三、 じゅんばんをきめますよ! (2)
「十億円、十億円……」
金田がサイコロをふった。コロコロコロ……白い正方形の中に赤い丸が二つ。
「二が出たわ!」
金田は恐れることなく、カラフルなマスの上へ足を進める。
「おばちゃん、勇気ある!」
「誰がおばちゃんよ! 私はまだ三十代よ!」
浅井の一言にいちいち反応しながら二マス進んだ金田は赤色のマスに止まった。
「赤って何もないのよね」
ちょっと残念そうな金田をよそに、梶がサイコロを手にとる。
「あー……サイコロふるだけなら大丈夫だと思うけれど、あのマスやっぱり怖いな」
梶がおそるおそる、サイコロをふると今度は三が出た。
「青マスだ……ちょっと待てよ。青って一つ戻るんだよな。ってことはあのおばさんと一緒のマスとかごめんなんだけど……」
「だからおばちゃんって言わないで!」
「すみません……お姉さん」
「よろしい」
梶がそうっと、足を踏み出すが、体が震えている。
「あの、金田さん。突き落とすとか争うとか絶対なしでお願いします」
「私を誰だと思っているのよ! そんなことしないわよ」
梶がゆっくり赤マスで止まると少女が口を開いた。
「あ、梶さん。一応、三マス目の青を一度踏んでから後ろのマスに戻ってください」
「えっ、そんな面倒なことすんの⁉️」
「ルールなんで」
「……」
納得いかない顔で、梶が青のマスをゆっくり右足で踏んでから赤マスに戻る。
金田と一定の距離をとる梶。
「何よ、別につき落としたりしないわよ」
「そういうトゲのある言い方をしないで下さい……」
険悪なムードの中、三番手、浅井がサイコロをふる。
五が出た。
「やった、私が一番! 1、2、3、4……あれ」
浅井の足が止まった。
「緑だ」
「あっ、ボーナスチャレンジですね!」
少女は浮いたまま、浅井の近くまでやってくる。すると浅井が立っているすぐ側に例のルーレットが現れた。
「スタート!」
少女の声と共に、ルーレットが回りだす。
「どうやって止めるの⁉️」
「ストップと言ったら、ゆっくり止まります」
「ストップ!」
浅井の大きな声が、響くのかと思いきや、マグマに吸収されたのか声は響かない。空は真っ黒だ。ここはいったいどういった空間なのかと温田が真っ暗な空なのか何なのかわからない上空を見上げた。
ルーレットはやがて、止まる。
『自分以外の人、一人をスタートに戻す』
が選択された。
「えっ、そんなの決まってるじゃない。金田さん」
「ちょっとなんで私なのよ!」
「はい、金田増実さん、スタートへ戻ります!」
少女がステッキをふると、瞬間移動で、金田が温田のすぐとなりに現れる。
「くやしいぃぃぃぃ!」
「まだ序盤だからいいじゃないですか」
少女の励ましが聞こえているのか聞こえていないのかワナワナしている金田の横でぼんやりとしている温田にサイコロが手渡された。
「はあ……私はいったい何をやっているんだ」
「あれ、ふらないんですか? 制限時間は三十秒です。その間にサイコロをふらなければ、ゲーム失格になります」
「え……」
『残り二十秒』
誰の声なのか天からアナウンスが流れる。
「誰の声⁉️」
「気持ち悪いなぁ」
梶が天を仰ぐと、浅井も金田も同じく上を向く。
下を向いていた温田が
「仕方ない。これは夢だ」
とサイコロを手放した。出た目は六だ。
六はさきほどの浅井の五の一つ向こう。あれ、赤だ。
「何もないのか」
「ちょっと私だけ出遅れてるじゃない」
金田の声を無視して、静かに温田は歩きだす。二マス目の梶と五マス目の浅井の横を通り過ぎる時に、チラリと二人を一瞥したが、下を向いて歩く。やがて六マス目に止まった。
「1ターン終了ね」
ふわふわと浮いている少女に向かって
「なあ、これゴールって一体どこなんだ?」と問いかける梶。
「ゴールは百マス目よ」
目視では見えないほど遠い。
「随分先だなぁ」
「えっ、じゃあ九十九マス目にいる時にスタートに戻るなんてこともあるの⁉️」
スタート地点、一人だけ岩場にいる金田が少女の方を向く。
「もちろんあるわよ」
「鬼畜だな」
梶がため息をついた。
「ねぇ、この先、本当に細くなっているところがあるんだけれど……」
五マス目にいる浅井が目を凝らす。
「そうよ。四十くらいのところかしらね。あの辺りは幅が二十センチしかないマスになっているから」
「二十センチってそんな当たり前のように言わないでよ」