「ん?それはおかしいぞ」
声の主の言葉に違和感を覚え無意識に思っていたことが口から出る。
『何がだ?』
「だってお前あのとき全員で脱出する方法もあるって言ってなかったか?」
『言ったな』
ダンジョンでの出来事を思い出し認める。
「本当にその方法はあったのか?」
『あったぞ』
「どこに?」
実はさっきから何かが引っかかると思うも、その何かがわからずモヤモヤする。
『本当にわからないのか?』
「……ああ、わからない。教えてくれ」
馬鹿にしたような口調にムッとするも答えが知りたいので我慢する。
『いいだろう。教えてやる。お前が脱出した方法と同じだ』
「……」
聞き間違いか?
実はまたもや自分の耳を疑った。
『全員で脱出する方法もあると言ったろ。少し考えれば気づけるだろうに……』
声の主は言葉には出さなかったが、口調から馬鹿だと言っていて、実にもそう言いたいのだろうとわかった。
「なら、何であんなゲームの説明をしたんだ?あれじゃあ、仲間割れを狙っていたも同然じゃないか」
声の主がちゃんとしたルール説明をしていたら仲間割れすることもなく全員で脱出できた。
そう思うと怒りが湧き八つ当たりをする。
『何言ってんだ。さっき言ったろ。ミッションの内容は絵に描いてあると。その絵の中に俺のことを信用するなと描いてあるものもあったろ』
「え……」
そう言われ実は壁の絵を思い出す。
だが、実は声の主が言ったような絵を見た記憶はない。
あれだけ沢山壁に描かれていたため見落としていた。
「つまり、俺達はお前の嘘を信じたのが間違いだったと?」
『それは少し違う。俺はあのとき何一つ嘘は言っていない。ただ、お前達が仲間割れするように仕向けただけだ。実際、お前を穴に突き落として隠し扉は開いた。お仲間達は全員そこから脱出した』
'たしかに若桜達もそんなことを言っていた'
実を突き落としてすぐ隠し扉が開きそこから逃げて助かった、と。
声の主は嘘をついていない。
でも、そうしたら余計に意味がわからない。
声の主のやっていることは矛盾している。
助けようとしたり、殺そうとしたり、一体何が目的なんだ?
「……俺達がこうなったのは絵を解読できなかったからか?」
『そうだ』
「……ふぅ。そうか、なら仕方ないな」
声の主のせいではなく自分達の力不足のせいだと認め恨むのをやめる。
『なんだ?もう、もう文句はいいのか?』
「ああ。お前を恨むのは筋違いだろ。答えは壁にちゃんと描いてあった。なら、それを解読できなかった俺達が悪い」
『そうか。お前、変わってるな』
実の切り替えのはやさに声の主は少しだけ驚く。
「そう?普通だろ」
声の主は「普通じゃない」と心の中で突っ込む。
「あ、そういえばさっき、『お前はあの絵を理解できなかったんだな』と言ったよな。誰かあの絵を理解できた人がいたのか?その人は俺と同じように'王'の資格があるのか?」
ずっと引っかかっていたことが何かわかりスッキリする。
声の主が「お前は」と言っていた。
実は「お前は」の「は」引っかかっていた。
その言い方では他にもいると言っているようなもの。
もし、その絵を理解した人がいるなら今その人はどこにいるんだ?
答えを知りたいような、知りたくないような気持ちになる。
『愚か者よ』
「ん?」
質問に答えてもらえる。
そう思うと、心臓が破裂するかと思うくらい鼓動が激しくなる。
『質問が増えたぞ。さっき一つと言ってなかったか?』
'あ、話しを逸らしやがった'
実は声の主とは短い付き合いだが、それでもわかった。
この質問に答える気はないのだと。
どんなに問い詰めても絶対に答えてはくれない。
時間の無駄だと悟る。
「そうだったな……」
実は深いため息を吐き聞くのを諦めるのと同時に少しだけホッとした。
もし、自分以外にも'王'の資格がある人がいたら……
ハテナがある理由は声の主が言っていたことだけでないとしたら?
王が複数いるからそうなっているとしたら?
王になれるのは一人。
もしこの仮説が正しいのなら、最後に待つのは殺し合い。
実は今想像したことを頭の中で黒く塗り潰しそんなことはないと否定する。
「じゃあ、これが本当に最後の質問だ」
『なんだ?』
まだ何かあるのかと呆れるも最後なら答えてもいいかと思う。
「あの文字には何が書かれてあったんだ?」
絵のことは言うのに文字の方は何も言わない。
忘れてるのか?
そう思い最後に尋ねる。
『文字?ああ、あれか。あれは文字じゃないぞ。ただの文字に似た模様だ。なんの関係もないものだ』
声の主は実が言っていることが理解できなかったが、理解した瞬間笑いを堪えながら教える。
'なっ!……紛らわしいことをしやがって!人の勘違いを笑うなんてなんて、やっぱり嫌な奴なんだ!'
実は顔を真っ赤にする。
恥ずかしいやら、馬鹿にされた怒りで今は声の主と話したくもない。
そんな態度の実がおかしくて声の主は大声で笑いだす。
『もう質問は終わりだ。いいな。そろそろミッションについて話そう』
声の主はまだ笑い足りないのか、時々笑いながら話す。
「ええ、どうぞ」
言葉に怒りをのせながら話す。
『今回は初めてのミッションだから、特別に説明する。次からはいつ発生するかわからない。時と場所を選ばないからそのつもりでいろ。ミッションには時間制限がある。必ず時間内にクリアしろ。そうでなければペナルティーが発生するからな。わかったか』
実は最後の言い方が小さい子供に聞くような感じで馬鹿にされてる気がした。
その予想は当たっていて声の主は実のことを馬鹿にしていた。
「ああ、わかった。ちゃんと理解した」
『そうか、ならいい。では、これをみろ』
声の主がそう言うと音が鳴りウィンドウが表示された。
ピロンッ!
[ミッション発生!]
倉増菜々子(くらましななこ)の復讐を代わりに遂行してください。報酬はC級魔法使いの氷の攻撃のスキルです
「は?復讐?何これ?」
表示されたウィンドウに書かれた言葉が物騒で固まる。
これを俺がするのか?本当に?
逃げだしたいのに、そんな気持ちとは裏腹に情報と書かれた欄に目を向ける。
[復讐相手:5名]
五十嵐十五(いがらしじゅうご)
白石茉子(しらいしまこ)
八木隼人(やぎはやと)
三原賢治(みはらけんじ)
弘中大輝(ひろなかだいき)
'あれ?この人の名前聞いたことがあるような……'
五十嵐の名前に聞き覚えがあるも思い出せない。
復讐をしたいと思われるくらいだからあまりいい人ではないのだろう。
実は思い出せそうで出せない気持ち悪さと戦いながら、写真と書かれた欄の隣にあるクリックという文字を押す。
ピロンッ!
五人の写真がウィンドウに表示される。
写真の上に名前が表示され誰が誰なのかわかる。
実は便利だなと感心する。
全員の顔と名前を一致させるため確認していると五十嵐の顔を見て誰だったかを思い出す。
「あー!こいつか!」
実は看護師長に怒られたのを忘れ、つい大声を出してしまう。
すぐに「やばい」と気づき慌てて口を塞ぐ。
実はベットから降り壁から少しだけ顔を出し、誰か入ってこないか確認する。
誰も入ってくる気配がないとわかると「ふぅ」と無意識にため息がでる。