二人でテントを出た後、特にお互いに話す事も無く小屋に戻ると、先に戻っていると思っていたアーロとヘルガがいない。
もしかして、まだ外で怒られているのかもと心配になるけど、それ以上にシルヴァと二人きりになっているこの状況に戸惑ってしまう。
「……取り合えず、このまま寝るかい?」
「え?ね、寝る!?」
「……?シルヴィ?」
二人きりで寝るって言われて勘違いしてしまうのはしょうがないと思う。
だって、私自身は身体の年齢は十代前半でも、精神的な年齢は一回り以上あるわけで……そうなると、年頃の男女が同じ部屋で寝るってなると色々と考えてしまうのはしょうがない気がする。
「顔が赤いけど、もしかして……明日の事で緊張して熱を出したのかい?」
「そうじゃなくて、えっと……」
「……?」
「ただそう、疲れただけ、会議が無さ過ぎて疲れただけだから気にしないで!」
「そんな事言われたら尚の事心配になるよ、取り合えず君が寝るまで手を握っておいてあげるから、悪化しないうちに休んだ方がいい」
そう言いながら私の手を優しく握ると、ゆっくりとベッドへ誘導していく。
「大丈夫?一人で横になれるかい?」
「あの……えっと、体調が悪いわけじゃないの……それに手を握って貰えないと眠れないような歳じゃないし……」
「……そういう体調が悪いのに、平気な振りをするところ妹にそっくりだね、セレスティアも良くそう言いながら横になっては、俺の手を握って話しているうちに俺が心配になる位に無防備な寝顔で寝てしまってね」
「……あっ」
シルヴァのその言葉を聞いて、過去の出来事を思い出す。
やり直す前の人生で学園で二人でいる時に時折、何処か懐かしむような、でも何故か愁いを帯びた表情で私を見つめて来た理由が、今なら分かる気がする。
あの時の彼はたぶん、助ける事が出来なかった妹と私を重ね合わせていたのかもしれない。
「……本当に大丈夫かい?」
「うん、でも……私はセレスティア王女とは別の人よ?だから……似てるからって同じように扱われるのは嫌だわ」
「……ごめん」
申し訳なさそうにシルヴァが目を逸らした後、互いに何かを話す訳でもなくお互いに気まずさを感じさせる静寂が場を支配する。
「それにしてもアーロとヘルガの帰りが遅いわね、どうしたのかしら」
さすがにこのままだと良くない気がして、思いついた事を話して見たけど……本当にアーロとヘルガは何時になったら帰って来るんだろう。
「彼なら俺の頼みを聞いてくれていたらセレスティアのところにいるから、戻って来ないんじゃないかな」
「……え?」
シルヴァの頼みを聞いていたらセレスティア王女のところにいるから小屋に戻って来ない?その言葉の意味が理解出来なくて、思わずベッドから身体を起こしてしまう。
「じゃあ……ヘルガは?」
「彼女は……分からないかな、もしかしたら俺達を二人きりにしようと気を使ってくれて──」
「る訳ないです、ただアーロから事情を聴いていただけなので」
すると、小屋の扉が開いてヘルガが中に入って来る。
その姿を見た私は、この気まずさから逃げる為に小走りで近づくと彼女の腕に抱き着く。
「ヘルガ!遅かったわね」
「申し訳ございません、思いの外話が長くなってしまいまして……、シルヴァ王子、いくら友人関係とはいえ何故、マリス様の従者でもあるアーロにセレスティア王女の護衛を頼んだのか答えて頂いてよろしいでしょうか」
「それに関して、小屋に戻って落ち着いてから話そうと思っていたけど、マリスの体調が悪そうだったから、話すタイミングを失っていてね」
「体調を……?マリス様、本当ですか?」
「えっと……うん、少しだけ疲れちゃったみたいで」
真意を確かめるようにしゃがんで私と視線を合わせると、私のおでこに触れて体温を測るように眼を閉じる。
けど……
「……こうすれば子供の体温の変化が分かるから、それで色々と判断出来ると昔母から教わったのですが、全然分かりませんね」
「もう、ヘルガ……だから私は少し疲れちゃっただけだから大丈夫よ?」
「すいません、私が心配し過ぎてしまったみたいです」
「いえ、でも……嬉しかったわ、ありがとうヘルガ」
「これくらい、あなたの護衛騎士としては当然の事ですので」
体調がそこまで悪い無い事に安心したのか、頬を染める私の頭を撫でながら優しい表情を浮かべているヘルガに安心感を覚える。
けど、眼だけはシルヴァを警戒しているのか笑っていなくて……。
「……取り合えず、これで俺に対する警戒を解いて貰えるかな、護衛騎士ヘルガ」
「えぇ、ですが、アーロについての説明はして貰います」
「それは当然話すよ、ここで彼からサラサリズの事を聞いてもしかしたら、妹を再び手中に収める為に襲われるかもしれない、そう思ったら居ても立っても居られない気持ちになってしまってね」
「……だから、私の従者で従騎士のアーロをセレスティア王女の元へ送ったの?」
「……この行動が非常識である事も分かっている、けどもしもの時に信頼が出来る友人に妹を守って欲しかったんだ、この通りだ……事後報告になって申し訳ないけど、アーロを貸して欲しい」
そう言葉にしながら私に対して頭を下げるシルヴァを見て、彼の妹に対する真剣な思いを感じた私は無言で頷いた。