良い回答だ。
では何故相反する2つの戦術を用いる事が出来るのか、そうだな……ここはあえて君に答えてもらおうか、出席番号2番」
「俺ですか」
「そうだ、この中で所持しているデッキの種類が最も多い君に聞いてみたい」
あー、そういやこのクラスで複数のデッキ使ってるの俺だけか……
「攻撃は最大の防御とも言います。
《火炎球》採用型ならユニットをこっちで排除して盤面有利を捕り続けられる。
《魔力解放》採用型なら盤面をユニットを使ってひたすら守っていれば手札のアクションカードのコストが下がり続けるので実質守り切るだけで勝てる。
《魔力増幅》採用型はアクションカードのダメージを上げられるので全体攻撃系の物や単体狙いのアクションカードを使う事で盤面を簡単に制圧出来ます。
これらの理由から『防御型』であると言えます」
「宜しい、では続いて『速攻型』になる理由を言ってみてくれ」
「コストを使わない職業アビリティである《火炎球》を利用することで序盤から相手のプレイヤーへのダメージをいくつも入れられる事から『速攻型』にもなります」
「素晴らしい、君は他の職業についてもかなり詳しいようだ」
むしろそれぞれのデッキや相手の特徴を把握しきれなければ読み合いは勿論カードゲームで勝つなんて不可能だからな
「では実際によく用いられる戦術について話そう」
先生が端末を操作すると俺達側の端末の画面も切り替わる
「まず現在の『魔法使い』環境で用いられる主な戦術は先ほども言った4つにある。
厳密にはもっと別の戦術やマイナーな戦術も無いわけではないがそこまで上げていてはきりがない為悪いが省かせて貰った」
タブレット端末に円のグラフが表示される。
グラフの内容を読み取ると『火炎球速攻型』76%、『火炎球防御型』10%、『魔力増幅型』8%、『魔力解放型』6%となっている
俺も前に調べたことはあるがやはり偏りが凄まじいとしか言いようがない
「見てわかる通り主流の4つを調べるだけでも異様に偏っている事がわかる。
原因としては実力至上主義者思想があったり大会上位の『魔法使い』派生の職業持ちが主に『速攻型』を中心にしていた経歴を持つからだとされている」
「先生、少し質問良いでしょうか?」
俺はここで手を挙げる
実は個人的に調べたデータは最近のものくらいしか収集することが出来ておらず、昔の戦術の分布までは調べきれなかった
恐らくここならばその辺も調べてあると思って俺は質問する
「何かね?」
「このグラフって過去の物とかも無いんですか?
ここまで極端に『速攻型』が増えた理由がその2つならもう少し遡ればかなり違うデータも出てくると思うんですが」
「ほう、面白い意見だ。
少々待ってくれ、確か以前学園が収集していたデータの中に……あぁ、あったあった」
授業データとして用意していない為か俺達の端末の画面までは切り替わらないが正面の大型モニターが切り替わった
…………やっぱりか、実力至上主義者が表立って問題になる前に比べると圧倒的に比率が違う
実力至上主義者が社会問題になってきているのは実の所割と最近だ。
15年前まではそこまで問題にはなっておらず、その年代のデータをみてみると『火炎球速攻型』26%『火炎球防御型』24%
『魔力解放型』20%、『魔力増幅型』18%『その他』12%となっている
そこから実力至上主義者が出始めた年代から爆発的に『速攻型』の割合が増えている
このグラフにかなり驚いている生徒も多く、周囲では近くの席の人物と話していたりとざわついている
「過去の環境割合か、新しいカード等も増えているからこそ気にしたことも無かったがこうも違う事を考えると改めて研究する価値がありそうだ、ありがとう」
「いえ、元々調べようとしても情報が全く集まらなかったのでここでならどうなのだろうかと思いまして」
「だろうな、特にネットなんかは改ざんや嘘なども多いからあまり参考にはならないだろう。
書籍なんかも都合の悪い物は実力至上主義者なんかが排除しているという噂すらあるくらいだ。
とはいえ昔の環境は今の環境と比べるとやはりカード構成も大きく異なると言うことを理解しておいてくれ、あくまでも参考程度にするのが丁度よいだろう」
「分かりました、ありがとうございます」
中々貴重な情報を得られた、後で先生には個人的に質問しに行くか
「さて、話がだいぶ逸れてしまったな。
一先ず今回は速攻型でよく使われるカードとその戦術についてまとめてきた。
それぞれ目を通しておいてくれ」
俺はタブレット端末の画面に注目し、そこに表示される数々のカードと組み合わせ、主に使われるタイミング等の詳細なデータを見る
凄いなこれ……日に日に増えているであろうカード達の最新の運用方法から今までの使用傾向まで大量に記録されている
学園は一体どうやってこれほどまでのデータを収集したのか……
そして速攻型のカードを見てみるとやはりというべきか召喚時に選択した相手にダメージを与えるものや《先制攻撃》持ちがかなり多い印象だった
それに加えて変わり種ではあるが《アビリティブースト》のカードなんかも混じっている
「君達にはこれから様々な職業の様々なデッキ、更には上級職の運用やその専用カードに至るまで膨大な戦術とそのカードや職業の特徴について学んでもらう。
テストなんかも頻繁に行う為覚悟しておくように」
「「「はい」」」
「「「そんな〜!?」」」
なんかこの辺のノリは普通の学校っぽいんだがな……
だが俺はこれからの授業にかなりワクワクしてきていた
今まで個人で調べるには限界のあったデータ収集がこの学園でなら最新の物から過去のものまで大量に学べる。
それぞれの職業全てに対する対策デッキや今まで見つけられなかったカードの発見が捗りそうだ