森へ着いた後、以前のように愛欲のサラサリズを探す為に探索を開始する。
そして暫くして……
「いました!、リバスト護衛騎士隊長達です!」
「良く見つけた!全員三人一組で相手をするように心掛け、攻撃の手を緩めるな!相手はリバスト護衛騎士隊長と隊長が選んだ精鋭達だ!拘束して無力化するとはいえ、少しでも油断すると死ぬぞ!」
「は、承知いたしました!」
護衛騎士からの報告を聞いたジョルジュが、即座に指示を出す。
それに従い各々が森の中で戦うのに適した長さの武器を手に取ると、覚悟を決めた表情を浮かべてリバスト護衛騎士隊長達へと向かって雄たけびを上げながら走り出した。
「へぇ、ジョルジュあなた……やるじゃない、一時的な護衛騎士隊長代理では無くて、王都の屋敷に着いたらマリウスに連絡を入れて護衛騎士隊長に正式に任命してあげてもいいわよ?」
「……ありがとうございます、ですが私はまだまだ未熟な身、リバスト護衛騎士隊長を越える事が出来たと、マリウス様が判断なされたら、喜んでその任を王家致します」
「あら、つまらないわね……、普通こういうのは喜ぶべきだと私は思うのだけど?」
「アデレード様、ジョルジュはこういう男なのです……どうかご容赦ください」
焦りながらお母様の提案を、遠回しに断るジョルジュのフォローするようにヘルガが口を挟む。
その姿は戦闘が始まったというのに、少しばかり仲睦まじく見えて、笑ってはいけないと分かっているのに笑みが零れそうになる。
「……ジョルジュ、あなた良い未来の奥さんを捕まえたわね」
「マリス様、今は戦闘中ですので気をゆるめないでください」
「いや、おかげで緊緊張の糸がほぐれたよ」
「シルヴァ王子まで……、ふぅ、取り合えず私達のやり取りが良い方向に行ったなら良かったです」
そう言いながらも困ったように苦笑いを浮かべるけど、直ぐに真面目な顔に戻り私達を見ると
「……では、お話はこれくらいにして私達は愛欲のサラサリズの元へ向かいましょう」
「えぇ、けどその前にお母様、雷の魔法でリバスト護衛騎士隊長達を痺れさせる事って出来るかしら?」
「……んー、私は魔法の細かい出力調整が苦手だから、止めた方が方がいいわね、痺れさせようとしたら威力が高すぎて死ぬか、低すぎて効果が無いかのどちらかね」
「マリス様、護衛騎士達を信じてあげてください、彼等の実力は共にモンスターの討伐を行って来た私が一番理解しているから大丈夫ですよ」
「ヘルガ……、あなたがそこまで言うなら信じるわ」
確かに彼等の能力は、一緒に行動して来たヘルガやジョルジュが一番分かっている筈。
だから私があれこれ考えて提案するよりも、ここは任せてしまった方がいい気がして……そう思いながら戦闘中の護衛騎士達から離れる。
そして暫く歩くと、唐突にシルヴァが早足になって私達の前に出ると、真剣な表情を浮かべて立ち止まった。
「ごめん皆……、今更言うのは良くないと分かってるんだけど、実は……俺にはサラサリズを呼び出す方法があるんだ、だからついて来て貰ってもいいかな」
「……シルヴァ王子?それはどういう事ですか?」
「ついて来てくれたわ分かるよ」
「そこまで言うという事は、余程の自身があるのね……分かったわ、シルヴァ王子について行きましょう」
「アデレード様、ありがとうございます」
サラサリズを呼び出す方法って何だろう。
どんなやり方なのか、考えては見るけど全然思いつかなくて、少しばかりもどかしい気持ちになる。
こういう時、直接聞いて方が良いと思うけど、シルヴァがついて来てくれたら分かるって言っている以上、彼を信じてあげた方が良いのかもしれない。
そう思いながら彼の後ろについて行くと、徐々に周囲に樹々が無くなって行き、開けた場所出たけど、その中央付近にはボロボロになった馬車と死体が転がってるのが見えて……
「……シルヴァ、ここってもしかして」
「マリス、君の考えている通りだよ……俺はここで野盗に襲われたんだ、あそこに転がっている亡骸は全て俺を守る為に犠牲になった護衛達だよ」
「どうしてこんなところに私達を連れて来たの?シルヴァからしたら近づくだけでも辛いと思うんだけど?」
「確かに辛いさ、けどね……マリス達について来てここが近い事に気付いたんだ、気付いていたと思うけど道中の樹に切り傷がついていただろ?あれは俺の剣がダメになるまでの間、目印として付けたものでさ、それで思ったんだよ、ここで俺が立派に戦って一人でも大丈夫な事を見せれば亡くなった彼等も、安心して眠れるんじゃないかなって……だから」
シルヴァがズボンのポケットから綺麗に折りたたまれた一枚の紙を取り出すと、私達に見えるようにゆっくりと広げ始める。
「シルヴァ、もしかしてこれって……」
「うん、セレスティア……妹を縛っている奴隷契約の書類だよ、アーロから聞いたよ、これを破ればサラサリズを呼び出す事が出来るって」
「へぇ、シルヴァ王子、あなた考えたわね……、その為に私達をここに連れて来たのね?」
「はい、ここにいる戦力なら魔族に勝てる、そしてマリスの使い魔に出来ると信じています、それに、この書類を破棄すれば意識の無い妹は目を覚ましてくれる」
「……そこまで言うなら分かったわ、シルヴァ、あなたがそこまで考えて行動したんだもの、私も戦えるかは分からないけど出来る限り頑張ってみるわ」
本来なら、自身の血液を触媒にして魔力を確保するとはいえ、サラサリズを使い魔にするのに必要な分は残した方がいいだろう。
でも……彼がそこまでの覚悟を持って行動しているのなら力ないなりたい。
そう思った私は、ヘルガから一本の短剣を受け取り戦う為の準備を始めた。