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第36話

 ヘルガさんが小屋に来たと思ったら、マリスの指示で魔導書が取りに来たと言われた。

あいつの事だから、信頼できる相手だと判断して死に戻りの事を話す事にしたんだろうけど、何だか胸の辺りがもやもやする。

なんつーか、二人だけの秘密だったのに……それを他の人にも共有するって言うのが嫌だって言うか。

勿論、これが俺の我が儘だって言うのは分かっているんだけどさ。


「……うーん」

「アーロ、そんなに唸ってどうしたんだい?」

「シルヴァ、えっと……何でもない」


 俺の前に座っているシルヴァが困ったような表情を浮かべながら俺の方を見る。

……心配して声を掛けてくれたのに、何でもないって言われたらそうなるのはしょうがないけれど、俺は俺で人に言えない事情があるからこればっかりはしょうがない。


「何でもないと言われたら、それこそ言えないような事があると言っているようなものじゃないか?」


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、心配げにそう尋ねて来るけれど……いくら友達になったとはいえ、あれこれとこいつに話す訳にはいかない。

マリスが死に戻りの力を得る前の人生で、お互いに惹かれ合って婚約関係になったのも聞いたから知ってる。

魔族に操られた結果、シルヴァを殺す事になったのもちゃんと覚えてる。

これに関して、こいつが悪い、あいつが悪いとかいう気も無いけど、結果はどうであれ死に戻りをする前の出来事が、マリスを傷付けてトラウマになってんだろうなって言う事くらい、馬鹿な俺でも分かる。


「……現にアーロ、今の君は出会ったばかりで付き合いが短い俺にも分かる位に顔色が悪いじゃないか」


 だからこそ本当は、二人は出会わない方が良かったんだと思う。

俺には死に戻り何て経験した事が無いから理解が出来ないけど、会ってしまえばマリスは辛い気持ちになるだろうし、思い出さなくて良い事を思い出してしまう筈。

けど、そんな俺の思いが都合よく天に届く事がなんかくて出会ってしまった。

本当なら突っぱねた方が良いって分かってるんだけど、この通り気遣いとか出来る良い奴だし、何よりも捕まって奴隷にされてしまった妹を助ける為に、遥々王都からここまで従者を連れて助けに来たと知ったら、そんな事出来るわけない。


「言いづらかったら別に言わなくても構わない、けれど……アーロ、君が俺の友達だと言うのなら話せるところだけでも話してくれないかな」

「おまえ……、そんな言い方するのは卑怯だろ、友達にそんな事を言われて断れるわけがないだろ」

「はは、それは申し訳ないね、けど王族である以上はある程度卑怯になれないと生きていけないんだよ」

「……何て言うか、シルヴァも苦労してんだな」


 卑怯になれないと生きていけないという言葉を聞いて色々と考えては見るけれど、平民の俺ではシルヴァの環境を想像する事が出来ない。

貴族の生活については使用人になった際に、実際にこの目で見てある程度の理解は出来たし、環境やの厳しさや責任の重さに関しては従騎士になった際の教育で頭に叩き込まれたけど、分かっている事と実際に経験した事は別だし、それくらいは俺でも分かる。


「確かに苦労はしてるとは思うけど、俺からしたらアーロの方が苦労してると思うかな、平民から使用人になって更には従騎士で、正式に騎士になったらマリス専属の騎士になるんだろ?生まれながら王族の俺なんかでは理解出来ない苦労をしてるんじゃないかな」

「……苦労なんかしてねぇよ、マリス……様の力になりたいだけだし、その為に必要だからやってるだけだから」

「俺だったらそこまで出来る気がしないよ、確かにマリスにはセレスティアを助けて貰った恩があるし、個人的にも興味がある……でも、それとこれとは別さ、王族である以上ある程度は損得で考えなければいけないからね」

「……何かめんどくさいんだな」

「そうとも……、だから貴族の間に広がっている物語のように王子に見初められて婚約とかは起きないし、仮に俺が誰かに恋心を抱いたとしても叶わずに、父が決めた相手と政略結婚するだけさ」


 という事はマリスも何れ政略結婚とやらをするのか。

そう思うと先程の考えから手のひらを反すようで良くないけど、マリスとシルヴァが出会ったのは正解だったのかもしれない。


「という訳でさ、俺の事をこうやって聞いたんだからアーロ、今度は君が話す順番だよ、護衛騎士のヘルガがマリスの指示で魔導書を取りに来て、君があんな気になるような反応をしていたんだ、事情は分からないけれど話せるところだけでいいから話してくれないかな」

「……あぁもう、分かった、分かったよ!けど大まかな部分しか言わねぇからな!」

「あぁ、それで構わないよ」

「なら……話すけどよ、まずセレスティアを奴隷契約で縛っている魔族【愛欲のサラサリズ】についてなんだけど──」


 話せるところだけでいいとは言うけれど、何処まで話せばいいんだろうか。

俺にはそこの線引きが分からない、でも死に戻りに関して説明しなければ問題無いと思う。

けど話せば話す程、険しい表情になって行くシルヴァを見て、もしかしたら余計な事まで話してしまった気がして不安になった。

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