「……浄化は出来ないわね、長い時を生きた魔族程自身の元になった欲をコントロールして自身の渇きを魔力へと変換する事が出来るようになるの、そうなってしまったらどんなに犠牲が出たとしても討伐する方を選ぶしかないわ」
「でもお母様、浄化は出来なくても弱体化させる事ができるのでは?」
「そうね、一時的に弱らせる事は出来るわ……けど、自身の欲を自分でコントロールする事が出来るようになった存在が、その程度で討伐出来るとは思わない方がいいわ」
確かにお母様の言う通りだけれど、少しでも弱体化させる事が出来るなら被害を減らせる事が出来ると思う。
「けど、私としては絶対にお勧めしたくない手段ならあるわ」
「アデレード様、その手段とはいったいどういうものなのですか?」
「……マリス、ヘルガ、あなたはこの国の外の事を知っているかしら?」
「いえ、私はピュルガトワール領の護衛騎士として仕えておりますので、外国の情事は……」
「お母様、私も分からないわ」
どうしてここで外の国を話題に出すのか、たぶんお母様なりの考えがあるのかもしれないけど、私が知っている事と言うと、以前の人生で魔王になってしまった際に勇者を派遣して来たくらいだ。
それ以外には特に記憶に残る事は無いというか、当時近くにいて私の補佐役をしていた魔族【独占のマドシュラム】が全て対処してくれていた。
行商人を名乗り尋ねに来て私を魔王にし、最後に死ぬ事になるきっかけを与えたフューネリア。
お母様が教えてくれた事を頭に入れたうえで当時の事を考えると、彼女は最後まで自身の欲を私に明かさなかった事になる。
「分からないなら別にいいの、この国の外では魔族と完全にとはいかないけれど共生関係を築いている国があるわ」
「アデレード様、それはどういう事ですか?魔族は全人類の敵の筈です」
「えぇ、全世界の敵よ?けど、全ての人類が同じ考えでは無いの、例えば海を越えて遥かな西にある砂漠と呼ばれる過酷な地には、【傲慢の魔王】シルヴィア・ヴァネッサ・レジーナと呼ばれる特別な魔族がいるらしいのだけれど、その地域の国では彼女の命令を何でも聞く代わりに外敵から守って貰ってるそうよ」
「……命令をですか」
「えぇ、その命令はとても理不尽なもので、従う事が出来なかった国が滅びる事が過去に何度もあったそうよ」
……他の国の魔王の事を今まで聞いた事が無かった。
「魔王、ですか……」
「つまりお母様が私達に伝えたいのは、条件さえ満たせば愛欲のサラサリズと戦わなくても、味方にする事が出来るかもしれないって言う事かしら?」
「えぇ、その通りよ……、けど私としてはお勧めしたく無いわね、護衛騎士隊長のリバストを殺害し自身の傀儡にした相手よ?それに危険な魔族と一緒にいる何て、もうごめんだわ」
「……お母様」
魔族の行商人である飢餓のリプカを通じて、突然行方不明になったお姉様を探す為に使う呪術の道具を集めていた時の事を、思い出しているのかもしれない。
あの時の事は決して褒められるような事では無いけれど、お母様からしたら藁にも縋るような思いで、手段を選ぶような事が出来なかったのだと思う。
「ならお母様、私……思いついた事があるのだけれど……」
「……?マリス、何を思いついたのかしら?」
「お母様が言ってたでしょう?状況さえ整えれば使い魔として人の手で近い存在を生みだす事は出来るって、それってつまり、条件次第では魔族を使い魔にする事が出来るんじゃないかしら?」
「……面白いわね、それならモンスターを使役する時に使うのと同じやり方を応用すれば行けると思うわよ?弱った相手い術者の魔力で屈服させ、自分が主だという証を魂に刻み込むのだけれど、魔族にも使えるんじゃないかしら?」
確かにその方法で使役出来るのなら、サラサリズを弱らせる事さえ出来ればいい。
この方法でなら戦闘になっても負傷者を減らす事が出来るし、作り替えられてしまったリバスト達を助ける事が出来るかも。
「……ちょっと、私にはお二人が何を話してるのかは分かりませんけど、サラサリズを討伐しないって事ですか?」
「えぇ、ヘルガ……私はサラサリズを使役……あなたに分かるように言うと奴隷にするわ、そうすればリバスト達を助けられるかもしれないの」
「……?マリス様、亡くなった人は助けても蘇りませんよ?」
「それくらい分かってるわよ?ただ……魔族の傀儡として生きるよりは人として死なせてあげたいでしょ?」
助けると言っても私達に出来る事は、リバスト達を安らかに眠らせてあげる事だけだ。
既に彼等の精神が上書きされて、誰からも当然のように愛され、求められるがままに愛される為に、そして誰かに必要とされ、満たされぬ思いを満たすために、【愛欲のサラサリズ】を愛する為の傀儡になってしまっている。
だからこそ、痛い思いをさせることなく楽にしてあげたいと思うのは強欲だろうか。
「承知いたしました、マリス様のお気遣いに感謝いたします」
「さて、取り合えず方針は決まったわね、じゃあ後はどうやってその状況に持ち込むのか考えないとだけど……、実は私に良い考えがあるの」
お母様が扇を広げて口元を隠すと、指先に電流を纏い不敵な笑みを零した。