「風間さん!何をしたかわかってるんですか!」
実に攻撃したところをみていた町田は風間に詰め寄る。
それでもお前はリーダーなのか、仲間を殺すなんて最低だ、と。
町田の言葉で藤里、後藤、新庄を何がおきたのかを理解した。
三人は風間を軽蔑するような目でみた。
「黙れ!どのみち誰かを生贄にしなければ全員死んでいた!たった一人の命で残りは助かるんだ!」
「だからといって!」
「なら、代わりにお前は死ねたか?」
新庄の言葉を遮り逆に問う。
「それは……」
新庄を含め風間に軽蔑の眼差しを向けていた藤里達も黙る。
「無理だろ。だから俺が嫌な役をやってやったんだ。誰かを犠牲にしなければならないのなら考える必要もなくE級の彼だ。当然だ。これからのことを考えればE級が生き残るより上の階級である俺達だ。彼には悪いと思うが、人類の未来のため死んでもらう」
風間がそこまで言うと生贄を捧げたことで隠し扉がでてきた。
風間はモンスターを倒しながら扉の前まで移動する。
「納得ができないのなら、彼を助けに行くといい。生きている保証はないが。俺は生き残る。そのためならなんでもする」
風間は扉を開け外へ出る。
「……俺達も行きましょう」
新庄が後藤を抱える。
深月と町田はもうこの場にはいなかった。
「でも……」
藤里は本当にこれでいいのかと外へ逃げるのを躊躇う。
「藤里さん!」
新庄が大声を出す。
声の大きさに藤里は驚き体をビクッとと揺らす。
「あの高さから落ちたら助かりません。彼の死を無駄にしないためにも俺達は生きて帰らないといけません。それが俺達にできるせめての償いです」
「…….そうね」
藤里達はモンスターの攻撃をなんとかかわしながら扉へと向かい外へと出た。
外に出ると扉は閉まりモンスターは追ってこなかった。
どれだけ時間が経っただろうか。
実は穴に落とされてから結構な時間が経ったが未だに地面に叩きつけられることなく落ち続けていた。
そのせいで実は死の恐怖を長いこと感じさせられた。
早く終わって欲しいと願い目を閉じる。
'仕方ないことだ……それにしても随分と深いな。死ぬ前は走馬灯をよくみると聞いていたのに、全然みないな。真っ暗だ……'
風間がしたことは理解できる。
あの状況なら仕方ないことだ。
一人を犠牲にすれば残りは助かる。
全滅するよりはいい。
風間と逆の立場だったら実だってそうしたかもしれない。
頭では理解できる。
それでも憎まずにはいられない。
どうして自分だったのかと。
他の人でも良かったじゃないか、そう思ってしまった。
実が死ねば養父を捜索することはできなくなる。
帰ってきたとき「おかえり」とお迎えすることもできなくなる。
二度と会うことができなくなる。
'やっぱりこんなところで死なわけにはいかない!なんとしてでも生き延びてやる!'
実はその思いで、服を広げ衝撃を少しでも和らげようとしたそのときだった。
背中が何かに接触した。
そのあとは、腰、お尻、足という順に何かに接触した。
ベチャッ!
実はすぐに理解した。
落ちるところまで落ち地面に叩きつけられたのだと。
「イッタァーッ!」
物凄い勢いで地面と接触したため死ぬかと思っていたが、激痛が全身に走っただけで死にはしなかった。
ハンターとして覚醒したからといっても所詮はE級。
間違いなく死は免れないはずだったが、地面がスライムみたいに柔らかくなっていたお陰で助かった。
「……助かったのか?」
グニャ。
起きあがろうと手を地面につくと柔らかすぎて滑る。
ボフッ!
手が滑ったせいで顔から地面に突っ込む。
「くそっ、起きあがれない……」
地面がスライムみたいなせいのもあるが、全身に激痛が走り痛みで今にも気を失いそうになる。
それでも何とか意識を保てているのは、地面に叩きつけられたとき右足がスライムではなく別の何かにぶつかり折れた痛みのおかげだ。
実は歯を食いしばり這うようにしてダンジョンから出ようとする。
このままここにいては死ぬ。
せっかく助かったのだ。
何としてでも生きてやる!
そう思って外に出ようと這っていたら、後ろから女性の声が聞こえた。
「助けて……」
「誰かいるんですか!?」
声のした方に向かって進む。
「いま行きます!大丈夫ですから、気をしっかりもってください!」
女性の声がどんどん小さくなっていき慌てて叫ぶ。
早く女性のところに行きたいのに体が思うように動かず思うように進めない。
実は女性が気を失わないよう声をかけ続けた。
女性は実の言葉に返事はしなかったが'助けて……家に帰りたい'と同じことを繰り返し呟く。
歩いたら一分もかからない距離を十分以上かけてようやく辿り着く。
「もう大丈夫です。一緒に帰りましょう」
体中の痛みを必死に耐え起き上がり、壁に寄りかかっている女性に話しかける。
女性は実が見えていないのかずっと同じ言葉を繰り返す。
「俺の背中に乗ってください。俺が連れて帰ります」
女性の足が血だらけで歩くのは無理だと判断しそう言った。
実も落ちた衝撃で体中は痛いし右足は骨折して自分一人で歩くのは大変だが、両手は無事なので背中におぶって這っていくのはできる。
「……」
実の言葉が聞こえていないのか女性は動こうとしない。
「失礼します」
さっき落としたモンスターと出会う可能性もあるため、これ以上ここにいるのは危険だと判断し、女性の手を掴む。
女性の腕を自分の首に巻きつけ落ちないよう細心の注意をはらいながら外へと向かっていく。
'あとどれだけ進めば外に出れるんだろ……'
1時間以上も女性を背負いながら暗い道を進むが一向に外へと出れる気配がしない。
もしかして道を間違えたか?
不安になり来た道を引き返そうかと悩む。
'いや、駄目だ。引き返したところで体力がもたない。信じて進むしかない'
実はこの道が正しいと信じて前へと進む。
手の感覚も無くなり視界もぼやけてきて限界が近づいてきたそのとき、微かな光がみえた。
実はその光をみた瞬間、これでもかというくらい目を見開いた。
'助かった!'
実は残りの力を振り絞り光の方へと進む。
進めば進むほど光は強くなる。
「もう少しで外に出れます。頑張ってください」
女性の声がさっきから聞こえなくなっているのに気づいているが、それでも声をかけ励ます。
あと少しだ。
そう思ったとき、外の景色が目に入った。
実は目が熱くなり涙が溢れそうになる。
「俺達助かりましたよ!生きて家族の元に帰れます!」
帰りたい、と女性が言っていたのを思い出しそう言った。
だが、女性からの返事はなかった。
急がないと女性は死ぬ。
もう手の感覚は無くなり血が流れていたが、最後の力を振り絞り実は外へと出る。
ボトッ!
ダンジョンから出ると地面と段差があり倒れる。
勢いよく倒れたが感覚がもうなく痛みも感じない。
実は助けを求めようと周囲を見渡す。
遠く離れたところに黒いスーツを着ている男性を見つけた。
'運営の人だ!助かった!'
運営を見つけホッとした実はそのまま眠るように気を失った。
気を失う前さっきの部屋の声の主ともう一人別の男性の声が聞こえた。
断片的だったが馬鹿にされてるような気がした。