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第8話 自己紹介と盗賊への認識

入学式が終わった後俺や他の新入生達は職員や先輩となる2年生や3年生の誘導に従いそれぞれ自分のクラスに向かう


クラスは5クラスでそれぞれ20人の比較的少数のクラスとなっており、俺は1-Dの教室に振り分けられていた


あの入学式聞いてる限りクラスも成績順とかで振り分けられてたりしてもあまり違和感はないな


俺を含めたDクラスの生徒はそれぞれ黒板代わりのモニターに表示された座席票の通りに席に座る


ん?この机……なにか違和感が?


「スゲェ!?この机ホログラムPCの機能まであるぞ!?」

「よく見て!引き出しにはデッキビルドに使えるスキャナーもあるわ!」

「おっ!?マジだ!すっげぇ!」


クラス中の新入生達が教室の設備の豪華さに興奮している


俺と同じ世界の者ならホログラムPCという時点で違和感を感じるだろう


ホログラムPCとは専用の装置を使ってPC画面およびキーボード等をホログラムで映し出し、指先でのタッチでキーボードでの入力やスクロール等を行えるようにするコンパクトなタイプの備え付けPCだ


寮にいた時は気付かなかったがもしかしたら寮の部屋にもあるのかもしれないな


更にこのテーブルにあるスキャナーはデッキを装置に装着することでデッキのカードを全て一度でスキャンし、そのバランス等を総合的に判断するAIによってデッキの評価をしてくれたりするサポート用の電子機器だ


正直これ絶対授業で使われそうなんだよなぁ……盗賊系統は評価が下がりやすい傾向にあるしデッキスキャンシステムでの評価の高さだけを求めたデッキも寮に戻ったら作っておこう


「ほら静かに静かに〜!珍しい設備ばかりで興奮するのは分かるがそろそろ落ち着け〜!」


クラス中が興奮していると担任の教師と思われる若干だらしなさそうな白衣を着た女性がやってきた


「さて1-Dの新入生諸君。

初めまして、私は君達の担任でありこの学園で化学や数学を担当する"松戸 葉風"(まつど はかぜ)だ。

まずは入学おめでとうと言っておくよ。」


彼女はわざとらしく拍手をしているがその目にはどうにもこちらを品定めしているように見える


「入学式も終わった所で今日残っている予定はホームルームだけなんだが……まぁ入学式初日だしお前らも全員が全員顔と名前が一致しないだろうから一端自己紹介といこうか」


すると若干クラス中の皆がざわつく


この辺は他の学校とそこまで大差ないな


「それじゃ自分の名前と職業、得意なデッキ構築を言え。

一先ず名前順でな〜!」


小中学校もそうだったけど自己紹介に自分の職業と得意なデッキ構築が毎回テンプレとして入ってくるこの世界はほんとなんなんだろうか……


そんな事を思っているとすぐに俺の番がやってくる


まぁ俺の名前が"あさむぎ"だから名前順ならかなり前の方になるよな


俺はディスプレイの前に立って自分の名前を表情させる


「俺の名前は浅麦 誠、選んでる職業は盗賊だ」


俺が自分の職業を伝えるとその瞬間一斉にクラスがざわつく


まぁこの職業は本気でいろんな所で見下されてるから仕方ない。

視線の種類としては蔑んだり見下すような目線が半数以上だが逆に感心するような視線も若干混じっている


先生は……ニヤニヤと嫌な笑い方をしている、楽しんでるなこの人……


「盗賊……?そんなのがこの学園に入学とか何かの間違いじゃねぇの?」

「不正とか……?」

「筆記が良いからって調子に乗ってるんじゃねぇぞ……」


案の定というかかなり実力史上主義者が混ざっていそうだ


「得意なデッキ構築は盤面を無視した特殊勝利やOTK、コストダウンデッキ、コンゴトモヨロシク」


正直最後のセリフに関しては本心では全く思っていないことなのもあってかなり棒読みになってしまいどこぞの悪魔のようになったがとりあえずはこれで良いだろう


そう思って自分の席に戻ろうとするが……


「あぁ、先に言っとくがこいつは筆記も相当良い部類ではあるが実力で入学をもぎ取った奴だ。

入学試験で無敗だった数少ない人間の一人だからお前らも学べるとこはしっかり学べよ?」


この先生余計な事を……フォローのつもりなのか周囲の反応を楽しむ為のイタズラのつもりなのかは分からないが不快な視線の鋭さが増した


少なくとも数日中……下手したら今日中に喧嘩を売られそうだ




自己紹介が一通り終わった所で先生から授業で使うタブレット端末を支給される


自分の席にやたらと収納スペースが少ない為若干違和感はあったのだがやはり授業は基本教科書等を使う物は無いらしい


基本的にその日の授業で必要な内容が支給されたタブレット端末に自動でインストールされ、授業の時間では余計な機能を使えないようロックする仕組みなのだそうだ


1日の時間割に関してはDaRの専門というだけあって全てがDaR関係の授業となっている


その授業というのも中々濃い内容の授業が揃っており、それぞれ『職業学』、『構築学』、『戦術学』、『実技』、『歴史』、『異世界学』という風になっている


この中でも『歴史』だけは普通に見えるかもしれないがそもそもこの世界の歴史は何もかもがDaRが関わってくる。

なんなら戦争すらもDaRが関わってくるのだから信じられない


一説によれば人類が誕生したと同時にDaRの歴史も始まったなんて言い伝えもあるくらいだが流石に嘘だと思いたい……が強ち無いとも言い切れないのがこの世界の歴史の恐ろしい所だ


『職業学』は様々な職業の専用カードや過去に存在したデッキの構築例とその考察、職業進化後にはどのような例があるか等に関する授業らしい。

一部他の授業とも内容が重なる物もあるらしく、その場合は2教科を一時的に合併させた授業となるようだ


『構築学』はデッキ構築のコツやテンプレ、カード同士のシナジーや職業とのシナジーを吟味したデッキの組み方や実際に指定されたカードだけでデッキを構築させるといった授業もあるようだ。

正直これは授業ではあるのだがゲーム感覚でやれる分中々楽しみにしている授業の一つだ


『戦術学』はコンセプトのあるデッキをどのように運用すべきかや相手のカードへの対処や相手のデッキの見極め方等の授業のようだ。

こっちは俺としても内容次第では初見殺しが2年以降になって通用しにくくなる可能性がある為どういう感じなのかは知っておきたい


『実技』と『歴史』は文字通りなのだが『異世界学』……こっちはDaRに直接関わってくる異世界、デュエル世界がどのような世界なのかについて学ぶ授業のようだ。

通常科目が全く無い最大の原因であるこの授業では向こうの世界の歴史や価値観、DaRの扱い、種族、どのような世界があるかなど学ぶ必要のある事が無数にあるらしい


確かにこれだけの専門的な授業があるのであれば通常科目を入れる余地が無いのも頷ける。

実技重視なのは座学や筆記等の試験をした所でこの学校で求められているのはどれだけ勉強出来るかといった面でしか見ていないからなのだろう


実技が出来なくても座学でトップクラスなら入れるというのもおそらくはこの『異世界学』が関わってくるからだろうな


デュエル世界か……無数にある隣接した異世界とは聞いているがいったいどんな場所なんだろうか……


この世界の何処かにその入り口になるゲートが開いているらしいが調べても全くその辺の情報は無かったんだよな。


「とりあえず全員にタブレットと最低限のデータは渡ったな?

んじゃ今日はここまでだ、後は初めまして同士会話仲間作るなりボッチになるために自分の部屋に戻って休むなり好きにしろ〜。

明日の予定は全員のタブレットにデータ送っといたからそれ見て準備しとけよ〜んじゃ解散」


言い方よ……それはそれとして明日の授業は……午前が1〜2時間目『実技』、3時間目『職業学』、4時間目が『戦術学』と来たか。

これ確実に全員1回ぶつけ合わせて全員のデッキを公開させる気満々だな……念の為複数のデッキを持っていこう




俺は弱肉強食の面の強いこの学園で下手に友人付き合いをしてリスクが上がっても困るので他の奴らの会話には混ざらずにすぐに寮へと帰る準備をする


既にいくつかのグループは出来てるようなのだがそのどれにも実力史上主義者と思われる俺に対して敵意のある目をしていた奴らが混ざっているからおそらく話しかけても無駄だろうな


そんな事を考えながら関わり合いになりたくないので荷物を持って教室を出ようとする


「おい!この盗賊野郎!」


…………こういう面倒事が嫌だったからさっさと帰りたかったんだがな


「無視してんじゃねぇぞテメェ!」

「…………ハァ、なんだ?用があるならさっさと済ませてくれないか?」

「調子に乗ってんじゃねぇぞ!たまたま成績が良かったから受かっただけの癖に!」

「それなら先生がちゃんと説明してたと思うが?」

「どうせ卑怯な手段でも使ったんだろ?」

「そもそもルールに則ってさえいれば卑怯もクソも無いと思うが?

それで負けて言い訳した所でそれを覆すだけの"実力"が足りてないってだけだろ?」

「ッ!!」


おお怖い怖い、とはいえこの手の奴らをあしらうにはやっぱり実力と言う言葉を上手く使うと簡単だな……


実力史上主義者の考え方は強いやつが全てみたいなそう言う考え方だから実力が足りないと言われればそれまでだし弱いと言われる事や実力も無いのに高いレアリティのカードを持っている者等はこいつらにはかなり耐えられない事らしい。

つまり盗賊のような弱者と見られがちな職業を使う俺がこの学園に入学しているのがこいつは許せないのだろう


ついでに言えばこの世界にはカードをコレクションすると言った趣味に走る者もかなり少なく、いたとしても極一部の実力者のみでそれ以外は殆ど実力史上主義者絡みの犯罪で奪われるというのがオチになっている。

正直質が悪いことこの上ないがそれが現実だ


「言いたいことはそれだけか?

なら帰らせて貰う。」

「俺はテメェを認めねぇからな!」


認められなくて結構、俺は俺のやり方で上を目指す


さて、明日の実技はどんなデッキで行くとするか……


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