「という訳で、作り替えられた相手は殺すしか無いけれど、私の魔法でサラサリズを痺れさせて、ヘルガの武器で弱らせた後に、マリスが自身の魔力で契約して使い魔にすれば勝機はあるわね」
「ですが、マリス様に契約して頂くとはいえ、魔力の方はどうするのですか?」
「それなら問題無いわ、ピュルガトワール家の血統魔法は呪術と空間魔法よ?呪術の触媒に自身の血液を使って魔族を使役するのに足りない魔力を補えばいけるは……」
現状、私が使える魔法を考えながら二人の前で使おうとしても、この身体では魔力が足りなくて発動をする事が出来なかった。
その為に、サラサリズをどういう手段で使い魔にするのかを話している時だった、テントの外から誰かの足音が近づいて来る。
それもゆっくりとしたものではなく、足早に土の上を歩くような荒い音で……。
「……誰か来たようね」
「ヘルガ、誰か確認してきて貰っていいかしら?」
「いえ、この足音、金属製の鎧では無いので、従騎士かシルヴァ王子のどちらかだと思いますので、確認しなくても問題は無いと思います」
「……足音とかで分かるの?」
「えぇ、モンスター討伐の際、味方が何処にいるのか確認する為に必要なので」
それでも誰かが何処にいるのかが直ぐに分かるのは凄いと思う。
「マリス、アデレード様!アーロから話を聞きましたが、どういうことですか!」
外から声を荒げたシルヴァがテントの中に入って来る。
「シルヴァ、落ち着けって!いきなりどうしたんだよ!」
それに続いて焦った表情を浮かべたアーロが、シルヴァを追いかけて入って来るけれど、余程精神的な余裕が無いのか。
口調が荒っぽくなっていて、友人とは言え公の場で王族に話しかけていい言葉づかいでは無い。
ヘルガもそう判断したのか、アーロの首根っこを掴んで持ち上げると、私達に向かって頭を下げてテントの外へと出て行ってしまう。
「……あなた達、大事な会議中に声を荒げて入って来るなんて、どういうつもりなの?」
「……アデレード様、話し合いの最中に失礼致します、マリスもいきなり入って来て申し訳ない」
「いえ、構わないわ、それよりもシルヴァ様、いったい何があったのか教えて貰えないかしら?」
普段は落ち付いて冷静な態度を崩さないシルヴァが言葉を荒げるという事は、余程の事があったのかもしれない。
「けどその前に、一度深呼吸をして落ち着いた方がいいわよ?今のシルヴァ王子は精神的に余裕が無さそうだもの」
「……ありがとう、マリス」
私の言葉を聞いて、小さく笑みを作るとゆっくりと深呼吸を繰り返す。
そして体の余分な力が抜けて脱力した状態になると、何故かこちらの方を見て
「何だか、君と話していると気持ちが落ち着くね……まるで、俺の扱いを理解しているみたいで、安心して手綱を預けたくなりそうだよ」
と安心しきった表情を浮かべて来る。
……シルヴァの扱いを理解しているのは、一番最初の人生で長い学園生活を共に過ごしたりしたからだけど、正直ここまで出来るようになるのには凄い時間が掛かった。
彼の好きな場所や食べ物、音楽に話題、惹かれ合って一緒にいるうちに理解は出来たけれど、知る事が出来ても当時の私は料理何てした事無くて、それでも食べて貰おうと学園内の食堂で、職員に無理を言って使わせてもらい指に何度も切り傷を作りながら作ったりもした。
その度に、無理をしたり怪我をするような事をしないで欲しいと心配させてしまったりとかもしたけれど、上達する度に褒めてくれたし、嬉しくなって頬を染めた私の頭を愛おし気に撫でてくれるのが幸せだったから頑張れたんだと思う。
特に、あの頃は彼の為になら何でもしてあげたい、何でも受け入れたいという想いがあって……、そんな気持ちからシルヴァを知る努力をした結果だ。
「……へぇ」
「お母様?」
「ふふ、何でも無いわ……、ただそうね、へぇ」
「アデレード様?」
「お二人を見ていたら、ここはマリスの母として尚の事、サラサリズの件について頑張らないといけないなって気が引き締まったわ」
そう言葉にしながら私とシルヴァの頭を撫でるお母様の表情は、まるで私達を祝福してくれているようで複雑な気持ちになる。
祝福してくれるのは嬉しい、でもこの人生で私達が再び惹かれ合い婚約関係になってしまったら、やり直す前の人生と同じ流れになってしまうかもしれない。
そうなってしまったら、何度やり直しをしようにも取り返しがつかないだろう……、特に魔導書で死に戻りを経験して来た歴代の領主の情報を見ると、自分で戻る場所を選ぶことが出来ない。
たぶんだけど、今この時間軸において起きている出来事を回避できるタイミングにしか戻れないんだと思う。
「シルヴァ王子、落ち着いたのなら取り合えずアーロから何を聞いて貰ったのか教えて貰っていいかしら?」
「……あぁ、アーロからマリスに関する事を聞いたけれど、君は……妹のセレスティアを奴隷契約から解放する為に【愛欲のサラサリズ】という名の魔族を討伐するそうじゃないか……、どうしてそんな大事な事を俺に相談もせずに勝手に決めてしまうんだい?」
「……討伐?いえ、私達はサラサリズを使い魔として使役するつもりですよ?」
「……?ちょっと待ってくれ、それはどういう事か説明して貰えないか?」
説明して欲しいと言われても、その言葉の通りだとしか言えない。
それに内容を詳しく説明してしまったら、シルヴァも一緒に行くと言い出しそうで……もしそうなってしまったら、彼を危険な場所に送る事になる。
けど……説明を求められた以上は黙っている訳にはいかないと思いながら、先程までの会議の流れを説明することにした。