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第9話 呪い

「それで俺は何をすればいい」


強くなるためどうしたらいいのか声の主に尋ねる。


『まずは……』


’まずは……'


実は続きの言葉がどれだけ過酷なものか想像しゴクッと喉を鳴らす。


『ご飯を食って寝ろ』


「え?」


声の主が言ったことが信じられず素っ頓狂な声が出る。


聞き間違いか?


実は自分の耳がおかしくなったのか疑い人差し指を突っ込み掃除する。


『おい、何をやってる。さっさと食って寝ろ』


声の主がもう一度同じことを言う。


'やっぱり、聞き間違いじゃないのか……'


実は生まれて初めて自分の耳がおかしくあって欲しかったと思った。


「あの、声のお方。ふざけてますか?」


『ふざけてるようにみえるか?』


「はい」


『なぜだ?』


声の主はふざけたつもりがないのに、実にそう言われ変な言いがかりはやめてほしいとため息を吐く。


「なぜって、そんなのこれから特訓するって流れだったでしょう。それなのに'食って寝ろ'はないでしょう」


強者になる覚悟をして尋ねたのに、実際に言われたのは'食って寝ろ'だった。


ふざけてるのか?


そう思った。


こんなのが特訓なはずはない。


これは人が生きるために必要な行為だ。


馬鹿にするのもいい加減にしろ!


姿も見えない相手に向かって叫ぼうとしたとき、先に声の主が話だしタイミングを失う。


『ああ、なるほど。そういうことか。別にふざけてなどいない。そもそもお前は特訓がどうとかのレベルじゃない。それ以前の問題だ』


「とういうと……?」


『今のお前は寝不足と栄養不足で特訓できる体ではない。5日間寝ていないし、ダンジョンの日から何も食べていない。そんな体では過酷な特訓に耐えられるはずがない』


声の主の言葉に「確かにその通りだ」と納得する。


でも、寝不足で栄養不足でもあるのに体は元気だ。


普通なら死にかけるはずなのに何故だ?


実の考えていることが顔からわかり声の主はその疑問に答える。


『今のお前はミッションをクリアしたおかげで自己治癒能力を手に入れた。そのお陰でどんな病気も怪我もある程度は治る。今のお前はB級以上に殺されない限り死ねない体だ』


「なるほど……え!?俺スキルを手にしたのか!?」


スキルとは無縁の人生と思って諦めていたのに、それを手に入れたと教えられ感激して涙が出そうになる。


『そうだ。さっきも言ったんだがな。お前やっぱり人の話し聞いてなかっただろ』


今も聞いていなさそうな実の態度に呆れて声の主はため息を吐く。


『まぁ、強くなりたいのならまずは体を元に戻せ。いくらスキルがあろうとずっと使うことはできん。体力を回復することをまずは目指せ』


「ああ、わかった」


実は看護師がもってきた食事を食べ始める。


結構時間がたっていて冷たくなっているが、久しぶりに食べたさいかすごく美味しく感じた。




コンコンコン。


「失礼します。花王さん、食器を下げにきました」


どうせ何も手をつけてないんだろうな、と思いながら実に近づく。


「え……嘘、全部食べてる」


だされた料理は全て綺麗に食べられていた。


一体何があったんだと実の方に視線を向けると、憑き物が落ちたように穏やかな顔つきで眠っていた。


看護師はこのことを報告しなければと急いで部屋から出る。





「花王さん。体調が良くなって何よりです。それで、呪いの件のことを聞きたいのですがよろしかでしょうか」


次の日も食事を全て食べ散歩もした実をみて、もう大丈夫だと判断し、木村(きむら)は呪いの件を聞こうとする。


「あー、その、それなんですが……」


初めて訪れた木村にいきなり呪いのことを聞かれ、なんと言うべきかわからず困り果てる。


「はい」


目を輝かせ実の言葉を待つ。


「自分でもなぜ呪いから目覚めたのかわからないんです。いつものように寝て起きる、そんないつもと変わらない目覚めだったので……」


教えてくても実自身どうして目覚めたのかわからない以上話せることは何もない。


「そんな……本当に何もしてないんですか?貴方以外誰も目覚めていないのですよ。何か特別なことをしたはずです。お願いですから思い出してください」


木村は実の肩を掴み必死に懇願する。


「そう言われましても……」


実だってできるなら協力はしたい。


だが、本当に何で呪いに打ち勝てたのかわからないのだ。


「先生。落ち着いてください」


隣にいた看護師が慌てて実から木村を引き離そうと引っ張る。


それでも木村は実の肩から手を離さず「お願いします」と言い続ける。


’困ったぞ……この人全然人の話を聞いてくれない'


実はこの人の気が済むまでこのままでいようと諦めかけていたとき別の先生が騒ぎを聞きつけ助けにきた。




「本当に申し訳ありません」


看護師に助けを求められ木村を引き離し部屋から追い出した男は、出水(いずみ)と名乗り謝罪をする。


顔が整っていてモデルかと見間違えるなと実は関係ないことを思ってしまう。


「頭を上げてください。俺は気にしていませんから」


「そう言ってもらえて感謝します。言い訳に聞こえるかもしれませんが、彼の娘さんがモンスターに呪いをかけられ三年もの間眠り続けているのです。そんな中ダンジョンの呪いと診断された花王さんが二週間で目を覚ましたため、娘さんを助けることができると気持ちが先走ったのです」


出水の事情を話すことで少しでも理解してもらおうとする。


「そういうことでしたか。あの……」


「はい」


「本当に俺は自分がどうして呪いから目を覚ますことができたかわからないんです。でも、俺で役に立てることがあるなら何でも協力しますので、何でも遠慮なく言ってください」


実は最初から協力するつもりだったが、話を聞いてもらえる状況ではなかった。


ようやく協力すると言えたことで安堵し肩の荷がおりた。


「本当ですか。ありがとうございます」


出水は頭を下げてお礼を言う。


「早速で申し訳ないですが、今から花王さんの体を調べてもいいでしょうか」


「もちろんです」


それでたくさんの人が目を覚ますことができるのなら迷う必要などない。





「いよいよ明日退院か」


協力すると約束してから、更に二週間入院した。


最初はお金の心配で退院すると言ったが、全額病院がもつから入院していいと言われお言葉に甘えることにした。


今家に帰っても何もできない。


病院の方がご飯がでてくるし、何かあってもすぐ対処してもらえる。


部屋も一人部屋で気を遣わなくてよかったので意外といい入院生活だった。


そのかわり先生達に体中を触られたり、調べられたり、大量の血を取られたりしたが。


「まぁ、あんだけやっても何もわからなかったんだよな。申し訳ないことをしたかもな」


希望をもたせたせいで、何も手掛かりを見つけることができなかった先生達の顔をみて残酷なことをしたかもしれないと後悔した。


何故自分は呪いに打ち勝てなのか考える。


実は一つの答えにたどり着いた。


声の主が言っていた職業が関係しているのではないかと。


スキルも付与されたがあれはB級以上に攻撃されれば大して役に立たないもの。


呪いはS級ヒーラーでも治すことのできないものだ。


所詮C級ヒーラー程度の自己治癒能力では治すこともできない。


そうなると職業が呪いを解いた可能性がある。


それでも信じられず無意識に呟くと声の主がその言葉に反応した。


「俺の職業は呪いを解くことができるものなのか……?」


『ほぅ、よく気づいたな』


声の主の言葉が聞こえた瞬間、実はベットの上に勢いよく立ち二週間無視されたことに対して怒りをぶつけた。


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